(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月24日07時29分
静岡県下田港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船新住宝丸 |
漁船第十福一丸 |
総トン数 |
199トン |
74.95トン |
全長 |
57.57メートル |
34.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
397キロワット |
3 事実の経過
新住宝丸は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鋼材669トンを載せ、船首3.1メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成15年9月23日23時40分京浜港横浜区を発し、名古屋港に向かった。
翌24日03時ごろA受審人は、相模灘を西行中、海上が荒れ模様のため、静岡県下田港に入航して天候の回復を待つことにして、同港に向けた。
ところで、下田港は、港界付近東部の洲佐利埼西方沖合での防波堤築造工事に伴い、下田灯台から291度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点に下田港洲佐利埼沖A灯浮標(以下、灯浮標の名称については「下田港洲佐利埼沖」を省略する。)、同灯台から335度590メートルの地点にB灯浮標、同灯台から350度490メートルの地点にC灯浮標、同灯台から295度200メートルの地点にD灯浮標(以下、これらの灯浮標を総称して「工事用灯浮標」という。)がそれぞれ設置されていた。
A受審人は、単独で船橋当直に就き、07時19分下田灯台から195度970メートルの地点において、数年来下田港に入航していなかったので、洲佐利埼を大きく迂回して入航することとし、針路を310度に定め、機関を微速力前進にかけ、手動操舵により進行した。
A受審人は、時折機関を停止しては付近の水路状況を確かめながら4.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で続航し、07時24分下田灯台から238度930メートルの地点に達したとき、針路を下田港口に向かう026度に転じた。
転針直後、A受審人は、左舷船首8度1,530メートルのところに、出航中の第十福一丸(以下「福一丸」という。)を初めて視認し、同船の船首部の見え具合から左舷を対して航過できると判断したのち、機関を微速力前進、停止と繰り返し4.0ノットの速力で進行した。
07時27分少し過ぎA受審人は、下田灯台から256.5度630メートルの地点に達し、福一丸を左舷船首15度550メートルのところに視認する状況となったとき、同船と左舷を対して100メートルばかりで無難に航過する態勢であったところ、福一丸が突然左転し、新たな衝突のおそれを生じさせて接近したが、警告信号を行ったものの、同船が間もなく右転して避けるものと思い、機関を後進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。
こうして、A受審人は、機関を微速力前進、停止と繰り返し、舵効がある3.5ノットの速力で続航中、07時29分少し前左舷船首至近に福一丸が迫るので、ようやく、右舵一杯を取り、機関を全速力後進にかけたが及ばず、07時29分下田灯台から278度520メートルの地点において、新住宝丸は、原針路のまま、約2ノットの前進行きあしで、その左舷船首部が、福一丸の左舷中央部に前方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力6の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期に当たり、視界は良好であった。
また、福一丸は、きんめだい漁に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか7人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、同日07時05分下田港を発し、伊豆諸島八丈島南西方25海里付近の漁場に向かった。
B受審人は、出航操船に当たったのち単独で船橋当直に就き、07時20分少し前下田港西防波堤灯台から084度60メートルの地点において、針路を港口に向かう199度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの速力とし、手動操舵により進行した。
B受審人は、やがて自動操舵に切り替え、操舵室右舷側で左舷船首方の工事用灯浮標やその西側で漂泊している小型漁船の動静を見守りながら南下中、07時24分下田灯台から341度1,000メートルの地点に達したとき、左舷船首1度1,530メートルのところに、入航中の新住宝丸を視認し得る状況であったが、海上が荒れ模様であるから入航船はあるまいと思い、新住宝丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かなかった。
07時27分少し過ぎB受審人は、下田灯台から308度650メートルの地点に達したとき、新住宝丸が左舷船首8度550メートルとなり、同じ針路のまま航行すれば同船と左舷を対して100メートルばかりで無難に航過する態勢であったが、目的の漁場に向けるため針路を180度に転じ、新住宝丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせ、その後行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった。
こうして、B受審人は、船尾方からの強風と操舵室の窓を閉めていたこともあって、新住宝丸が行った警告信号にも気付かず進行中、07時29分少し前右舷船首至近に迫った同船を初めて視認し、手動操舵に切り替えて右舵一杯を取り、機関を後進にかけたが及ばず、福一丸は、船首が221度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新住宝丸は左舷船首部外板に擦過傷を生じ、福一丸は船首マスト及びレーダーマストに曲損を、左舷側中央部外板に破口を生じて燃料タンクに浸水したが、のち福一丸は修理された。
(航法の適用)
本件は、静岡県下田港南方沖合において、入航中の新住宝丸と出航中の福一丸とが衝突したものであるが、以下、適用される航法について検討する。
本件は、下田港が港則法の適用港であるが、発生地点が同港港域外であるから同法の適用はなく、一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)で律することになる。
本件は、事実に記載したとおり、07時27分少し過ぎまでは、入航する新住宝丸の針路が026度、速力が4.0ノットで、新住宝丸から福一丸を左舷船首15度550メートルに視認する状況で、また、福一丸の針路が199度、速力が6.0ノットで、福一丸から新住宝丸を左舷船首8度550メートルに視認し得る状況であった。
両船は、そのままの針路及び速力で進行すれば、その後互いに左舷を対して100メートルばかり離れて航過する状況であった。
つまり、この航過距離100メートルは、両船の大きさ等からして、無難に航過する態勢と認めるのが相当で、福一丸の左転は衝突の2分弱前であり、2分弱の間に前路進出か否かの検討の余地があっても、定型航法を適用する余地はない。
したがって、本件は、新住宝丸に衝突回避可能性があるものと認め、福一丸の衝突2分弱前の左転によって新たな衝突のおそれが生じて衝突したことから、予防法第38条、同39条の船員の常務によって律するのが相当である。
(原因)
本件衝突は、静岡県下田港南方沖合において、出航中の福一丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の新住宝丸に対し、転針して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、入航中の新住宝丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、静岡県下田港南方沖合において、同港を出航して漁場に向け航行する場合、新住宝丸を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、海上が荒れ模様であるから入航船はあるまいと思い、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新住宝丸の存在に気付かず、漁場に向けるため同船の船首方に向けて左転し、左舷を対して無難に航過する態勢の新住宝丸に対し、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、その後行きあしを停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、新住宝丸の左舷船首部外板に擦過傷を、福一丸の船首マスト及びレーダーマストに曲損を、左舷側中央部外板に破口をそれぞれ生じさせ、燃料タンクに浸水させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、静岡県下田港南方沖合において、同港に入航中、左舷を対して無難に航過する態勢であった福一丸が自船の船首方に向け左転し、新たな衝突のおそれを生じさせて接近する場合、機関を後進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、福一丸が間もなく右転して避けるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して福一丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。