(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月30日19時25分
和歌山下津港外港の港界付近
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第二十一菱丸 |
漁船真理紗丸 |
総トン数 |
498トン |
6.6トン |
全長 |
60.23メートル |
13.89メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
389キロワット |
3 事実の経過
第二十一菱丸(以下「菱丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人ほか5人が乗り組み、A重油1,080キロリットルを積載し、船首3.00メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成15年8月30日19時15分ごろ和歌山下津港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して熊本県八代港に向かった。
A受審人は、下津航路を出て、19時20分ツブネ鼻灯台から208度(真方位、以下同じ。)740メートルの地点で、針路を283度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
定針したとき、A受審人は、左舷船首21度1.6海里に、真理紗丸の掲げる白、緑2灯を視認することができる状況であったが、左舷方の石油コンビナート等施設の明かりに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、真理紗丸に気付かず、その後、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かないまま続航した。
A受審人は、警告信号を行わないで進行し、その後、真理紗丸と間近に接近し、同船の動作のみでは衝突を避けることができない状況となったが、この状況に気付かず、速やかに行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないで続航した。
19時25分わずか前A受審人は、左舷船首至近に迫った真理紗丸に気付き、急ぎ右舵一杯としたが効なく、19時25分ツブネ鼻灯台から262度2,020メートルの地点において、菱丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部に、真理紗丸の船首部が前方から44度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、真理紗丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成6年5月11日一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が、単独で乗り組み、同15年8月30日10時30分船首0.50メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、和歌山市毛見(けみ)の琴の浦錨地を発し、日ノ御埼沖合で一本釣りを行い、17時50分操業を切り上げて帰途についた。
B受審人は、帰航中、和歌山下津港港外の地ノ島付近で同業者が多数操業しているのを見てタチウオのひき縄釣りを行うこととし、しばらく操業したが、釣果が思わしくなかったことから、ツブネ鼻付近で操業することを思いたち、19時20分航行中の動力船の灯火を表示し、下津沖ノ島灯台から046度1,140メートルの地点を発し、針路を059度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
定針したとき、B受審人は、右舷船首23度1.6海里に、菱丸の掲げる白、白、紅3灯を視認することができる状況であったが、錨泊する内航船や操業漁船に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、菱丸に気付かず、その後、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かないまま同船の進路を避けないで続航した。
B受審人は、19時25分わずか前右舷船首方至近に、菱丸を初めて認め、機関停止としたが効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、菱丸は、左舷舷側ハンドレールに擦過傷を生じ、真理紗丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、和歌山下津港外港の港界付近において、真理紗丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る菱丸の進路を避けなかったことによって発生したが、菱丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、和歌山下津港外港の港界付近を航行する場合、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、錨泊する内航船や操業漁船に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、菱丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、自船の船首部を圧壊し、菱丸の左舷舷側ハンドレールに擦過傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、和歌山下津港外港の港界付近を航行する場合、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷方の石油コンビナート等施設の明かりに気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、真理紗丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。