(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年9月15日14時30分
山口県角島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第2吉成丸 |
プレジャーボート幸神 |
総トン数 |
9.72トン |
|
全長 |
18.40メートル |
13.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
501キロワット |
356キロワット |
3 事実の経過
第2吉成丸(以下「吉成丸」という。)は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、平成12年7月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.60メートル船尾1.65メートルの喫水をもって、同15年9月15日13時30分山口県特牛港(こっといこう)を発し、同県角島西北西方沖合約25海里の漁場に向かった。
A受審人は、13時55分角島灯台から181度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、針路を298度に定め、機関を回転数毎分1,380にかけ10.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)として、自動操舵により進行した。
14時27分A受審人は、角島灯台から285.5度5.1海里の地点に達したとき、3海里レンジとしていたレーダーを一見しただけで、付近に支障となる他船を認めなかったので、いか釣り用の仕掛けを作ろうと思い立ち、いか釣針などを探すため、周囲の見えない操舵室下部の物入れとしている区画に入り、同室を無人として適正な船橋当直を維持しなかった。
A受審人は、14時28分角島灯台から286度5.3海里の地点に至ったとき、右舷船首28度1,260メートルのところに、釣り場を発進した直後の幸神を視認でき、その後、同船の方位が変わらず、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、操舵室を無人としていて、このことに気付かず、速やかに右転するなど幸神の進路を避けることなく続航中、14時30分角島灯台から287度5.6海里の地点において、吉成丸は、原針路、原速力のまま、その船首が幸神の左舷船尾に前方から52度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、視界は良好であった。
また、幸神は、汽笛を装備したFRP製プレジャーボートで、同15年4月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日06時00分山口県下関漁港を発し、角島西方沖合約6海里の釣り場に向かった。
B受審人は、08時ごろ釣り場に至り、パラシュート型のシーアンカーに長さ80メートルの引綱を付けて船尾から投入し、1時間に1回ほど潮のぼりを繰り返しながら釣りを行っていたところ、14時過ぎに釣果が芳しくなくなったので、自らは操舵室で適宜機関を使用して引綱の張力を調整しながら同乗者にシーアンカーを収納させ、同時28分少し前釣り場を発進して帰途に就いた。
14時28分B受審人は、角島灯台から290.5度5.8海里の地点で、針路を170度に定め、機関を回転数毎分1,200にかけ12.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
定針時にB受審人は、左舷船首24度1,260メートルのところに吉成丸を視認でき、その後、同船の方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、後方に顔を向けて、操舵室後部のいすに座った同乗者との会話に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したときに、速やかに大幅に右転するなど、吉成丸との衝突を避けるための協力動作をもとらずに続航中、幸神は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、吉成丸は、船首外板に破口と左舷船首舷縁材に損傷を生じたが、のち修理され、幸神は、左舷後部を大破して、吉成丸の僚船によって特牛港に曳航されたが同港内で沈没し、のち廃船処分とされた。
また、B受審人及び同乗者が頭部外傷等を、それぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、山口県角島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、西行する吉成丸が、操舵室を無人として適正な船橋当直を維持せず、前路を左方に横切る幸神の進路を避けなかったことによって発生したが、南下する幸神が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、山口県角島西方沖合を漁場に向けて西行する場合、操舵室に在室して適正な船橋当直を維持すべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーを一見しただけで付近に支障となる他船はいないと思い、いか釣針などを探すため、周囲の見えない物入れとしている区画に入り、操舵室を無人として適切な船橋当直を維持しなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する幸神に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、吉成丸に船首部破口及び左舷船首舷縁材損傷を、幸神に左舷後部大破をそれぞれ生じさせ、B受審人及び同乗者に頭部外傷等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、山口県角島西方沖合を帰航のため南下する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵室後部のいすに座った同乗者との会話に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する吉成丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。