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平成15年仙審第49号
件名

貨物船第三寶祥丸漁船広勝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月25日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎、吉澤和彦、内山欽郎)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:第三寶祥丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:広勝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
第三寶祥丸・・・右舷船首部外板にペイント剥離
広勝丸・・・船首部を圧壊

原因
広勝丸・・・見張り不十分、船員の常務(前路に進出)不遵守

主文

 本件衝突は、広勝丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の第三寶祥丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月14日06時43分
 岩手県綾里埼南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三寶祥丸 漁船広勝丸
総トン数 498トン 9.62トン
全長 75.23メートル 18.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   120

3 事実の経過
 第三寶祥丸(以下「寶祥丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及び一等航海士ほか3人が乗り組み、澱粉1,500トンを載せ、船首3.5メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成15年5月12日15時30分愛知県名古屋港を発し、北海道苫小牧港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を03時から07時までと15時から19時までを一等航海士に、07時から11時までと19時から23時までを自ら、及び11時から15時までと23時から翌日03時までを次席一等航海士による単独の3直4時間輪番制とし、当直交代時にはそれぞれ開始時刻の20分前に昇橋して引継を受けていた。
 翌々14日05時30分一等航海士は、陸前御崎岬灯台から139度(真方位、以下同じ。)11.9海里の地点で、針路を021度に定め、機関を回転数毎分250の全速力前進にかけ、11.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、自動操舵で進行した。
 06時28分一等航海士は、3海里レンジで作動していたレーダーで右舷船首20度3.0海里のところに、広勝丸の映像を初めて認め、その後同船が西行しているのを確認し、同時38分正船首約1海里になった同船を視認し、その航行模様を見ていたところ、右転して東行し始めたので付近海域に散在していた漁業用ボンデン(以下「ボンデン」という。)に向かったものと考え、自船の前路から右方に替わって行くのを認めた。
 一方、06時41分ごろ船橋当直交替のため昇橋したA受審人は、一等航海士から右舷船首方向の広勝丸の動静とその他の状況について引継を受け、自ら同船が東方に向かってゆっくり航行しているのを視認し、その方位が右方に替わっているのを確認した。
 06時42分A受審人は、綾里埼灯台から145度7.9海里の地点に達したとき、広勝丸が右舷船首30度370メートルになったところで停止したので、ボンデンに近づき延縄を揚げるためのものと考え、同船と十分離れて無難に航過する態勢であると判断し、その動静を見ながら同一針路、速力で続航した。
 06時42分半少し過ぎA受審人は、広勝丸が突然右転して針路を自船の前路にあたる北西方に向け、速力を増しながら航行し出したことから、急いで船橋内左舷側にある汽笛ボタンで短音一声を鳴らし、引き続き舵輪のところに戻って左舵一杯の50度をとったものの、及ばず、06時43分綾里埼灯台から144度7.8海里の地点において、寶祥丸は、船首が017度を向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部の外板に、広勝丸の船首が後方から72度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、広勝丸は、かご漁業に従事するFRP製漁船で、昭和50年3月取得の一級小型船舶操縦士免許を有するB受審人が1人で乗り組み、たこかご漁の目的で、船首1.0メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、同月13日23時00分岩手県大船渡港を発し、翌14日00時30分綾里埼南東方9海里沖合の漁場に至り、すでに設置していたかご延縄を揚げてたこ5枚を獲たのち、次の揚縄地点に向かった。
 操業を繰り返したのち操舵装置の点検をしていたB受審人は、06時00分綾里埼灯台から132度11.0海里の地点で、帰航することとし、針路をほぼ大船渡港に向く285度に定め、機関回転数毎分600の微速力前進にかけ、6.0ノットの速力で自動操舵として進行した。
 ところで、B受審人は、装備している操舵装置が20日程前から操舵が軽くなったり、重くなったりし出し、機関回転数毎分600から1,200までの間において自動操舵の操作が順調に応答していたものの、同回転数毎分1,200を超え速力が12.0ノットを超えると操舵が応答しない状況になって定針しなかったので、当日も、遠隔操舵装置を操作して故障箇所を探すため操舵室に籠もり、速力を上げたり下げたりしながら点検を繰り返したが、操舵機電磁弁の断線部が切れかかった状態であったことから、機関回転数の増減に伴い同機の振動が変わり、断線部の接触具合も変化して操舵の応答状況が定まらなかったことに気付かなかった。
 B受審人は、徐々に速力を上げていったところ、これまでと同様に針路が定まらなくなり、06時38分綾里埼灯台からほぼ144度7.8海里の地点に達したとき、ほぼ左舷正横方向1海里のところに北上する寶祥丸が存在したが、点検に気を奪われて、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、まもなく船体が090度方向に向きを変えたことにも気付かないまま点検を続けるうち、06時42分綾里埼灯台から144度7.9海里の地点のボンデン付近に達したところで、いったん船体を停止した。
 06時42分半B受審人は、船体が305度方向を向いていたことに気付かないまま、12.0ノットの速力で航行を開始したところ、このころ左舷船首50度215メートルのところに寶祥丸が接近し、同船の前路に向かって衝突の危険のある態勢で進出する状況となったが、依然点検に気を奪われ、周囲の見張りを行わず、このことに気付かずに進行中、同船が吹鳴する汽笛を聞き、間近に迫った同船の青色船体を初めて認め、機関を全速力後進にかけたが、効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、寶祥丸は右舷船首部外板にペイント剥離を生じ、広勝丸は船首部を圧壊した。 

(原因)
 本件衝突は、岩手県綾里埼南東方沖合において、広勝丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の寶祥丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、岩手県綾里埼南東方沖合を帰航中、速力が上昇すると作動不良となって針路が定まらなくなる操舵装置を、増減速を繰り返しながら操舵室内において点検する場合、北上する寶祥丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、点検に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、寶祥丸が接近していることに気付かないまま進行して同船の前路に進出し、同船との衝突を招き、同船の右舷船首部外板にペイント剥離を生じさせ、広勝丸の船首部を圧壊するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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