(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月29日05時15分
山口県角島西北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船進漁丸 |
漁船功生丸 |
総トン数 |
4.8トン |
4.6トン |
登録長 |
11.78メートル |
11.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
294キロワット |
323キロワット |
3 事実の経過
進漁丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、昭和50年2月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、いか樽流し漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成15年3月29日04時00分山口県角島港を発し、法定灯火を表示して同港西北西方沖合約12海里の漁場に向かった。
ところで、C組合(以下「C」という。)に所属する組合員が行うタンポ流し漁と称するいか樽流し漁は、1樽が、水深に応じて長さを調整できる釣り糸の先に、数本のいか釣り針を結び付けた針糸を接続してその先端に錘を取り付けたものを、直径約40センチメートルの発泡スチロール製浮玉に吊り下げた漁具構成になっており、組合員間の取決めにより、漁場への先着順に操業場所を決め、後続船は先着船から1海里以上離した場所で操業することとし、漁具20樽を北西方に向けて100メートル間隔で1樽ずつ海中に投入したのち、投入開始位置に戻って約1時間後に揚収を始めることになっていた。また、漁場に到着して漁具投入準備に取りかかった先着船は、取決めにより黄色回転灯を点灯して後続船に知らせることにしていたが、この際に、航行中の動力船が表示しなければならないマスト灯を消灯して同回転灯、両舷灯及び船尾灯を点灯することにしていた。
こうして、C組合員のA受審人は、04時13分半角島灯台から167度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの地点で、針路を295度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵室右舷側に固定したいすに腰を掛け、周囲の見張りに当たりながら、自動操舵によって進行した。
05時05分A受審人は、角島灯台から291.5度10.8海里の地点に至ったとき、正船首方2.1海里のところに、先着船が点灯した黄色回転灯を認めるとともに、1.5海里レンジとしたレーダーによって左舷船尾35度1.2海里のところに、同航中の功生丸の映像を探知し、先着船の約1海里手前で操業することとして引き続き両船の動静を監視しながら、同じ姿勢で続航した。
05時10分A受審人は、角島灯台から292度11.7海里の地点に達し、船首を315度に向けて機関を中立運転としたとき、レーダーにより左舷船首20度1.1海里のところに前示先着船を、正船尾方1.1海里のところに功生丸をそれぞれ探知し、後続する同船に対して操業準備に取りかかったことを示すために、取決めに従って、マスト灯を消灯し、黄色回転灯を点じて漂泊を開始した。
05時12分A受審人は、前示漂泊地点で、いすに腰を掛けたまま右舷側の窓から船尾方を見たとき、正船尾方0.7海里に接近した功生丸が表示する白、紅、緑3灯を初めて視認し、同時13分再度船尾方を見たところ、同方位0.5海里に衝突のおそれがある態勢で自船に接近する同灯火を認めたが、自船に声をかけるつもりで接近してくるものか、さもなくば、そのうちに黄色回転灯に気付いて避けてくれるものと思い、引き続き功生丸に対する動静監視を十分に行うことなく、同船が自船を避けずに接近してくることに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したときに、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもなく、漂泊を続けた。
05時15分少し前A受審人は、功生丸の動静が気になって再度船尾方を見たところ、間近に同船を認め、衝突の危険を感じ、急いで機関を前進にかけて左舵一杯としたが、間に合わず、05時15分角島灯台から292度11.7海里の地点において、進漁丸は、わずかに前進行きあしがついて船首が205度を向いたとき、功生丸の船首が、左舷船尾に前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に当たり、視界は良好で、日出時刻は06時10分であった。
また、功生丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、平成元年8月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、いか樽流し漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同15年3月29日04時00分角島港を発し、法定灯火を表示して同港西北西方沖合約15海里の漁場に向かった。
C組合員のB受審人は、発航後、操業場所をどこにするか迷って適宜針路を変えながら西行したのち、05時05分角島灯台から291.5度9.8海里の地点で、針路を315度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの速力で、操舵室左舷側に固定したいすに腰を掛け、折から右舷正横遠方に認めたまき網船団の作業灯の明かりを見ながら、自動操舵によって進行した。
定針時にB受審人は、右舷船首15度1.2海里のところに、同航中の進漁丸が表示する船尾灯を認めることも、1.5海里以上のレンジとしたレーダーで同船を探知することもできる状況であったが、いか樽流し漁を行うときの取決めに従い、先着船から1海里以上離して操業場所を決めるつもりで、レーダー画面の1海里の範囲を一瞥して他船の映像を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、進漁丸に気付かず、まき網船団が操業区域違反かどうかなどを気にしながら続航した。
05時10分B受審人は、角島灯台から290度10.8海里の地点に至ったとき、進漁丸が正船首方1.1海里のところで漂泊を開始し、黄色回転灯を表示して操業準備に取りかかったことを示したが、同回転灯に気付かずに、同じ針路、速力で進行した。
05時12分B受審人は、角島灯台から290.5度11.2海里の地点に達したとき、正船首方0.7海里のところに、進漁丸が表示する黄色回転灯及び船尾灯を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、依然、前示まき網船団の作業灯の明かりを見ながら、同船団が操業区域違反かどうかなどを考えることに気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、漂泊中の進漁丸に気付かず、同船を避けずに続航中、功生丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、進漁丸は左舷船尾のオーニング用支柱を曲損すると同時に右舷側に転覆して機関等に濡れ損を生じたが、クレーン船によって引き起こされ、僚船によって豊北町矢玉の修繕工場に引き付けられ、のち修理された。また、功生丸は左舷船首の錨台等に擦過傷を生じただけで、修理は行われなかった。なお、A受審人は転覆した進漁丸の操舵室から這い出し、船底にしがみついていたところを功生丸に無事救助された。
(原因)
本件衝突は、夜間、山口県角島西北西方沖合において、漁場に向けて西行する功生丸が、見張り不十分で、漂泊中の進漁丸を避けなかったことによって発生したが、進漁丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、山口県角島西北西方沖合において、漁場に向けて西行する場合、漂泊中の他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、いか樽流し漁を行うときの取決めにより、先着船から1海里以上離して操業場所を決めるつもりで、レーダー画面の1海里の範囲を一瞥して他船の映像を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の進漁丸に気付かず、右舷正横遠方に認めたまき網船団の作業灯の明かりを見ながら、進漁丸を避けずに進行して同船との衝突を招き、進漁丸の左舷船尾オーニング用支柱に曲損を生じさせると同時に右舷側に転覆させて機関等に濡れ損を、功生丸の左舷船首の錨台等に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、山口県角島西北西方沖合において、いか樽流し漁の準備に取りかかるために漁場に先着して漂泊中、後続して自船に向首接近する功生丸が表示する灯火を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、引き続き同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船に声をかけるつもりで接近してくるものか、さもなくば、そのうちに黄色回転灯に気付いて避けてくれるものと思い、引き続き功生丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船を避けないまま接近することに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したときに、機関を使用して移動するなど進漁丸との衝突を避けるための措置もとらずに漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。