日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成15年横審第119号
件名

貨物船八洋丸貨物船住春衝突事件
二審請求者〔補佐人 C〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒田 均、阿部能正、西山烝一)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:八洋丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:住春機関長

損害
八洋丸・・・右舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、積荷約7トンが流出
住 春・・・左舷錨を脱落、左舷船首部外板に擦過傷

原因
住 春・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
八洋丸・・・停泊当直の維持不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、住春が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の八洋丸を避けなかったことによって発生したが、八洋丸が、停泊当直の維持が不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月24日01時20分
 伊勢湾北部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船八洋丸 貨物船住春
総トン数 496トン 199トン
全長 64.33メートル 56.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 588キロワット

3 事実の経過
 八洋丸は、船尾船橋型鋼製油タンカー兼ケミカルタンカーで、A受審人ほか4人が乗り組み、ノルマルブチルアルコール約500トンを積載し、船首2.50メートル船尾3.90メートルの喫水をもって、平成15年3月22日12時20分岡山県水島港を発し、三重県四日市港に向かった。
 翌23日12時20分A受審人は、伊勢湾北部で、鈴鹿港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から096度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点に至り、積荷役待機のため、水深20メートルの海底に右舷錨を投下して錨鎖を4節伸出し、機関を終了して錨泊を開始した。
 ところで、A受審人は、停泊中の当直体制として、昼間は担当者を定めず、18時30分から23時30分までを一等航海士、続いて翌日04時30分までを船長、その後を甲板長の担当と定めていた。
 錨泊したときA受審人は、1時間ごとに周囲の見張りを行えば十分と思い、当直者が常時在橋するなど、適切な停泊当直を維持することなく、同日23時30分一等航海士と同当直を交代し、所定の灯火と紅色全周灯1個を表示したほか、多数の作業灯などで船体を照明し、船位を確認して自室に戻っていたところ、翌24日01時13分半000度に向首していたとき、右舷船尾15度1.0海里のところに、北上中の住春が存在し、衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかったので、注意喚起信号を行うことができないまま、錨泊を続けた。
 01時20分八洋丸は、前示の錨泊地点において、船首が000度を向いたまま、その右舷側中央部に、住春の左舷船首部が、後方から15度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、住春は、船尾船橋型鋼製貨物船で、B指定海難関係人が船長と2人で乗り組み、コークス約603トンを積載し、船首2.40メートル船尾3.55メートルの喫水をもって、同月21日11時30分熊本県八代港を発し、四日市港に向かった。
 B指定海難関係人は、狭水道などでは実弟の船長を補佐していたうえ、同人と航海当直を折半することとし、原則として午前、午後とも0時から6時までを担当しており、加えて機関室の見回りなども行っていたので、日頃から睡眠不足気味であったものの、同当直中に眠気を感じた際には船長と互いに知らせ合い、融通し合って同当直を行っていた。
 翌々23日21時00分B指定海難関係人は、三重県大王埼沖合を航行していたとき、約3時間の睡眠をとったのち昇橋し、いつものとおり眠くなれば報告するよう船長から指示を受け、早めに同人と船橋当直を交代し、所定の灯火を表示して1人で見張りにあたり、伊勢湾を北上した。
 翌24日00時58分B指定海難関係人は、南防波堤灯台から133度5.1海里の地点において、針路を予定錨地に向く345度に定め、機関を回転数毎分340にかけ、9.0ノットの対地速力とし、レーダーを休止したまま、操舵輪後方に立ち、操舵スタンドに両手をかけた姿勢で、自動操舵により進行した。
 定針したのちB指定海難関係人は、睡眠不足から眠気を催したが、目的地が近いので投錨のため船長が昇橋してくるものと思い、船長に報告して船橋当直を交代してもらうなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、同じ姿勢のまま続航し、間もなく居眠りに陥った。
 01時13分半B指定海難関係人は、南防波堤灯台から112度3.4海里の地点に達したとき、正船首方1.0海里のところに、錨泊中の八洋丸が存在し、同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかったので、同船を避けることができないまま進行し、住春は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、八洋丸は、右舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、積荷約7トンが流出し、住春は、左舷錨を脱落させ、左舷船首部外板に擦過傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(主張に対する判断)
 八洋丸側補佐人は、航海当直基準の「適切な当直の維持」には、常時在橋する旨の文言がないうえ、注意喚起信号を行っても住春が適切な措置をとれたとはいえない旨主張するので、以下、検討する。
 確かに、「適切な当直の維持」には、常時在橋する旨の文言はないものの、本件の場合、右舷船尾1.0海里のところに、北上中の住春が存在し、衝突のおそれがある態勢で接近している状況を見落としているのであって、八洋丸が適切な当直を維持して周囲を見張っていなかった点を原因から排除することはできない。
 また、汽笛信号の効果については、音響信号設備の性能、両船間の距離、風向・風速等の影響があり、一概には言えない。しかしながら、本件の場合、住春の船橋内の環境や船尾方からの接近をもって、その効果が皆無であるとは断定できず、汽笛信号の励行が衝突を防止するうえでの一手段であることに変わりはなく、注意喚起信号の不履行を原因から排除することはできない。
 したがって、八洋丸側補佐人の主張は認められない。

(原因の考察)
 本件衝突は、住春が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の八洋丸を避けなかったことによって発生したことは明らかであるが、八洋丸の停泊当直の実態が原因となるかどうかについて考察する。
 事実の経過で示したとおり、八洋丸は、危険物を運送している船舶で、停泊中、夜間の停泊当直体制として、18時30分から23時30分までを一等航海士、続いて翌日04時30分までを船長、その後を甲板長の担当と定めていた。
 しかしながら、A受審人は、1時間ごとに周囲の見張りを行えば十分と思い、当直者が常時在橋するなど、適切な停泊当直を維持せず、自らの同当直中、降橋して自室に戻っていたので、北上中の住春が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、注意喚起信号を行うことができないまま、衝突するに至ったものである。
 以上のことから、A受審人は、在橋して適切な停泊当直を維持していれば、住春の接近に気付き、注意喚起信号を行うことができたものと認めるのが相当である。
 したがって、本件は、八洋丸が、船員法施行規則第3条の5の規定に基づく航海当直基準に定める適切な停泊中の当直を維持していなかったので、注意喚起信号を行うことができなかったことをもって、本件発生の一因としたものである。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、伊勢湾北部において、住春が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の八洋丸を避けなかったことによって発生したが、八洋丸が、停泊当直の維持が不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、伊勢湾北部において、積荷役待機のため錨泊する場合、危険物を運送している船舶であったから、当直者が常時在橋するなど、適切な停泊当直を維持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、1時間ごとに周囲の見張りを行えば十分と思い、適切な同当直を維持しなかった職務上の過失により、夜間、衝突のおそれがある態勢で住春が接近していることに気付かず、注意喚起信号を行うことができないまま、錨泊を続けて同船との衝突を招き、八洋丸の右舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、積荷約7トンを流出させ、住春の左舷錨を脱落し、左舷船首部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、単独で見張りにあたり、伊勢湾北部を北上中、睡眠不足から眠気を催した際、船長に報告して船橋当直を交代してもらうなど、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION