(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月27日23時40分
伊豆諸島式根島
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第二惠丸 |
総トン数 |
7.9トン |
全長 |
15.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
364キロワット |
3 事実の経過
第二惠丸(以下「惠丸」という。)は、船体中央部に操舵室を備えたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人(平成10年3月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、釣客3人を乗せ、伊豆諸島式根島への送迎の目的で、船首0.8メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成15年4月27日16時00分静岡県手石港を発し、同島野伏漁港に寄せ、同受審人と釣客が地元の遊漁船に乗船してイカ釣りを行ったあと、惠丸に乗り換え、23時35分同漁港を出航して帰途に就いた。
A受審人は、年に15回ほど手石港と野伏漁港間の航行を行っていたことから、夜間航海も何度か経験し、同漁港から式根島北端の長堀鼻にかけて灯火がないなか、陸岸に接航するので、レーダーを使用するとともにGPSプロッタの画面に予定針路線を表示していた。
23時37分半わずか過ぎA受審人は、野伏港ふ頭灯台(以下「野伏灯台」という。)から045度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点に至ったとき、針路をGPSに表示している神子元島に向く315度に定め、機関を回転数毎分600にかけて6.0ノットの対地速力とし、操舵室右舷側のいすに腰掛けて手動操舵により進行した。
ところで、惠丸は、舵を中央として直進中、船首が徐々に左転する傾向があり、A受審人は、コンパスを見て適宜針路を修正し、進路が左偏しないよう操舵していた。
A受審人は、23時38分半野伏灯台から007度260メートルの地点に達したとき、携帯電話に着信音が鳴ったので、右手に同電話を持って通話を始め、左手で操舵輪を操作していたが、船首が徐々に左転していることに気付かないまま、同時39分少し前機関を回転数毎分1,000に上げ、10.0ノットの対地速力で続航した。
しかし、A受審人は、携帯電話で通話することに気を奪われ、作動中のレーダーにより離岸距離を測定するなり、GPSプロッタ画面上の予定針路線からの偏位を確かめるなど、船位の確認を十分に行わなかったので、船首の左転傾向と折からの潮流の影響とにより、進路が左偏したまま、長堀鼻付近の岩場に向かっていることに気付かずに進行し、惠丸は、23時40分野伏灯台から315度570メートルの同岩場に、その船首が305度に向いて、原速力のまま衝突した。
当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果、船首部上部に破損を生じたが、その後修理され、衝突の衝撃で釣客Bが右肩打撲など、同Cが腰椎損傷などをそれぞれ負った。
(原因)
本件岩場衝突は、夜間、式根島野伏漁港から静岡県手石港に向けて航行中、船位の確認が不十分で、長堀鼻付近の岩場に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、式根島野伏漁港から静岡県手石港に向けて航行する場合、同島北端にかけて接航する状況の下、陸岸に接近しないよう、作動中のレーダーにより離岸距離を測定するなり、GPSプロッタ画面上の予定針路線からの偏位を確かめるなど、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、携帯電話で通話することに気を奪われ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、長堀鼻付近の岩場に向かっていることに気付かないまま進行して同岩場に衝突する事態を招き、惠丸の船首部上部に破損を生じさせ、釣客2人に右肩打撲、腰椎損傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。