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平成15年門審第63号
件名

プレジャーボート漁聖丸プレジャーボートヒーロートム衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、長谷川峯清、小寺俊秋)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:漁聖丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
漁聖丸・・・左舷船首錨台等を破損
ヒ 号・・・マストが倒壊、左舷側舷縁を凹損、船舶所有者及び艇員1人が頚椎脱臼骨折等の負傷

原因
漁聖丸・・・港則法の航法(航路航行、避航動作)不遵守、動静監視不十分(主因)
ヒ 号・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、関門港において、入港する漁聖丸が、航路によらなかったばかりか、動静監視不十分で、ヒーロートムとの衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ヒーロートムが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月24日15時15分
 関門港下関区
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート漁聖丸 プレジャーボートヒーロートム
全長 11.98メートル 8.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 139キロワット 11キロワット

3 事実の経過
 漁聖丸は、汽笛を装備していないFRP製プレジャーボートで、平成10年7月交付の四級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同14年8月24日06時00分関門港東口の関門港田野浦区(以下、関門港各港区の名称については「関門港」を省略する。)太刀浦漁船溜まりを発し、同港西口沖合の蓋井島南東方3海里付近の釣り場に至って釣りを行った後、14時23分帰途についた。
 ところで、関門港は、最狭部の幅約600メートル、長さ約15海里の関門海峡のほとんどを港域とする特定港で、境界線を示す多数の灯浮標が設置された最狭部の幅500メートルの関門港関門航路(以下「航路」という。)が同海峡中央部に設定されていた。また、関門海峡は、中間付近にある可航幅約800メートルの大瀬戸で約60度わん曲していた。
 こうしてA受審人は、田野浦区に入港するにあたり、若松区及び小倉区に出入する大型船と出会うことを避けるつもりで、航路西側の六連島区、航路を横断して航路東側の六連島区、西山区及び下関区を、次に関門航路第23号灯浮標(以下、関門航路各灯浮標の名称については「関門航路」を省略する。)付近で航路を再び横断して門司区及び田野浦区を東行することとし、14時47分半わずか過ぎ台場鼻灯台から354度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で関門港の港界に達したとき、針路を178度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、約0.5ノットの東流に乗じ12.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、航路によらず、航路西側の六連島区を手動操舵で進行した。
 A受審人は、14時52分半わずか前第6号灯浮標の南西550メートル付近で航路の横断を開始し、同時56分わずか前第7号灯浮標を右舷側30メートルに見て横断を終え、針路を186度に、以降、同時57分半少し過ぎ第9号灯浮標を右舷側10メートルに見て145度に、15時00分半第11号灯浮標を右舷側30メートルに見て141度に、同時09分半少し過ぎ第19号灯浮標を右舷側30メートルに見て113度にそれぞれ転じながら、約1.5ノットに強まった東流に乗じ13.5ノットの速力で航路東側の六連島区、続いて西山区を東行した。
 A受審人は、15時11分半わずか過ぎ門司大里防波堤灯台(以下「大里灯台」という。)から270度2,000メートルの地点で、第21号灯浮標を右舷側30メートルに見て航路の下関側境界線に沿うように針路を075度に転じ、更に強まった東流に乗じて15.0ノットの速力で、依然、航路によらずに航路外の下関区を東行した。
 A受審人は、15時13分半わずか前航路内を下関側境界線から数十メートル離れて西行する約500総トンの船舶(以下「航路航行船」という。)を左舷前方に認め、航路横断の機会をうかがうために同船の動向を確認しながら続航したところ、同時14分わずか過ぎ第23号灯浮標を右舷側30メートルに離して航過したとき、左舷船首41度450メートルの大瀬戸のわん曲部に、下関区を西行するヒーロートム(以下「ヒ号」という。)を初めて視認した。
 15時14分半少し前A受審人は、大里灯台から291度870メートルの地点に達し、ヒ号が左舷船首46度400メートルに近づいたとき、航路航行船と航過してから航路を横断することとし、ヒ号が低速力で航行するヨットなのでしばらくの間は大丈夫と思い、航路横断の機会をうかがうために航路航行船の動向を確認していて、ヒ号に対する動静監視を十分に行うことなく、とりあえず大瀬戸のわん曲部に沿うようにゆっくりと左転を開始し、その後ヒ号と同わん曲部で行き会い衝突のおそれのある態勢で接近したことに気付かなかった。
 A受審人は、依然、右舷側にかわった航路航行船を見ながら航路横断の機会をうかがっていて、ヒ号に対する動静監視不十分で、機関を停止するなどして同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行し、15時14分半少し過ぎ大里灯台から305度830メートルの地点で、ヒ号と正船首150メートルに接近して針路を019度に転じ終えたのち、同時15分わずか前正船首至近に迫った同船に気付き、機関中立として右舵をとったものの効なく、15時15分大里灯台から313度870メートルの、航路外の下関区において、漁聖丸は原針路、原速力のまま、その左舷船首がヒ号の船首に、平行に衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、衝突地点付近には約3.0ノットの東流があった。
 また、ヒ号は、C社が海外売船し、大韓民国国籍のD船舶所有者が購入した、汽笛を装備していないFRP製プレジャーヨットで、同国籍のBが船長として、同船舶所有者ほか同国籍の艇員1人が乗り組み、回航の目的で、ディープキールの最大喫水1.8メートルの喫水をもって、同月21日21時00分兵庫県尼崎西宮芦屋港を発し、翌々23日下関区岬之町ふ頭東側の船溜まりに寄港した後、翌24日14時30分同船溜まりから大韓民国釜山港に向かった。
 B船長は、機走として舵柄で手動操船にあたり、14時45分半わずか過ぎ大里灯台から005度1.7海里の地点で、第27号灯浮標を左舷側30メートルに見たとき、航路の下関側境界線に沿うように針路を199度に定め、機関を6.0ノットの全速力前進にかけていたものの、GPSの速力表示が3.0ノットあるいはそれ以下であるのを認めたことと、その後同境界線近くに航路航行船を認めたこととのやむを得ない事由により、航路によらないで、約3.0ノットの東流に抗して3.0ノットの速力で、航路外の下関区を関門港西口に向けて西行した。
 15時13分半わずか前B船長は、大里灯台から321度940メートルの地点に達したとき、右舷船首30度800メートルのところに、航路によらずに下関区を東行する漁聖丸が大瀬戸のわん曲部から現れたのを視認できる状況となったが、見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かなかった。
 15時14分半少し前B船長は、右舷船首10度400メートルのところで漁聖丸が大瀬戸のわん曲部に沿うよう左転を開始し、その後同わん曲部で行き会い衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然、見張り不十分で、右転するなどして衝突を避けるための措置をとらなかった。
 B船長は、15時14分半少し過ぎには左転を終えた漁聖丸が正船首150メートルに接近したことに気付かないまま西行中、同時15分わずか前正船首至近に同船を初めて認め、右舵一杯としたものの効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、漁聖丸は左舷船首錨台等を破損し、ヒ号はマストが倒壊し、左舷側舷縁を凹損したが、のちいずれも修理され、ヒ号のD船舶所有者及び艇員1人が頚椎脱臼骨折等を負った。

