(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月3日07時40分
関門港関門航路
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十一伸興丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
66.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
882キロワット |
3 事実の経過
第二十一伸興丸は、可変ピッチプロペラを装備した液体化学薬品ばら積船兼引火性液体物質ばら積船で、A受審人ほか6人が乗り組み、空倉のまま、船首1.50メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成14年12月3日07時15分関門港下関区第2突堤17号岸壁を離岸し、左舷錨の揚錨を始めた。
A受審人は、これまで何度も第2突堤に離着岸した経験があったので、付近海域の水路事情については良く知っており、出港に先立ち、潮汐表により出港予定時刻の07時30分ごろが西流のほぼ最強時に当たっていることを知ったものの、目的地である関門港若松第5区の桟橋付近の海域が狭く、漂泊しての時間調整ができないため、予定どおり出港することにした。
ところで、第2突堤北東部の17号岸壁沖合には、同岸壁の南東方にコシキ瀬と称する浅礁が拡延していることから、同岸壁東端角から120度425メートルのところに、北方位標識であるコシキ瀬北東灯浮標(以下「コシキ瀬灯浮標」という。)が設置され、また、コシキ瀬灯浮標から121.5度300メートルのところには、関門航路西側境界線を示す関門航路第27号灯浮標(以下「第27号灯浮標」という。)が設置されていた。
A受審人は、機関長を翼角の操作に就け、自ら手動操舵に就いて出港操船に当たり、岸壁から離れるにつれて潮流の影響が大きくなり、南方に圧流されるようになったので、圧流に抗する操船をしながら揚錨を続け、そのころ火ノ山下潮流信号所の潮流信号により、早鞆瀬戸では潮流が西流8ノットに達していることを確認した。
07時30分A受審人は、下関岬ノ町防波堤灯台(以下「岬ノ町防波堤灯台」という。)から198度(真方位、以下同じ。)720メートルの地点において、揚錨を終え、機関回転数毎分340及び翼角前進3度の極微速力前進として、2.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、関門港若松第5区に向かった。
A受審人は、コシキ瀬灯浮標の北方に向けて東行していたところ、左舷側から潮流を受けて徐々に右方に圧流され、やがて船首がコシキ瀬灯浮標に向くようになったので、07時35分岬ノ町防波堤灯台から186度840メートルの地点で、同灯浮標を右舷側に替わすため、左舵20度をとった。
A受審人は、左回頭を始めて間もなく、右舷船尾がコシキ瀬灯浮標に著しく接近する状況となったので、07時36分岬ノ町防波堤灯台から183度820メートルの地点で、船尾を同灯浮標から離すため右舵10度をとって右回頭を始め、船首がほぼ北東方を向いたとき、右舷船尾が同灯浮標から約30メートルのところを何とか替わったことから、翼角6度の微速力前進、次いで翼角10度の半速力前進として増速を始め、ゆっくりと右回頭しながら進行した。
07時38分A受審人は、岬ノ町防波堤灯台から174度830メートルの地点で、左舷側の関門航路を西行する船舶の状況を確認するため、船首が第27号灯浮標の北方約100メートルに向いたところで右回頭を止め、船首を115度に向けていたとき、右舷船首30度220メートルのところの第27号灯浮標が存在し、強い潮流により大きく右方に圧流されて同灯浮標に著しく接近するおそれがあったが、西行船の動静監視に気を取られ、潮流による圧流に対する配慮を十分に行わなかったので、このことに気付かず、しばらく東進するなどして同灯浮標との距離を十分に隔てることなく、とりあえず針路を115度として、約4ノットとなった速力で同航路に向けて続航した。
こうして、A受審人は、関門航路に近づくにつれて潮流が一段と速くなり、右方に大きく圧流されて第27号灯浮標に著しく接近する状況となったが、依然として、このことに気付かず、速やかに左転して第27号灯浮標との距離を十分に隔てることなく進行中、07時39分少し過ぎ、岬ノ町防波堤灯台から168度950メートルの地点に達し、速力が約5ノットとなったとき、右舷船首20度100メートルのところに第27号灯浮標を認めて衝突の危険を感じ、左舵一杯をとるとともに翼角0度としたが、及ばず、07時40分岬ノ町防波堤灯台から167度1,070メートルの地点において、第二十一伸興丸は、船首が約090度を向いたとき、約3ノットの速力で、その右舷中央部が第27号灯浮標に衝突し、さらに、推進器翼が同灯浮標の標体に接触した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で西流のほぼ最強時に当たり、第27号灯浮標付近では南南西方に流れる約5ノットの潮流があった。
衝突の結果、第二十一伸興丸は、推進器翼及び推進器軸に損傷を生じ、第27号灯浮標は、標体に凹損及び灯器に損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件灯浮標衝突は、西流ほぼ最強時の関門港において、潮流により大きく圧流される状況下、同港下関区第2突堤から関門航路に向けて東行する際、潮流による圧流に対する配慮が不十分で、関門航路第27号灯浮標との距離を十分に隔てなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、西流ほぼ最強時の関門港において、潮流により大きく圧流される状況下、同港下関区第2突堤から関門航路に向けて東行する場合、圧流されて関門航路第27号灯浮標に著しく接近することのないよう、コシキ瀬北東灯浮標を通過した後、しばらく東進するなどして関門航路第27号灯浮標との距離を十分に隔てるべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷側の関門航路を西行する船舶の動静監視に気を取られ、関門航路第27号灯浮標との距離を十分に隔てなかった職務上の過失により、強い潮流を受けながら関門航路に向けて進行するうち、大きく圧流されて同灯浮標との衝突を招き、第二十一伸興丸の推進器翼及び推進器軸に損傷を生じ、同灯浮標の標体に凹損及び灯器に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。