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平成15年横審第115号
件名

漁船勝利丸漁船権八丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(大本直宏、黒田 均、西山烝一)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:勝利丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:権八丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
利丸・・・船首部に擦過傷など
権八丸・・・船体前部を損壊、 船長が1箇月の通院加療を要する頭部打撲傷などの負傷

原因
勝利丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
権八丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、勝利丸が、見張り不十分で、漂泊中の権八丸を避けなかったことによって発生したが、権八丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月6日06時30分
 千葉県布良鼻南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船勝利丸 漁船権八丸
総トン数 4.9トン 1.79トン
全長 14.05メートル  
登録長   7.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 264キロワット  
漁船法馬力数   20

3 事実の経過
 勝利丸は、操舵室がほぼ船体中央部にあって、同室右舷側前部に操舵輪(以下「操舵位置」という。)を装備し、一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和51年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み、いか一本釣りの目的で、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年2月6日05時00分神奈川県間口漁港を発し、所定の灯火を表示して千葉県房総半島南東沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、操舵位置に立ち1人で操船に当たり東京湾南部を南下中、06時07分洲埼灯台から254度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点に達したとき、針路を139度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.5ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
 06時28分A受審人は、布良鼻灯台から260度1.9海里の地点で、正船首方830メートルに、北東方を向首しほぼ停止状態で漂泊中の権八丸を認め得る状況であったが、自船を追い越していった3隻の僚船が前方0.75海里を同航中なので、前路に他船はいないものと思い、同僚船を追尾することに気を取られ、見張りを十分に行うことなく、権八丸を見落としたまま続航した。
 こうして、A受審人は、ほとんど停止状態で漂泊中と分かる権八丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど、権八丸を避けずに進行中、勝利丸は、06時30分布良鼻灯台から246度1.7海里の地点において、原針路原速力のまま、その船首部が権八丸の左舷前部に、前方から86度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、周囲は日出間近の薄明時で明るく、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、権八丸は、平甲板型の船体前部右舷側に、たて型の揚網ローラーを備えた汽笛無装備の、刺し網漁業等に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、ヒラメ刺し網漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日06時12分千葉県富崎漁港を発し、周囲が明るくなり始めていたので、所定の灯火を表示しないまま同漁港南方沖合の漁場に向かった。
 06時27分B受審人は、前示の衝突地点付近に至って停止し、所定の灯火及び形象物を表示しないで、前日投入した刺し網の揚網作業を開始した。
 B受審人は、ほぼ北東方に向首し、機関を中立運転とし時折前進をかけ、ほとんど停止状態で漂泊して、揚網ローラーを介し、網綱を巻き始めて間もなく、06時28分左舷正横付近830メートルに、勝利丸を認め得る状況であったが、これより先、漁場に向け航行中、一団の漁船が通過したので、もう他船は通航しないものと思い、揚網作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、勝利丸の存在に気付かなかった。
 こうして、B受審人は、勝利丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、間近に接近したとき、網綱を揚網ローラーから外し、機関と舵を操作して、衝突を避けるための措置をとることもせず、揚網作業を行いながら漂泊中、06時30分わずか前ふと左舷側を見たとき、至近に迫った勝利丸を認め、船首側へ避難しようとした直後、権八丸は、船首が045度を向いていたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、勝利丸は船首部に擦過傷などを生じ、権八丸は船体前部を損壊し、のちいずれも修理され、B受審人は衝突の衝撃で海中に転落したが救助され、1箇月の通院加療を要する頭部打撲傷などを負った。
(航法の適用)
 本件衝突は、日出間近の薄明時、航行中の動力船である勝利丸が、刺し網の揚網を開始して間もなくの、ほぼ停止状態の権八丸に衝突したものであるが、港則法及び海上交通安全法の適用規定はないので、以下、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)の航法の適用を検討する。

1 勝利丸
 航行中の動力船である。
2 権八丸
 権八丸は、刺し網の揚網作業に従事中で、漁ろうに従事していたのであるが、次のことを合わせると、漁ろうに従事している船舶とは認められないので、漂泊中の船舶である。
(1)揚網ローラーは右舷側前部に位置しており、右舷側から網綱を揚げていた。
(2)権八丸は、北東方を向きほぼ停止状態であった。
(3)勝利丸からは、ほぼ停止状態の権八丸の左舷側船体を認めることはできるが、至近に迫らなければ揚網作業状況を認められない。
3 権八丸の衝突回避可能性
 権八丸は、網綱端のボンデンを海に投入することも、たて型ローラーから網綱を外すことも可能で、機関を後進にかければ、プロペラに網綱が絡むことはなく、短時間に操船自由の状態になるから、衝突を避けるための措置をとることができる。
 以上を総合すると、本件は、予防法第18条「各種船舶間の航法」第1項第3号「航行中の動力船である勝利丸は、漁ろうに従事している権八丸の進路を避けなければならない」を適用することはできず、同法の第38条及び第39条の船員の常務をもって律するのが相当である。
 なお、本件発生時刻は、日出間近の薄明時で周囲が明るく、衝突の2分前、両船間830メートルの距離で、互いに肉眼により視認できるから、権八丸の無灯火及び形象物不表示は、原因として摘示しなかったが、予防法の定めに従って、日没から日出までの灯火表示及びその他の時間帯における形象物の表示を怠ることは、厳に慎まなければならない。
 
(原因)
 本件衝突は、日出間近の薄明時、房総半島南西岸沖合において、航行中の勝利丸が、見張り不十分で、漂泊中の権八丸を避けなかったことによって発生したが、権八丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、日出間近の薄明時、漁場に向け房総半島南西岸沖合を航行中、操船に当たる場合、正船首方で漂泊中の権八丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船を追い越していった3隻の僚船が前方を同航中なので、前路に他船はいないものと思い、同僚船を追尾することに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、権八丸の存在と接近とに気付かず、右転するなど、漂泊中の同船を避けずに進行して衝突を招き、勝利丸の船首部に擦過傷を、権八丸の船体前部の損壊をそれぞれ生じさせ、B受審人に頭部打撲傷などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、日出間近の薄明時、房総半島南西岸沖合において、機関を中立運転とし時折前進をかけ、ほとんど停止状態で漂泊して、刺し網の揚網作業を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁場に向け航行中、一団の漁船が通過したので、もう他船は通航しないものと思い、揚網作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、勝利丸の存在と接近とに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに同作業を続けて衝突を招き、前示の損傷と自らの負傷とを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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