(航法の適用)
 本件衝突は、航路外の下関区において、関門港西口から東口の田野浦区に向けて入港する登録長9.80メートルのプレジャーボート漁聖丸と、下関区から関門港西口へ向けて出港する登録長8.44メートルのプレジャーボートヒ号とが衝突したものであり、適用される航法について検討する。
 両船は、港則法に定める雑種船とは認められないことから、同法第12条が適用され、特定港である関門港に出入するには、やむを得ない事由のあるときのほか、航路によらなければならない。
 漁聖丸は、本件時、航路外航行のやむを得ない事由はなく、航路によって入港しなければならなかった。
 一方、ヒ号は、本件時、強い東流を受けて3.0ノットあるいはそれ以下の速力で航行していたことと、航路航行船が左舷側数十メートルのところを西行していたこととが航路外航行のやむを得ない事由と認められ、航路によらないで出港していたことが許容される。 

(原因)
 本件衝突は、関門港において、同港西口から東口の田野浦区に向けて入港する漁聖丸が、航路によらなかったばかりか、大瀬戸のわん曲部を西行するヒ号を認めた際、動静監視不十分で、同船との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、やむを得ない事由により航路外を下関区から関門港西口に向けて出港するヒ号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、関門港において、同港西口から東口の田野浦区に向けて航路によらないで入港中、大瀬戸のわん曲部を西行するヒ号を認めた場合、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ヒ号が低速で航行するヨットなのでしばらくの間は大丈夫と思い、航路横断の機会をうかがうために航路航行船の動向を確認していて、ヒ号に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同わん曲部で行き会い衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、自船の左舷船首錨台等に破損を、ヒ号のマスト倒壊、左舷側舷縁に凹損をそれぞれ生じさせ、ヒ号のD船舶所有者及び艇員1人に頚椎脱臼骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
(拡大画面:145KB)

参考図2
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