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平成15年函審第57号
件名

漁船第三十五泉栄丸貨物船リトル ベア衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年3月19日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、岸 良彬、黒岩 貢)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第三十五泉栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:リトルベア船長 

損害
第三十五泉栄丸・・・船首部を圧壊
リ 号・・・右舷船首部外板に擦過傷

原因
リ 号・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第三十五泉栄丸・・・動静監視不十分で、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、リトル ベアが、見張り不十分で、前路を左方に横切る第三十五泉栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第三十五泉栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月29日06時25分
 山口県角島南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五泉栄丸 貨物船リトル ベア
総トン数 14.96トン 4,732トン
全長 19.20メートル 96.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 433キロワット 2,427キロワット

3 事実の経過
 第三十五泉栄丸(以下「泉栄丸」という。)は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年4月28日15時30分山口県特牛港(こっといこう)を発し、福岡県沖ノ島東方沖合12海里付近の漁場で操業を行い、翌29日04時20分いか335キログラムを漁獲して操業を終え、同港に向けて帰途に就いた。
 ところで、泉栄丸は、両舷側沿いにいか釣り機がそれぞれ5台据え付けられており、正船首方を除いて両舷前方の所々に死角が生じ、操舵室から前方の見通しが悪い状況であった。
 A受審人は、操舵室右舷側前面に設置されたテレビにより天気予報の確認などを行ったのち、06時10分角島灯台から251度(真方位、以下同じ。)8.3海里の地点で、針路を087度に定め、9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、左舷側の窓を開けて前方を確認し、左舷船首約25度5海里ばかりに南下中のリトル ベア(以下「リ号」という。)を初認したが、同船が大型貨物船であったことから、一瞥しただけで自船よりも速力のあるリ号が自船の前路を替わるものと考え、以後操舵室右舷側のいすに腰掛けてテレビを見るなどしながら続航した。
 06時19分半A受審人は、角島灯台から247.5度7.0海里の地点に至り、リ号が左舷船首25度2.0海里に近づき、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然として自船の船首方を無難に替わっていくものと思い、いすに腰掛けたままリ号に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中、同時25分わずか前ふといすから立ち上がったところ、正船首方至近に迫った同船を認め、機関を後進としたが効なく、06時25分角島灯台から245度6.2海里の地点において、A栄丸は、原針路原速力のまま、同船の船首部がリ号の右舷船首部に前方から41度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
 また、リ号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、B指定海難関係人ほかロシア連邦人15人が乗り組み、アルミインゴット1,395トンを積載し、船首4.60メートル船尾4.85メートルの喫水をもって、同月27日22時00分富山県伏木富山港を発し、熊本県八代港に向かった。
 翌々29日06時00分B指定海難関係人は、角島灯台から309.5度1.8海里の地点に達したとき、昇橋して単独の船橋当直に就き、針路を230度に定め、機関を全速力前進にかけて13.7ノットの速力で自動操舵により進行し、同時16分少し前同灯台から254度4.3海里の予定転針地点に至り、針路を226度に転じて続航した。
 06時19分半B指定海難関係人は、角島灯台から249.5度5.0海里の地点において、右舷船首16度2.0海里のところに泉栄丸を認めることができ、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、船橋右舷後部の海図台でGPSによる船位の確認に気を取られ、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなど同船の進路を避けずに進行中、リ号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、泉栄丸は、船首部を圧壊し、リ号は、右舷船首部外板に擦過傷を生じた。 

(原因)
 本件衝突は、山口県角島南西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中のリ号が、見張り不十分で、前路を左方に横切る泉栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東航中の泉栄丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、山口県角島南西方沖合を単独の航海当直で東航中、前路を右方に横切るリ号を認めた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、リ号に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、一瞥して無難に替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後リ号が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、泉栄丸の船首部を圧壊させ、リ号の右舷船首部外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、山口県角島南西方沖合を単独の航海当直で南下する際、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:11KB)





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