(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月13日00時39分
大阪湾北西部平磯灯標南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船ふじくら |
|
総トン数 |
494トン |
|
全長 |
75.23メートル |
|
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
735キロワット |
|
船種船名 |
引船早瀬丸 |
台船天佑 |
総トン数 |
298トン |
8,484トン |
全長 |
75.23メートル |
148.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
2,647キロワット |
|
船種船名 |
引船早鞆丸 |
|
総トン数 |
196.37トン |
|
登録長 |
28.37メートル |
|
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
2,059キロワット |
|
3 事実の経過
ふじくらは、専ら鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人、B指定海難関係人ほか2人が乗り組み、鋼材960トンを積載し、船首2.4メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、平成14年11月12日04時00分名古屋港を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及びB指定海難関係人の3人による単独4時間の輪番制とし、19時10分和歌山県市江埼北方沖合で船橋当直に就き、23時30分洲本沖灯浮標南東方0.5海里の地点で、昇橋したB指定海難関係人に当直を任せることとしたが、無資格の同指定海難関係人に対し、居眠り運航を防止するため、眠気を催したときには速やかに報告して船長を船橋に呼ぶよう指示することなく、明石海峡航路東方灯浮標(以下「東方灯浮標」という。)までの針路と同灯浮標付近に達したら起こすよう伝えて降橋し、自室で休息した。
ところで、ふじくらは、東播磨港と京浜港などとの間で月あたり7回ほどの航海を行い、同船乗組員は、荷役作業を陸側の作業員に任せ、休養を十分にとれる態勢となっていたものの、B指定海難関係人は、当時個人的な悩みを抱え、睡眠が十分にとれず寝不足の状態となっていた。
さらに、ふじくらは、設定した時間が経過するとブザーが鳴る居眠り防止装置を船橋に装備し、日没から日出まで同装置を使用することとしていたものの、当直者が同装置のスイッチを入れ忘れることがあった。
B指定海難関係人は、引継ぎを受けたのち、単独で船橋当直に就き、翌13日00時10分平磯灯標から184度(真方位、以下同じ。)6.9海里の地点で、針路を東方灯浮標のやや西に向く013度に定めて、機関を全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を表示し、11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
定針したのち、B指定海難関係人は、船橋前面ほぼ中央にあるいすに腰掛けていたが、00時15分ころ東方灯浮標まで約4海里となり、船長の昇橋地点が近くなったのでいすを離れ、同いす後方の操舵スタンドに前方を向いて寄りかかり、居眠り防止装置のスイッチを入れないまま、見張りを続けるうち、周囲に気にかかる船舶を見かけなかったことや海上が平穏であったことから気が緩み、急に眠気を催すようになったが、船長に報告することもなく、いつしか居眠りに陥った。
00時27分B指定海難関係人は、平磯灯標から177度4.0海里の地点に達したとき、右舷船首12度2.0海里のところに、早瀬丸及び同船に曳航された天佑並びに早鞆丸(以下「引船列」という。)の白、白、白の連掲灯、左舷灯、緑色閃光灯及び天佑の左舷灯、船尾灯などを視認することができ、その後引船列の方位がほとんど変わらず前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りしていてこのことに気付かず、引船列の進路を避けないまま続航中、00時39分平磯灯標から158度1.9海里の地点において、ふじくらは、原針路原速力のまま、その船首が天佑の左舷船首部に、後方から63度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、潮流は微弱であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目を覚まし、事後の措置にあたった。
また、早瀬丸は、船体中央部やや前方に船橋を備えた鋼製引船で、C受審人ほか5人が乗り組み、高さ約62メートル総重量約550トンのコンテナクレーンを載せ、船首5.4メートル船尾5.6メートルの喫水となった無人の台船天佑を船尾に、同船左舷船尾に船首2.1メートル船尾3.2メートルの喫水となった補助引船早鞆丸を引き、船首3.0メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、11月10日11時05分名古屋港を発し、早瀬丸の船尾から天佑の船尾端までの長さを519メートルの引船列とし、広島県広島港に向かった。
C受審人は、曳航索として早瀬丸の船尾から伸出した直径55ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ350メートルのワイヤーロープにシャックルを介して直径105ミリ長さ40メートルのナイロン製クッションロープを接続し、天佑の船首部両舷からそれぞれ繰り出した直径20ミリ長さ40メートルのブライドルチェーンとY字状に連結して前示の長さとし、さらに転針の際の補助に備える目的で、機関を中立とした早鞆丸を、天佑の左舷船尾に係留索でつなぎ、曳航作業の指揮にあたった。
ところで、早瀬丸の船橋当直体制は、2直2名6時間の輪番制とし、C受審人と通信長及び一等航海士と甲板長の2組が交替で入直し、交替時刻の45分前には次直者に引き継ぐこととしていた。
同月12日17時30分C受審人は、友ケ島水道南方沖合を航行中、大阪湾海上交通センター(以下「大阪マーチス」という。)への位置通報を控え、ワイヤーロープを巻いて早瀬丸の船尾から天佑の船尾端までの長さを271メートルに短縮し、22時09分ASラインを通過して大阪マーチスへ通報し、23時15分洲本沖灯浮標南東方0.5海里で、一等航海士に船橋当直を引き継いだのち降橋し、自室で休息した。
23時55分一等航海士は、平磯灯標から163度3.8海里の地点において、東方灯浮標を左舷側0.5海里に離すため針路を010度とし、明石海峡航路入航予定時刻に合わせ速力を調整し、翌13日00時00分側方警戒業務に就いたあかつき2を早瀬丸の船首方1.0海里に配置して、早瀬丸に白、白、白の連掲灯、両舷灯、船尾灯、引船灯のほかマスト頂部に緑色閃光灯、天佑にバッテリー電源による両舷灯、船尾灯のほか両舷側に各4個の点滅灯を点灯して進行した。
00時23分ころC受審人は、平磯灯標から152度2.6海里の地点において、再び昇橋し、一等航海士から当直を引き継ぎ、操船の指揮にあたり、同時25分平磯灯標から153度2.5海里の地点に達したとき、明石海峡航路東口北端やや右に向首して針路を310度に定め、3.2ノットの速力で、手動操舵により続航した。
00時27分C受審人は、平磯灯標から154度2.4海里の地点に達し、左舷正横後15度2.0海里に、ふじくらの白、白、緑3灯を初めて認め、その後大阪マーチスが、動静確認のため同船をVHF無線電話で呼びかけているのを聴取し、同船が、応答することなく前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、いずれ明石海峡航路東口に向けて左転することを期待し進行した。
また、あかつき2は、C受審人がふじくらを初認したころ、同船が引船列に向けて北上するのを認め、引船列の側方警戒業務から離れ、東方灯浮標の南西方沖合を北上するふじくらに向けて急ぎ反転し、同船と会合したのち、伴走しながらVHF無線電話で呼びかけ、探照灯を同船に向けて照射するとともに、警告信号を吹鳴しながら拡声器を使用して繰り返し警告を発した。
00時33分C受審人は、平磯灯標から156度2.1海里の地点に達し、ふじくらの灯火を左舷正横後17度1.0海里に見るようになり、あかつき2が警告信号を吹鳴したにもかかわらず、ふじくらが適切な避航動作をとっていないことを認めたが、ふじくらが明石海峡航路東口に向けてまもなく左転するものと思い、長大物件を曳航する引船列である自船の運動性能を考慮して、針路、速力の保持から離れ、直ちに早鞆丸を使用して右転しながら減速するなど、衝突を避けるための動作をとることなく依然ふじくらが左転することを期待し、船橋後部の探照灯で天佑を、船橋上部の探照灯でふじくらの船橋等を照射しながら続航した。
00時38分C受審人は、一等航海士に、探照灯の照射と警告信号の吹鳴を続けるあかつき2とともに、間近に迫ったふじくらに向けて、警告信号を連続して吹鳴させたものの、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ふじくらは船首部を圧壊し、早瀬丸に損傷はなかったが、天佑の左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じた。
(航法の適用等)
本件に適用する航法について、早瀬丸引船列側補佐人は、
(1)同引船列が、長大物件を曳航中で側方警戒船を配置し、大阪マーチスの管制を受けていた。
(2)本件発生地点は東方灯浮標のわずか西方で、明石海峡航路に出入りする船舶の合流地点に近く、通常であれば左転し同航路に向かうはずのふじくらと衝突のおそれの有無の判断をなすには、その動向を見極める必要があるので、ふじくらに比べ長い時間を要する。
を考慮し、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の二船間の航法は適用されず、同法第38条に定める「特殊な状況にある場合」における船員の常務が適用される旨主張するので、この点について判断する。
本件衝突は、同引船列の定針から衝突まで14分、見合い関係の成立から衝突まで12分あり、同引船列が、明石海峡航路東口に出入りする船舶の合流地点付近を航行中であったが、当時両船付近には関連する第三船がおらず、また、大阪マーチスの管制を受けて、海上交通安全法に定める長大物件曳航船として航行していたものの、同法には、同引船列に適用する航法規定はなく、同法の規定及び付近水域に航行上の制約はなかった。
さらに、衝突12分前の航法の適用時刻から衝突6分前まで、早瀬丸船橋から見たふじくらの方位と距離は、
00時27分 左舷正横後15度 2.0海里
00時28分 左舷正横後15度 1.9海里
00時29分 左舷正横後16度 1.7海里
00時30分 左舷正横後16度 1.5海里
00時31分 左舷正横後16度 1.4海里
00時32分 左舷正横後17度 1.2海里
00時33分 左舷正横後17度 1.0海里
で、方位変化は、約2分間に約1度となり、方位に明確な変化があったとは認められず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況にあったと言える。
航法の適用にあたって、ふじくらが、その後明石海峡航路東口に向かうか否かについての動向の見極めまでは求められていない。
したがって、本件衝突では、00時27分以降、予防法第15条の横切り船航法の適用要件を満たしており、同条によって律するのが相当であり、早瀬丸引船列側補佐人の主張は採ることができない。
(原因)
本件衝突は、夜間、大阪湾北西部平磯灯標南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、ふじくらが、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る早瀬丸引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、早瀬丸引船列が、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
ふじくらの運航が適切でなかったのは、船長の無資格の船橋当直者に対する眠気を催した際の報告についての指示が十分でなかったことと、同当直者が眠気を催した際船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、大阪湾南部洲本沖灯浮標南東方沖合を明石海峡航路東口に向けて北上中、無資格者に単独の船橋当直を行わせる場合、眠気を催したときには速やかに報告して船長を船橋に呼ぶよう十分に指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、眠気を催したときには速やかに報告して船長を船橋に呼ぶよう十分に指示しなかった職務上の過失により、無資格の船橋当直者が居眠りに陥り、前路を左方に横切る早瀬丸引船列を避けずに進行して衝突を招き、ふじくらの船首部を圧壊させ、天佑の左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、大阪湾北西部平磯灯標南東方沖合を明石海峡航路東口に向けて西行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するふじくらを認め、同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかになった場合、長大物件を曳航する引船列である自船の運動性能を考慮して、直ちに補助引船を使用して右転しながら減速するなど、衝突を避けるための動作をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、ふじくらが明石海峡航路東口に向けてまもなく左転するものと思い、衝突を避けるための動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、眠気を催した際船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。