(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月17日06時15分
瀬戸内海燧灘 新居浜港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船大栄丸 |
漁船栄光丸 |
総トン数 |
4.98トン |
4.94トン |
登録長 |
10.52メートル |
10.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
15 |
15 |
3 事実の経過
大栄丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和56年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾ともに0.5メートルの喫水をもって、平成15年6月17日04時20分愛媛県大島漁港を発し、途中魚市場で前日の漁獲を水揚げしたのち、同県新居浜港北方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、操舵室に設置されたGPSプロッタの画面に残っていた前日最後の揚網地点からの帰路の航跡をたどって同地点付近に至り、06時12分半新居浜港垣生埼灯台(以下「垣生埼灯台」という。)から005.5度(真方位、以下同じ。)5.42海里の地点で、同画面を見ながら針路を投網地点に向く270度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とするとともに、後部甲板の揚網機に巻いてある袋網を甲板上に繰り出して操業準備を開始し、時折針路を確かめながら手動操舵により進行した。
06時13分A受審人は、垣生埼灯台から004.5度5.42海里の地点で、左舷船首12度610メートルに漁ろうに従事している船舶が表示する鼓型形象物を掲げて低速力で北上しながら投網中の栄光丸を視認することができ、その後同船と衝突するおそれがある態勢で接近する状況であったが、操業準備に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、栄光丸の進路を避けることなく続航した。
06時15分わずか前A受審人は、後部甲板上に袋網の3分の2ほどを繰り出して操業準備を終え、投網に備えて減速しようとふと左舷船首方を見たとき、至近に迫った漁ろうに従事中の栄光丸を初めて認め、衝突の危険を感じて直ちに機関を中立とし、次いで後進としたが及ばず、06時15分垣生埼灯台から001.0度5.40海里の地点において、大栄丸は、原針路、ほぼ原速力のまま、その船首が栄光丸の右舷中央部に後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
また、栄光丸は、小型機船底引き網漁業に従事する木製漁船で、B受審人(5トン限定二級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士、昭和50年7月免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾ともに0.5メートルの喫水をもって、同日05時30分新居浜港港内にある垣生漁港を発し、同港北方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、操舵室に設置されたGPSプロッタの画面に表示されていた前日の操業地点に至り、投網に備えて減速し、所定の形象物を掲げ、06時12分半垣生埼灯台から001.0度5.32海里の地点で、同画面を見てえい網する方向を確かめながら針路を350度に定め、機関を微速力前進にかけ、2.0ノットの速力とするとともに、後部甲板の揚網機後方で底引き網の投網を開始し、時折針路を確かめながら手動操舵により進行した。
06時13分B受審人は、垣生埼灯台から001.0度5.33海里の地点で、右舷船首88度610メートルのところに西行する大栄丸を視認することができ、その後同船と衝突するおそれがある態勢で接近する状況であったが、投網作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、大栄丸に対して避航を促すための有効な音響による信号を行わず、更に間近に接近しても機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
06時15分わずか前B受審人は、ふと右舷正横方を見たとき、至近に迫った大栄丸を初めて認め、衝突の危険を感じて機関を中立としたが間に合わず、栄光丸は、原針路、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大栄丸はバルバスバウを折損し、船首部甲板に亀裂等を生じたが、のち修理され、栄光丸は右舷中央部外板に破口を生じて転覆し、のち廃船となった。
(原因)
本件衝突は、新居浜港北方沖合において、大栄丸が、見張り不十分で、前路で漁ろうに従事している栄光丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄光丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、新居浜港北方沖合において、投網地点に向け西行する場合、所定の形象物を掲げて漁ろうに従事中の栄光丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、操業準備に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、栄光丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、大栄丸のバルバスバウを折損及び船首部甲板に亀裂等を生じさせ、栄光丸の右舷中央部外板に破口を生じさせて転覆する事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、新居浜港北方沖合において、底引き網を投網しながら北上する場合、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、投網作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大栄丸に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく投網を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。