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平成15年横審第94号
件名

貨物船ユーロトレーダー灯浮標衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月3日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、西山烝一)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:ユーロトレーダー水先人 水先免許:伊良湖三河湾水先区 

損害
ユ 号・・・左舷後部外板に擦過傷
第2号灯浮標・・・沈没

原因
操船(操舵指示)不適切

主文

 本件灯浮標衝突は、操舵指示が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月1日12時36分
 伊良湖水道航路南方海域
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ユーロトレーダー
総トン数 85,706トン
全長 289.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 15,925キロワット

3 事実の経過
 ユーロトレーダー(以下「ユ号」という。)は、船橋前面から船首端まで約250メートルの船尾船橋型の貨物船で、ギリシャ共和国人船長Bほかフィリピン共和国人船員など30人が乗り組み、空倉のまま、船首7.10メートル船尾9.00メートルの喫水をもって、伊勢湾水先区水先人水先のもと、平成15年8月1日09時20分名古屋港第3区東海元浜ふ頭F11岸壁を発し、オーストラリアのグラッドストーン港に向かった。
 伊良湖三河湾水先区水先人であるA受審人は、発航時から乗船し、10時10分伊勢湾水先区水先人が名古屋港東航路第2号灯浮標までの水先を終えたので水先業務を引き継ぎ、同水先人を下船させ、水先人下船予定地点である、神島灯台から122度(真方位、以下同じ。)3.5海里ばかりの地点までの水先業務に就き、船長、二等航海士及び甲板手が在橋のもと、伊良湖水道航路(以下「航路」という。)に向け伊勢湾を南下した。
 12時19分半A受審人は、神島灯台から354度3,150メートルの地点において、航路内の中央部付近から西側一面の海域に100隻ほどの漁船が操業していたので、漁船群を航路西側海域に寄ってもらうよう前方の警戒船に指示し、針路を航路中央部付近に向く130度に定め、機関を半速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて12.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、甲板手を手動操舵に当たらせ、間もなく航路に入り進行した。
 A受審人は、12時25分わずか過ぎ神島灯台から039度2,190メートルの地点に達したとき、航路南端付近の数十隻の漁船が西側から航路内中央部付近を塞ぐ(ふさぐ)ように密集し、移動する気配がないので、やむなく針路を航路の少し左側に向く126度に転じて続航した。
 12時30分A受審人は、航路南端を通過し終えたので、右舷側至近に存在する漁船群への影響を考慮し、速力を微速力前進の9.5ノットに減じたのち、同時30分半神島灯台から082度3,180メートルの地点に達したとき、ようやく漁船群から脱し、伊勢湾第2号灯浮標(以下「第2号灯浮標」という。)を右舷船首19度1,620メートルのところに見る状況となった。
 ところで、第四管区海上保安本部は、航路南側海域において、航路に出入する船舶に対し、第2号灯浮標を左舷側に見て航過したのち所定の針路に向けるよう航行安全指導(以下「航行安全指導」という。)を行っていた。
 A受審人は、航行安全指導に従って、第2号灯浮標を左舷側700メートルばかりに航過する、170度方向へ向けて針路を転じることとしたが、それまで予定針路を令して意のごとく転針が行われていたことから、難なく新針路に向くものと思い、右方へ大角度の転針を行わなければならず、また、単に転じる針路を指示しただけでは、折からの潮流や風波の影響を受けて意図した回頭が得られずに同灯浮標に接近することも予想されたから、同灯浮標に衝突しないよう、転針を舵角で令したのち、回頭状況を確かめて次の舵角を令するなど、操舵指示を適切に行わないで、甲板手にワン セブン ゼロと170度を令した。
 こうして、A受審人は、右回頭中、12時32分半わずか過ぎ神島灯台から090度3,620メートルの地点で、船首が145度に向き、右舷船首7度1,000メートルに第2号灯浮標を視認する状況となったとき、右への回頭が意に反して遅く、ようやく同灯浮標に著しく接近することに気付き、舵角指示器を見たところ、右舵15度になっていたので、甲板手に舵角20度、次いで右舵一杯を令したが、12時36分神島灯台から102度4,170メートルの地点において、ユ号は、180度に向首したとき、約10.0ノットの速力をもって、その左舷後部が第2号灯浮標に衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、付近には約1.8ノットの南東流があった。
 衝突の結果、ユ号は、左舷後部外板に擦過傷を生じ、第2号灯浮標は沈没した。

(主張に対する判断)
 本件は、航路南端を通過し終えて第2号灯浮標を左舷側に航過する、170度方向へ向けて転針中に同灯浮標に衝突したものである。
 補佐人は、漁船群に邪魔され、航路の中央から右の部分を航行できず、航路南端を通過し終えたときも、右舷側の至近に漁船群が存在しており、いきなり大きな舵角をとることができなかったもので、本件の原因は、漁船群が航路を閉鎖したことによって発生した旨を主張するので、この点について検討する。
 確かに漁船群は、航路内及び航路南端付近に存在していたが、A受審人は質問調書中で「航路南端付近の至近の漁船群を航過し、甲板手にワン セブン ゼロと170度を令したときには、同漁船群と第2号灯浮標との間には航行を妨げるものはなかった。」旨の供述記載をしており、また、同人の質問調書添付の航跡図中にも同様に漁船など航行を妨げるものの記載もないのであるから、補佐人の主張は、これを採用することはできない。

(原因の考察)
 A受審人は、第2号灯浮標を左舷側に航過する、170度方向へ向けて針路を転じるとき、同灯浮標は右舷船首18.5度1,600メートルに存在し、同針路とすれば同灯浮標を左舷側700メートルばかりで航過する状況であった。
 以上の点から、単に転じる針路を指示するのではなく、折からの潮流や風波の影響を考慮し、意図した回頭が得られるよう、転針を舵角で令したのち、回頭状況を確かめて次の舵角を令するなど、操舵指示を適切に行わなかったことを本件発生の原因として摘示するのが相当である。 

(原因)
 本件灯浮標衝突は、航路南端海域から第2号灯浮標を左舷側に航過する針路に転じる際、操舵指示が不適切で、右回頭が遅れ同灯浮標に向かって進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、航路南端海域から第2号灯浮標を左舷側に航過する針路に転じる場合、右方へ大角度の転針を行わなければならず、また、単に転じる針路を指示しただけでは、折からの潮流や風波の影響を受けて意図した回頭が得られずに同灯浮標に接近することも予想されたから、同灯浮標に衝突しないよう、転針を舵角で令したのち、回頭状況を確かめて次の舵角を令するなど、操舵指示を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで予定針路を令して意のごとく転針が行われていたことから、難なく新針路に向くものと思い、操舵指示を適切に行わなかった職務上の過失により、同灯浮標に向かって進行して衝突を招き、ユ号の左舷後部外板に擦過傷を生じ、第2号灯浮標を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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