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平成15年横審第103号
件名

引船第八英祥丸引船列漁船第二海栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒田 均、阿部能正、西山烝一)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:第八英祥丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第二海栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
B 職名:第八英祥丸甲板員

損害
77号・・・右舷中央部外板に凹損
第二海栄丸・・・左舷船首部外板に凹損

原因
第二海栄丸・・・見張り不十分、追越し船の航法不遵守(主因)
第八英祥丸引船列・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第二海栄丸が、見張り不十分で、第八英祥丸引船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第八英祥丸引船列が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月11日01時30分
 千葉県犬吠埼東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 引船第八英祥丸  
総トン数 167トン  
全長 35.40メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 土運船78 土運船77
総トン数 約903トン 約903トン
長さ 48.00メートル 48.00メートル
船種船名 漁船第二海栄丸  
総トン数 79トン  
全長 35.06メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 595キロワット  

3 事実の経過
 第八英祥丸(以下「英祥丸」という。)は、操船位置が船首端から9メートルの鋼製引船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、船首1.8メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、いずれも空倉で船首尾1.1メートルの等喫水となった、非自航で無人の同型土運船78(以下「78号」という。)及び同77(以下「77号」という。)を順列に曳航(えいこう)し(以下「英祥丸引船列」という。)、平成15年6月6日10時30分北海道稚内港を発し、大阪港に向かった。
 英祥丸引船列の曳航模様は、77号と78号の各両舷船首部に係止した長さ25メートルのブライドルワイヤに、曳航索として78号には直径90ミリメートル(以下「ミリ」という。)で長さ300メートルの合成繊維索を、77号には直径42ミリで長さ600メートルのワイヤロープを、それぞれシャックルで連結し、これらの他端を英祥丸の船尾部に係止し、同船の船尾から77号の後端までの長さを約500メートルに調整していた。また、夜間、英祥丸には、所定の灯火のほか橙色(とうしょく)回転灯を表示し、各土運船には、後部甲板室上にバッテリー給電式の左右各舷灯と船尾灯のほか、後部甲板室上と前部甲板上の両舷に計4個の点滅式標識灯を表示していた。
 A受審人は、単独で3直4時間制の船橋当直のうち、8時から12時までを自ら受け持ち、0時から4時までを航海当直部員のB指定海難関係人に、4時から8時までを一等航海士に、それぞれ委ねることとしており、同月10日夜間鹿島灘を南下中、B指定海難関係人に同当直を交代することとしたが、任せておいても大丈夫と思い、船橋当直者に対し、他船が接近してきた際の報告について指示することなく、降橋して休息した。
 翌11日00時00分船橋当直に就いたB指定海難関係人は、所定の灯火が点灯されていることを確認し、銚子港東防波堤川口灯台(以下「川口灯台」という。)から016度(真方位、以下同じ。)5.9海里の地点において、針路を174度に定め、機関を全速力前進にかけ6.0ノット(対地速力、以下同じ。)の曳航速力で、自動操舵により進行した。
 01時20分B指定海難関係人は、犬吠埼灯台から079度2.1海里の地点に達したとき、右舷船尾61度1,330メートルのところに、同航中の第二海栄丸(以下「海栄丸」という。)のマスト灯と左舷灯を初めて視認し、後方から自船に接近していることを知ったが、同船の避航を期待して、船長に対し、その旨を報告しなかった。
 B指定海難関係人は、その後海栄丸が衝突のおそれがある追い越し態勢で接近したが、警告信号を行えないで続航中、77号の至近に海栄丸が迫って衝突の危険を感じ、同船に向け探照灯の点滅を繰り返したものの、01時30分犬吠埼灯台から106度2.2海里の地点に達したとき、同灯台から099度2.15海里の地点において、原針路原速力のままの77号の右舷中央部に、海栄丸の左舷船首部が、後方から31度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 B指定海難関係人は、衝撃を感じず、衝突したことに気付かなかったので、そのまま続航し、その後、A受審人は、海栄丸所有者からの連絡により衝突したことを知らされ、B指定海難関係人に衝突の事実を確認し、事後の措置に当たった。
 また、海栄丸は、まき網漁業船団所属の鋼製探索船で、C受審人ほか5人が乗り組み、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、操業の目的で、同月11日00時40分僚船とともに銚子港を発し、犬吠埼南方17海里沖合の漁場に向かった。
 C受審人は、所定の灯火のほか船団灯を表示し、乗組員を休息させ、1人で操舵と見張りに当たって銚子港東防波堤沖合に至り、00時58分川口灯台から043度300メートルの地点において、針路を143度に定め、休漁の可能性があったので、機関を半速力前進にかけ7.5ノットの速力とし、レーダーを休止したまま、手動操舵により進行した。
 01時20分C受審人は、犬吠埼灯台から064度1.5海里の地点に達したとき、左舷船首30度1,330メートルのところに、同航中の英祥丸のほか、その後方の78号と77号とにより構成された英祥丸引船列を視認できる状況となったが、ともに出漁する多数の僚船に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わず、英祥丸引船列の存在に気付かなかった。
 C受審人は、その後衝突のおそれがある追い越し態勢で英祥丸引船列の77号に接近したが、同引船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けずに続航中、海栄丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、77号の右舷中央部外板に凹損を、海栄丸の左舷船首部外板に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、千葉県犬吠埼東方沖合において、海栄丸が、見張り不十分で、英祥丸引船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、英祥丸引船列が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 英祥丸引船列の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、他船が接近してきた際の報告について指示しなかったことと、同当直者が、船長に対し、海栄丸が後方から自船に接近してきた旨を報告しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 C受審人は、夜間、千葉県犬吠埼東方沖合を漁場に向け南下する場合、同航する英祥丸引船列を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ともに出漁する多数の僚船に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、英祥丸引船列の存在に気付かず、同引船列を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま進行して同引船列との衝突を招き、77号の右舷中央部外板に凹損を、海栄丸の左舷船首部外板に凹損を、それぞれ生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、鹿島灘を南下中、無資格の部下に船橋当直を交代する場合、船橋当直者に対し、他船が接近してきた際の報告について指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、任せておいても大丈夫と思い、他船が接近してきた際の報告について指示しなかった職務上の過失により、海栄丸が後方から自船に接近してきた旨の報告を得られず、警告信号を行えないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、単独の船橋当直について千葉県犬吠埼東方沖合を南下中、海栄丸が後方から自船に接近してきた際、船長に対し、その旨を報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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