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平成15年門審第114号
件名

漁船第三海宝丸貨物船ホワイト サガ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小寺俊秋、長浜義昭、橋本 學)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第三海宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ホワイト サガ一等航海士

損害
第三海宝丸・・・船首部を圧壊
ホ 号・・・左舷中央部外板に軽微の凹損

原因
第三海宝丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
ホ 号・・・横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三海宝丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るホワイト サガの進路を避けなかったことによって発生したが、ホワイト サガが、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月30日07時59分
 山口県角島西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三海宝丸 貨物船ホワイト サガ
総トン数 16トン 4,963.00トン
全長 19.98メートル 101.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 2,942キロワット

3 事実の経過
 第三海宝丸(以下「海宝丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成12年3月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同15年8月29日13時30分長崎県櫛漁港を発し、山口県角島西北西方36海里付近の漁場へ向かい、17時30分同漁場に到着して操業に従事したのち、イカ約200キログラムを獲て操業を終え、翌30日05時07分角島灯台から292度(真方位、以下同じ。)34.0海里の地点を発進して、水揚げ港の同県特牛港(とっこいこう)に向かった。
 A受審人は、発進と同時に単独での船橋当直に就き、針路を特牛港沖合に向く116度に定め、機関を全速力前進の回転数毎分1,300にかけ11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 ところで、A受審人は、水揚げ港と漁場との間は自ら船橋当直に当たり航行中に休息を取ることができなかったが、午前中に入港して水揚げを終え、夕刻発航するまでの間と操業中の休息とを合わせて6時間ばかりの睡眠をとっていたので、睡眠不足を感じることなく連続した操業を行っていたところ、同月29日22時ごろ、乗組員に操業を任せて睡眠をとろうとした際、数日前から疼いていた(うずいていた)虫歯が急に強く痛み出し、船内に常備してあった催眠作用のない鎮痛剤を服用したものの寝付かれないまま、一睡もせずに発進するに至った。
 こうして、A受審人は、操舵室中央後部のベッドに腰掛けて船橋当直を続けていたところ、30日07時30分角島灯台から282度8.1海里の地点で、発進前に睡眠をとれなかったので眠気を催し、操舵室外に出て水で顔を洗い一旦眠気が払拭したように感じた上、入港まであと1時間ばかりであったことから、その程度の時間であればなんとか眠気を我慢できると思い、寝ている乗組員を起こして2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったので、舵輪後部の柱に寄りかかり、舵輪付近に設置された手摺り(てすり)を握って立ったまま、いつしか居眠りに陥った。
 07時53分半わずか前A受審人は、角島灯台から267度4.1海里の地点に達したとき、右舷船首40度2.0海里のところにホワイト サガ(以下「ホ号」という。)を視認でき、その後、同船の方位が変わらず、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況であったが、居眠りに陥っていたので、そのことに気付かず、右転するなどして同船の進路を避けないまま続航した。
 A受審人は、ホ号と更に接近しても、依然、居眠りに陥ったまま原針路、原速力で進行中、07時59分角島灯台から258度3.2海里の地点において、海宝丸は、その船首がホ号の左舷中央部に、直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、ホ号は、東南アジア諸国と日本間の貨物輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、日本国国籍の船長C及び機関長並びにフィリピン共和国国籍のB指定海難関係人ほか11人が乗り組み、空倉のまま、船首2.28メートル船尾4.52メートルの喫水をもって、同月29日08時05分徳島県橘港を発し、紀伊水道を南下したのち、豊後水道及び関門海峡を経由して朝鮮民主主義人民共和国チュンジン港に向かった。
 C船長は、船橋当直を、00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士、04時から08時まで及び16時から20時までを一等航海士、08時から12時まで及び20時から24時までを三等航海士にそれぞれ入直させ、各直に甲板部員1人を補佐に付けた2人当直体制と定め、視界制限時、狭水道通航時及び船舶輻輳時等には昇橋して操船の指揮を執ることとしていた。
 翌30日06時45分ごろC船長は、自ら操船して関門海峡を航過したのち、ナイトオーダーブックに記載した注意事項に加え、口頭で、漁船が多いようなので気を付けるようにB指定海難関係人に注意を与え、同人に船橋当直を委ねて降橋した。
 06時58分B指定海難関係人は、蓋井島灯台から249度1.7海里の地点で、針路を005度に定め、機関を全速力前進にかけ15.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。
 B指定海難関係人は、07時45分角島灯台から219.5度5.4海里の地点で、6海里レンジとして使用していたレーダーにより、左舷船首29度5.0海里付近に、東行する海宝丸と2隻の漁船とを認め、その動静に注意を払いながら、折から昇橋してきた三等航海士に対して当直交代前の引継を行った。
 07時53分半わずか前B指定海難関係人は、角島灯台から238度3.9海里の地点に達したとき、海宝丸が左舷船首29度2.0海里となり、その後、同船の方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するので、舵輪付近に立っていた三等航海士に命じて手動操舵に切り替え、警告信号を繰り返し吹鳴したところ、海宝丸以外の2隻の漁船が右転して自船の船尾方に避航したものの、海宝丸が避航する気配のないまま更に接近するのを認めた際、同船も前示2隻の漁船同様自船の進路を避けてくれることを期待して、速やかに大きく右転するなど、衝突を避けるための協力動作をとらなかった。
 B指定海難関係人は、依然、海宝丸が避航動作をとることを期待して同じ針路、速力で続航中、07時59分少し前間近に迫った同船との衝突の危険を感じて右舵一杯としたものの及ばず、ホ号は、船首が026度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C船長は、自船が吹鳴する汽笛を聞いて不審に思い昇橋したところ、B指定海難関係人から海宝丸と接触した旨の報告を受けたが、同船が航行を再開して離れていくので軽い接触と判断して続航したところ、やがて海上保安部の指示を受け、衝突地点付近に戻って事後の処置に当たった。
 衝突の結果、海宝丸は船首部を圧壊したが、のち修理され、ホ号は、左舷中央部外板に軽微の凹損を生じた。
 
(原因)
 本件衝突は、山口県角島西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、東行する海宝丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るホ号の進路を避けなかったことによって発生したが、北上するホ号が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、山口県角島西方沖合において、単独での船橋当直に就き、水揚げ港に向けて東行中、眠気を催した場合、歯痛のため漁場を発進する前に睡眠がとれなかったのであるから、居眠りに陥らないよう、寝ている乗組員を起こして2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、入港まであと1時間ばかりであったことから、その程度の時間であればなんとか眠気を我慢できると思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、舵輪後部にある柱に寄りかかって立ったまま、いつしか居眠りに陥り、ホ号が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、海宝丸の船首部を圧壊し、ホ号の左舷中央部外板に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する海宝丸に対して、警告信号を数回吹鳴したのち、同船が避航する気配のないまま更に接近するのを認めた際、速やかに大きく右転するなど、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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