(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月21日12時35分
鹿児島湾
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船幸盛丸 |
漁船なみ丸 |
総トン数 |
199トン |
3.0トン |
全長 |
58.58メートル |
11.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
29キロワット |
3 事実の経過
幸盛丸は、鋼材等の国内輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で、船長C、A受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.40メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、平成14年11月21日10時50分鹿児島港を発し、水島港に向かった。
ところで、C船長は、船橋当直を、自らとA受審人による6時間交替2直制としていた。
こうしてA受審人は、11時40分知林島灯台から338度(真方位、以下同じ。)8.3海里の地点で、昇橋して単独の船橋当直につき、針路を150度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
12時22分半A受審人は、知林島灯台から060度1.1海里の地点で、約500総トンの同航船に続いて南下していたこともあって、その動向を注視しながら、次の針路191度に向けて5度刻みで自動操舵のまま右転を開始した。
A受審人は、12時30分知林島灯台から127度1.4海里の地点に達し、191度に転針し終えたとき、正船首1.0海里のところになみ丸を視認でき、その後、船首を風上に向けて錨索を出していることや行きあしのないことから錨泊中と分かる同船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、約0.2海里前方の同航船に追従していたことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、なみ丸に気付かなかった。
A受審人は、依然、見張り不十分で、錨泊中のなみ丸を避けないまま続航し、12時34分ごろから船尾方を向いて海図台で航海日誌に知林島灯台沖の転針記事を記載しながら進行中、12時35分知林島灯台から153度2.1海里の地点において、幸盛丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、なみ丸の左舷中央部に前方から34度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近海域には極めて微弱な南流があった。
C船長は、A受審人から衝突を報告されて直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
また、なみ丸は、たい一本釣り漁業に従事するにFRP製漁船で、平成12年10月交付の四級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同14年11月21日06時20分鹿児島県指宿港を発し、同港の東方約2海里沖合の漁場に向かった。
06時45分B受審人は、水深約65メートルの前示衝突地点付近に至り、重さ33キログラムの左舷錨を投じて直径12ミリメートルの合成繊維製錨索を約200メートル伸出し、黒球を掲げないまま、機関を中立運転として操業のため錨泊を開始した。
12時30分B受審人は、後部甲板右舷側で船尾方を向いて座り、手釣りにより一本釣り漁を行っていたところ、船首が045度を向いたとき、左舷船首34度1.0海里のところに南下する幸盛丸を視認でき、その後、同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、釣果が良かったことから漁に熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。
B受審人は、依然、見張り不十分で、自船に向首接近する幸盛丸に対し、備付けの笛を吹くなど有効な音響による注意喚起信号を行うことも、機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもしないまま、船首を045度に向けて錨泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸盛丸は船首に擦過傷を生じ、なみ丸は左舷側中央部外板に破口を生じて機関室に浸水し、のち廃船処分とされた。
(原因)
本件衝突は、鹿児島湾において、南下中の幸盛丸が、見張り不十分で、錨泊中のなみ丸を避けなかったことによって発生したが、なみ丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島湾を南下中、単独で船橋当直にあたる場合、前路で錨泊中の他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同航船に追従していたことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のなみ丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、幸盛丸の船首に擦過傷を生じさせ、なみ丸の左舷側中央部外板に破口を生じさせ、のち廃船処分とされるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、鹿児島湾において、一本釣り漁のために錨泊する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣果が良かったことから漁に熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近する幸盛丸に気付かず、笛を吹くなど有効な音響による注意喚起信号を行うことも、中立運転中の機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。