日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成15年横審第106号
件名

貨物船平神丸漁船中長丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月26日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西山烝一、阿部能正、稲木秀邦)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:平神丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:中長丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:平神丸甲板員 

損害
平神丸・・・船首に擦過傷
中長丸・・・右舷側中央部ブルワーク、左舷側中央部外板及び漁網巻取機などを破損して転覆、のち廃船

原因
平神丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
中長丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、平神丸が、見張り不十分で、漂泊中の中長丸を避けなかったことによって発生したが、中長丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月9日23時20分
 伊勢湾南部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船平神丸 漁船中長丸
総トン数 199トン 10トン
全長 58.30メートル
登録長   14.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数   120

3 事実の経過
 平神丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人が2人で乗り組み、鋼材約700トンを積載し、船首2.80メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成15年7月8日08時50分関門港を発し、名古屋港に向かった。
 A受審人は、翌9日18時00分三重県三木埼沖合で船橋当直に就き、所定の灯火を掲げ、桃取水道を経由して伊勢湾に入湾し、23時00分神前灯台から345.5度(真方位、以下同じ。)3.4海里の地点に達したとき、針路を003度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したとき、A受審人は、昇橋してきたB指定海難関係人に船橋当直を委ねることにしたが、同指定海難関係人がいつも就航している海域で同当直にも慣れているので、特に指示しなくても大丈夫と思い、見張りを厳重に行うよう指示することなく、名古屋港入港の1時間前に報告するよう引き継ぎ、船橋後部の寝台で休息した。
 B指定海難関係人は、操舵輪後方のいすに腰掛けて見張りに当たり、23時16分神前灯台から353度5.9海里の地点に至ったとき、ほぼ正船首1,240メートルのところに中長丸が掲げる紅、白2灯及び白色点滅灯をそれぞれ視認でき、やがて、漁ろう作業中に使用する作業灯の明かりが見えなかったことから、漁ろうに従事中の船舶とは認めることが困難で、中長丸が移動していないことから、漂泊中と判断できる状況となり、その後、同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、転舵するなどして同船を避けずに続航した。
 23時19分半わずか過ぎB指定海難関係人は、正船首やや右間近に白色点滅灯を初めて視認し、漁網か何かあると判断し、衝突の危険を感じ、手動操舵に切り替えて左舵一杯をとり、左回頭を始めたところ正船首至近に中長丸の紅灯を初認し、右舵一杯にとったが効なく、23時20分神前灯台から354度6.6海里の地点において、平神丸は、350度に向いたとき、原速力のまま、その船首が中長丸の右舷中央部に前方から55度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧雨で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
 A受審人は、B指定海難関係人の衝突したとの叫び声に目を覚まし、機関を中立としたあと、転覆した中長丸につかまっていた乗組員2人を救助し、事後の措置に当たった。
 また、中長丸は、船体中央部に操舵室を備えた、刺網漁業などに従事するFRP製漁船で、C受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み、さわら流し網漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月9日18時00分三重県答志漁港を発し、同漁港北西方沖合6海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで、中長丸のさわら流し網漁の漁網は、長さ約750メートル幅約10メートルで、浮子綱の両端に赤色及び白色交互の点滅式灯浮標、その間に白色の点滅式灯浮標が等間隔に設置され、同綱の片端にもやい綱が取り付けられていた。
 C受審人は、19時ごろ前示漁場に着き、前部マストに白色点滅灯、後部マストに漁ろう中を表示する紅色及び白色両全周灯を点灯したほか、操舵室外側、船首及び船尾に8個の作業灯を点灯して投網作業を始め、同時30分同作業を終了して流し網の片端を船首のビットに繋ぎ、機関を停止して作業灯を消灯し、所定の灯火を掲げずに漁ろう中の灯火を点灯したまま漂泊を開始し、夕食を取ったあと、21時30分ごろ操舵室後方の畳敷きの場所に座り、揚網作業にかかるまで、甲板員とともに休息をとり始めた。
 その後、中長丸が流し網とともに折からの潮流により北方に流され、23時16分C受審人は、前示衝突地点に至り、船首が115度を向いて漂泊していたとき、右舷船首55度1,240メートルのところに北上中の平神丸の白、白、紅、緑4灯を視認することができ、その後、同船が衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、灯火を掲げて漂泊しているので航行船舶が避けていくものと思い、仮眠していて、周囲の見張りを十分に行わなかったので、平神丸の存在と接近に気付かず、注意喚起信号を行えずに漂泊中、115度に向首したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、平神丸は、船首に擦過傷を生じたが、中長丸は、右舷側中央部ブルワーク、左舷側中央部外板及び漁網巻取機などを破損して転覆し、僚船により答志島に引き付けられ、その後廃船処理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、伊勢湾南部の三重県答志島北西方沖合において、北上中の平神丸が、見張り不十分で、流し網の片端を船首に繋いで漂泊中の中長丸を避けなかったことによって発生したが、中長丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 平神丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、見張りを厳重に行うよう指示しなかったことと、同当直者が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、名古屋港に向け伊勢湾南部を北上中、無資格の甲板員に船橋当直を委ねる場合、漁船などが操業している海域であったから、見張りを厳重に行うよう指示すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、同甲板員がいつも就航している海域で同当直にも慣れているので、特に指示しなくても大丈夫と思い、見張りを厳重に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同甲板員の見張りが不十分となり、漂泊している中長丸の存在に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、平神丸の船首に擦過傷を生じさせ、中長丸の右舷側中央部ブルワーク、左舷側中央部外板及び漁網巻取機などを破損させて転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、三重県答志島北西方沖合において、投網したさわら流し網の片端を船首に繋いだあと、揚網まで漂泊して待機する場合、右舷正横方から接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、灯火を掲げて漂泊しているので航行船舶が避けていくものと思い、仮眠していて、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、平神丸に気付かないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就き、名古屋港に向け伊勢湾南部を北上中、船首方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:17KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION