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平成15年横審第102号
件名

油送船康洋丸貨物船ボウ ウエスト衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月18日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(阿部能正、吉川 進、黒田 均)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:康洋丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:ボウウエスト水先人 水先免許:鹿島水先区

損害
康洋丸・・・右舷側前部外板に亀裂を伴う凹傷など
ボ 号・・・左舷船首部外板に亀裂などの損傷

原因
康洋丸・・・狭い水道の航法不遵守、狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守(主因)
ボ 号・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、康洋丸が、狭い水道の右側端に寄って航行せず、かつ、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、ボウ ウエストが、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月20日09時14分
 茨城県鹿島港
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船康洋丸 貨物船ボウ ウエスト
総トン数 699トン 6,837トン
全長 75.02メートル 123.19メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 3,845キロワット

3 事実の経過
 康洋丸は、船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.40メートル船尾2.90メートルの喫水をもって、平成15年5月19日13時40分神奈川県横須賀港を発して茨城県鹿島港に至り、着岸時刻調整の目的で、翌20日00時00分同港港域内にあたる、鹿島港南防波堤灯台(以下、航路標識及び防波堤の名称については「鹿島港」を省略する。)から254度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの地点に投錨して仮泊した。
 A受審人は、08時50分揚錨後、霧のため視程が150メートルに狭められ視界制限状態となっていたので、一等航海士と甲板員を船首部に配置し、機関長を船橋で機関の操作に当たらせ、所定の灯火を表示し、霧中信号を行い、港奥にあるC社8岸壁に向け、わずかの行きあしで南下した。
 ところで、鹿島港は、港口を北東方の太平洋に面し、港口東側には北端に南防波堤灯台がある南防波堤が南北に約3,400メートルの長さで延び、その南端基部から西方へ曲折して港奥に至る間の南側にDバース、E岸壁、F岸壁及びG桟橋などの構造物(以下、これらの築造物を総称して「東側築造物」という。)が、また、港口西側にはHの護岸が南北に約4,200メートルの長さで延び、その南端基部の東端に北防波堤灯台がある北防波堤が、同堤から西方へ曲折(以下「曲折部付近」という。)して港奥に至る間の北側に外港船だまり、原料岸壁などの構造物(以下、これらの築造物を総称して「西側築造物」という。)がそれぞれある堀込港であった。
 そのため、東側築造物と西側築造物との間は、南防波堤灯台付近からF岸壁付近にかけての長さ約4,400メートル、幅約400メートルがI水路と称されて、びょう泊等の制限区域として港則法施行規則に規定され、最小可航幅約370メートルの狭い水道(以下「水路」という。)となっていた。
 09時03分半A受審人は、水路内にあたる、北防波堤灯台から017度950メートルの地点において、0.75海里レンジとしたレーダーで、右舷船首方の北防波堤灯台付近に小型の停留船(以下「タグボート」という。)と入航船、また、後方至近に入航船の映像をそれぞれ探知したので、これらの船舶と距離を開けることとし、針路を176度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、手動操舵により進行した。
 A受審人は、09時04分半前示の後方至近の入航船と距離が開いたので機関を4.2ノットの微速力に減じ、同じ針路のままでは水路を斜航してやがて左側に進入する状況であったが、水路の右側端に寄って航行しなかった。
 09時05分少し過ぎA受審人は、北防波堤灯台から027度660メートルの地点に達したとき、右舷船首26.5度1.2海里のところに、出航中のボウ ウエスト(以下「ボ号」という。)の映像を探知し得る状況であったが、右舷船首方のタグボートの映像に気を取られ、適宜レーダーレンジを遠距離に切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、ボ号の存在に気付かなかった。
 A受審人は、09時08分半わずか過ぎ北防波堤灯台から066度370メートルの地点で、ボ号が右舷船首27度1,390メートルのところに迫り、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもせずに続航した。
 09時14分わずか前A受審人は、ふと前方を見たところ、右舷方至近にボ号の船影を視認し、機関を全速力後進にかけたが及ばず、09時14分北防波堤灯台から147度710メートルの地点において、康洋丸は、原針路原速力のまま、その右舷側前部に、ボ号の船首部が前方から64度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はなく、視程は150メートルで、茨城県全域に濃霧注意報が発表されていた。
 また、ボ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長J及び大韓民国人船員など21人が乗り組み、苛性ソーダなど10,035トンを載せ、船首7.25メートル船尾8.95メートルの喫水をもって、鹿島水先区水先人であるB受審人が水先業務に当たり、同日08時55分G桟橋を発し、ニュージーランドのオークランド港に向かった。
 B受審人は、09時00分ボ号が出船右舷付けとなっていたので、G桟橋から15メートル沖合にあたる、北防波堤灯台から206度1.1海里の地点において、左舷錨を揚げ終えたのち、J船長及び三等航海士在橋のもと、針路を045度に定め、機関を極微速力前進にかけ、2.3ノットの速力とし、霧模様で付近の視程が1,500メートルと狭められ、曲折部付近から北側に霧堤が存在し、視界制限状態となっていたので、所定の灯火を表示し、霧中信号を行い、操舵手を手動操舵に当てて進行した。
 09時01分B受審人は、速力を微速力前進の2.8ノット、ついで同時05分速力を半速力前進の3.8ノットに徐々に上げ、水路の右側端に寄って航行し、同時05分少し過ぎ北防波堤灯台から201度1,610メートルの地点に達したとき、警戒に当たらせていたタグボートから、共備バースに向かう船舶のほか、康洋丸が水路を南下中である旨の報告を受け、1.5海里レンジとしたレーダーを見たところ、左舷船首22.5度1.2海里のところに、入航中の康洋丸の映像を初めて探知したが、北防波堤灯台付近で右転して水路の右側に寄って航行するであろうと思い、0.75海里レンジとしたレーダーでDバースの方へ向かう船舶だけを見ていて、康洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか、適宜レーダーレンジを切り替えるなどしてレーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、その後康洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かなかった。
 B受審人は、09時08分速力が5.1ノットになったので、5.0ノット以下に保つため、微速力前進に減じ、同時08分半わずか過ぎ北防波堤灯台から191度1,200メートルの地点に達したとき、0.75海里レンジとしたレーダーで、康洋丸の映像が左舷船首22度1,390メートルのところに迫ったのをようやく知ったが、なおも康洋丸の右転を期待し、直ちに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することもしないで、同時10分速力を極微速力前進の4.9ノットに減じた。
 09時12分B受審人は、霧堤に入り視程が150メートルに狭められた状況下、0.75海里レンジとしたレーダーで、左舷船首21度520メートルのところに、康洋丸が迫ったことを知り、ようやく右舵一杯とし、機関停止、次いで全速力後進としたが及ばず、ボ号は、船首が060度に向いたとき、約2.0ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、康洋丸は、右舷側前部外板に亀裂を伴う凹傷などを生じ、ボ号は、左舷船首部外板に亀裂などを生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は、霧のため視界が制限される状況下、鹿島港において、入航する康洋丸と出航するボ号とが衝突したものであるが、以下、適用される航法について検討する。
1 港則法
 鹿島港は、港則法が適用されるものの航路の定めがなく、同法には 本件に適用する他の航法がないので、本件は、一般法である海上衝突予防法(以下「予防法」という。)で律することになる。
2 予防法
 予防法の航法には、あらゆる視界の状態における船舶の航法、互いに他の船舶の視野の内にある船舶の航法及び視界制限状態における船舶の航法に関する規定がある。
 したがって、本件当時が視界制限状態であるが、まず、あらゆる視界の状態における船舶の航法に関する規定が適用され、その後、視界制限状態における船舶の航法に関する規定が適用されることとなる。
(1)あらゆる視界の状態における船舶の航法に関する規定(第9条)  
 次の2点を総合すると、本件は、事実に記載したとおり、また、ボ号側補佐人が主張していたように、まず本条の狭い水道等の規定を適用して律するのが相当である。
ア 両船は、鹿島港内において、東側築造物と西側築造物との間で、南防波堤灯台付近から南方に長さ約4,400メートル、幅約400メートルの鹿島水路と称する、水路を航行中であり、同水路内で衝突した点
イ 両船の全長が康洋丸75.02メートル、ボ号123.19メートルである点
(2)視界制限状態における船舶の航法に関する規定(第19条)
 事実認定のとおり、両船は、本件当時、視程が150メートルの視界制限状態にある水域又はその付近を航行している船舶であって、互いに相手船の視野の内にないものであるから、同条を適用して律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界制限状態となった鹿島港の水路において、入航中の康洋丸が、水路の右側端に寄って航行せず、かつ、レーダーによる見張り不十分で、出航中のボ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことによって発生したが、ボ号が、レーダーによる動静監視不十分で、康洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、霧のため視界制限状態になった鹿島港の水路を経て入航する場合、適宜レーダーレンジを遠距離に切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷船首方のタグボートの映像に気を取られ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ボ号の存在に気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することなく進行してボ号との衝突を招き、康洋丸の右舷側前部外板に亀裂を伴う凹傷などを、ボ号の左舷船首部に亀裂などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、ボ号の水先業務に当たり、霧のため視界制限状態になった鹿島港の水路を経て出航中、レーダーで前路に入航中の康洋丸を探知した場合、著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか、適宜レーダーレンジを切り替えるなどしてレーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、北防波堤灯台付近で右転して水路の右側に寄って航行するであろうと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することなく進行して康洋丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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