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平成15年門審第119号
件名

漁船福栄丸漁船幸進丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、西村敏和、千葉 廣)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:福栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:幸進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
福栄丸・・・船首船底に擦過傷
幸進丸・・・左舷後部及び操縦室を圧壊、機関室へ浸水し、機関を濡損

原因
福栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、福栄丸が、見張り不十分で、錨泊中の幸進丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月3日04時15分
 玄界灘烏帽子島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船福栄丸 漁船幸進丸
総トン数 14.33トン 6.6トン
全長 18.20メートル  
登録長   13.04メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 389キロワット  
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 福栄丸は、主に二艘ごち網漁業に従事するFRP製漁船で、平成14年3月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同15年8月3日02時55分福岡県船越漁港を発し、主船である僚船に後続して、同県沖ノ島西方20海里付近の漁場へ向かった。
 03時10分A受審人は、烏帽子島灯台から146度(真方位、以下同じ。)9.0海里の地点で、針路を339度に定め、機関を回転数毎分2,050の全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、法定灯火を表示して、手動操舵によって進行した。
 ところで、平素、A受審人は、自船が速力12.0ノットの全速力前進で航走すると、船首浮上により水平線が隠れて船首部両舷に渡って約25度の範囲に死角が生じることから、レーダーを監視するなり、船首を左右に振って蛇行するなりして、船首死角を補う見張りを行っていたものであった。
 03時55分半A受審人は、烏帽子島灯台から057度2.1海里の地点に達したとき、同灯台が左舷に並んだ辺りから周囲に漁船などを全く見掛けなくなったうえ、1.5海里レンジとして作動していたレーダー画面上にも、先行する僚船以外に何も映っていなかったので、付近に航行の支障となるような他船はいないものと思い、一週間ばかり前に設置した魚礁位置を確かめようとして、GPSプロッターを操作することなどに気を取られ、その後、前示船首死角を補う見張りを十分に行うことなく続航した。
 こうして、04時10分A受審人は、烏帽子島灯台から011度3.9海里の地点に至ったとき、正船首方1.0海里のところに、幸進丸が表示する錨泊灯1灯及び緑色回転灯1灯を視認することができ、しばらくして、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、なお、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく進行中、04時15分烏帽子島灯台から004.5度4.8海里の地点において、福栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が幸進丸の左舷後部に後方から74度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、幸進丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成12年1月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同15年8月2日06時30分福岡県玄界漁港を発し、加唐島西方沖の漁場へ向かった。
 07時50分B受審人は、加唐島沖の漁場に到着して操業を行い、19時30分いさき約20キログラムを獲たところで、次の操業予定地である烏帽子島北方5海里付近の漁場へ移動し、20時10分水深約40メートルの前示衝突地点において、船首から錨を投下して錨索を約55メートル延出したのち、法定灯火である錨泊灯1灯を表示したうえ、付近を航行する他船が錨泊中の自船を容易に見つけることができるよう、明るい緑色回転灯1灯を点灯して錨泊を開始した。
 ところで、烏帽子島北方5海里付近は、壱岐水道を航行する大型船の主要航路を外れていることから、特に船舶が輻輳(ふくそう)するような海域ではなく、また、行き交う漁船なども比較的少ないところであった。
 こうして、B受審人は、烏帽子島北方の漁場で1時間ばかり操業を行ったのち、23時30分翌朝の操業に備えて操縦室下の船室へ移動し、船首を西方へ向けた態勢で錨泊中、幸進丸は、船首を265度に向けていたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、福栄丸は船首船底に擦過傷を生じ、幸進丸は左舷後部及び操縦室を圧壊して機関室への浸水を招き、機関に濡損を生じた。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、玄界灘烏帽子島北方沖合において、福栄丸が、僚船に後続して漁場へ向けて航行中、見張り不十分で、前路で錨泊中の幸進丸を避けなかったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、玄界灘烏帽子島北方沖合において、僚船に後続して漁場へ向けて航行する場合、船首浮上により水平線が隠れて船首部両舷に渡って死角が生じていたのであるから、死角内の他船を見落とすことがないよう、適宜、レーダーを監視するなり、船首を左右に振って蛇行するなりして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、烏帽子島灯台が左舷に並んだ辺りから周囲に漁船などを全く見掛けなくなったうえ、レーダー画面上にも、先行する僚船以外に何も映っていなかったので、付近に航行の支障となるような他船はいないものと思い、一週間ばかり前に設置した魚礁位置を確かめようとして、GPSプロッターを操作することなどに気を取られ、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の幸進丸が表示する錨泊灯及び点灯していた明るい緑色回転灯に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首船底に擦過傷を生じ、幸進丸の左舷後部及び操縦室を圧壊して機関室への浸水を招き、機関に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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