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平成15年門審第116号
件名

漁船第三幸祥丸漁船宝浩丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 学、長浜義昭、西村敏和)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第三幸祥丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:宝浩丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第三幸祥丸・・・球状船首に破口を伴う擦過傷
宝浩丸・・・左舷前部外板に破口、浸水して転覆、のち廃船処分
船長が左肩腱板を断裂する負傷

原因
第三幸祥丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
宝浩丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三幸祥丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している宝浩丸を避けなかったことによって発生したが、宝浩丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月29日15時00分
 山口県角島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三幸祥丸 漁船宝浩丸
総トン数 19トン 8.22トン
全長 24メートル  
登録長   12.17メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 323キロワット

3 事実の経過
 第三幸祥丸(以下「幸祥丸」という。)は、主に一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成12年3月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか2人が乗り組み、いか漁の目的で、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、同15年6月29日13時15分山口県特牛港を発し、同県見島北西方25海里付近の漁場へ向かった。
 13時38分A受審人は、海士ケ瀬戸を通過したのち、角島灯台から058度(真方位、以下同じ。)3.0海里の地点に達したとき、針路を351度に定め、機関を回転数毎分1,100の全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵によって進行した。
 14時45分A受審人は、長門川尻岬灯台(以下、衝突地点の表記を除き「川尻岬灯台」という。)から324度10.3海里付近でレーダーを覗いたところ、船首輝線やや右側2.7海里辺りに数隻の漁船らしき映像が映っていたものの、未だ距離が遠かったことから、それらを肉眼で確かめることなく北上した。
 そして、14時57分A受審人は、川尻岬灯台から329度12.2海里の地点に達したとき、右舷船首5度1,000メートルのところに、前示漁船群中の宝浩丸を視認することができ、その後、同船が鼓形の法定形象物を表示して左方へゆっくり移動していることが判別できる状況となったが、レーダーに組み込まれた自動衝突予防援助装置による速力軌跡が表示されていなかったことから、全ての漁船が行きあしのない状態であり、このまま同じ針路で北上しても自船の航行に支障を来すことはあるまいと思い、一旦、操縦室を離れて後部船室へ飲み物を取りに行くなどして、見張りを十分に行わなかったので、宝浩丸が漁ろうに従事しながら左方へゆっくり移動していることに気付かなかった。
 こうして、14時59分A受審人は、宝浩丸の方位が明確に変化しないまま、約300メートルのところまで接近して衝突のおそれがある状況となったが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、15時00分長門川尻岬灯台から330度12.8海里の地点において、幸祥丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、宝浩丸の左舷前部に後方から81度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、宝浩丸は、音響信号装置を装備した、船体中央部に操縦室を有するFRP製漁船で、平成10年8月に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、延縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.6メートルの喫水をもって、同15年6月29日01時30分山口県萩漁港越ヶ浜地区を発し、同県川尻岬北北西方13海里付近の漁場へ向かった。
 04時40分B受審人は、漁場に至り、漁ろうに従事しているときに表示する鼓形の法定形象物を掲げ、長さ約400メートルの幹縄に約80本の枝縄を取り付けた延縄仕掛け(以下、同仕掛け1本を1桶と数える。)を使用して、あま鯛漁を開始した。
 B受審人は、前示仕掛け20桶を用い、投縄に約30分、魚が掛かるまでの待機時間に約30分、揚縄に約4時間を要する一連の作業を1回と数えて操業に従事したところ、1回目の漁獲量が多かったことから2回目は15桶に減じて操業を行ったのち、13時40分更に10桶に減じて3回目の操業を始め、14時00分投縄作業を完了した。
 B受審人は、短い待ち時間で魚が掛かる漁模様であったので、待機時間を短縮して揚縄作業に取り掛かり、14時05分川尻岬灯台から334度12.3海里の地点で、針路を270度に定め、操縦席から引き寄せた遠隔操縦装置を使用して機関のクラッチ操作を小刻みに行い、1.0ノットの速力で、操縦席前部甲板右舷側に設置された巻揚機の傍に右舷船首方を向いて立ち、前方へ弛んだ状態の延縄仕掛けを揚縄しながら、遠隔手動操舵によって進行した。
 そして、14時57分B受審人は、前示衝突地点まで約90メートルの地点に至ったとき、左舷船尾81度1,000メートルのところに、操縦室の陰に隠れて北上する幸祥丸を視認でき、その後、至近に接近することが容易に判別できる状況となったが、操業に集中する余り、揚縄作業に気を取られ、適宜、左舷側に移動して後方を振り返るなどの見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。
 こうして、14時59分B受審人は、幸祥丸の方位が明確に変化しないまま、自船から約300メートルのところまで接近して衝突のおそれがある状況となったが、依然として、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、機関を使用して後ろへ退がるなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく揚縄中、衝突の直前、間近に接近した同船を認めたものの、為す術なく、宝浩丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸祥丸は球状船首に破口を伴う擦過傷を、宝浩丸は左舷前部外板に破口をそれぞれ生じ、のち、幸祥丸は修理されたものの、宝浩丸は浸水して転覆するに至り、萩漁港に引き付けられて廃船処分となった。また、B受審人が、左肩腱板を断裂する傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、山口県角島北方において、漁場へ向けて北上中の幸祥丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している宝浩丸の進路を避けなかったことによって発生したが、宝浩丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、山口県角島北方において、漁場へ向けて北上する場合、漁ろうに従事している漁船などを見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、レーダーの船首輝線やや右側に数隻の漁船らしき映像が映っていたものの、未だ距離が遠かったうえ、自動衝突予防援助装置による速力軌跡が画面上に表示されなかったことから、全ての漁船が行きあしのない状態であり、このまま北上しても自船の航行に支障を来すことはあるまいと思い、一旦、操縦室を離れるなどして、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同漁船群中の宝浩丸が、鼓形の法定形象物を表示し、衝突のおそれがある態勢でゆっくり左方へ移動していることに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船の球状船首部に破口を伴う擦過傷を、宝浩丸の左舷前部外板に破口をそれぞれ生じさせ、宝浩丸が転覆する事態を招くとともに、B受審人の左肩腱板を断裂させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、山口県角島北方において、漁ろうに従事する場合、至近に接近する他船を見落とすことがないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、操業に集中する余り、延縄仕掛けの揚縄作業に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する幸祥丸に気付かず、警告信号を行わなかったばかりか、衝突を避けるための協力動作をとることもなく揚縄作業を続けて衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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