(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月11日10時38分
日本海西部 島根県日御碕沖
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第八幸正丸 |
漁船山吉丸 |
総トン数 |
699トン |
3.69トン |
全長 |
68.39メートル |
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登録長 |
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9.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
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漁船法馬力数 |
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50 |
3 事実の経過
第八幸正丸(以下「幸正丸」という。)は、全長68.39メートル幅12.00メートル深さ4.70メートルの船尾船橋型鋼製油送船で、A受審人ほか5人が乗り組み、ガソリン920キロリットル及び軽油900キロリットルを載せ、船首3.80メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、平成15年4月10日17時00分大分県大分港を発し、石川県七尾港に向かった。
A受審人は、船橋当直を3人による単独4時間3直制で行い、翌11日08時00分島根県浜田港沖合にあたる馬島灯台から322度(真方位、以下同じ。)11.8海里の地点に至り、昇橋して当直に就き、引き継いだ針路053度で機関を全速力前進にかけたまま、海流に乗じて12.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で自動操舵により進行した。
10時32分少し過ぎA受審人は、出雲日御碕灯台の西方約12.8海里の地点に達したとき、左舷船首25度2.0海里のところに前路を右方に横切る態勢の山吉丸を初めて視認し、その後同船との方位の変化を監視したところ、その方位に明確な変化がなく衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であることを知り、引き続きその動静を監視して続航した。
ところが、10時35分A受審人は、同じ方位で約1海里に避航動作をとらないままの山吉丸を認めるようになり、衝突の危険を感じて避航を促すために長音1回を吹鳴して進行した。しかし、同時37分少し過ぎ近距離に接近しても同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかとなったが、小型漁船であるので接近すれば避航するものと思い、避航動作をとらない同船と自船の旋回圏や最短停止距離の大きさなど操縦性能の大幅な違いを考慮して、針路及び速力の保持から離れて直ちに右転するなど衝突を避けるための動作をとることなく、引き続きその動静を監視しながら続航した。
こうして、10時38分少し前A受審人は、同じ方位のまま約150メートルに山吉丸を認めるようになったとき、衝突の危険を感じて操舵を手動に切り換え右舵一杯としたが及ばず、10時38分出雲日御碕灯台から250.5度11.7海里の地点において、幸正丸は、船首が075度を向いたとき、原速力のまま、その左舷前部に山吉丸の右舷船首部が前方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の南風が吹き、海上は波が立っていた。
また、山吉丸は、登録長9.20メートルの一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年4月一級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み、たい釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日04時30分島根県仁万港を発し、06時ころ同港北方約15海里沖合の漁場に至って操業を始めたところ、10時過ぎ基地の漁業無線局から天候悪化の知らせを受けて、操業を打切り帰途に就くこととした。
こうして、10時30分B受審人は、出雲日御碕灯台から258度11.4海里の地点で、針路をプロッターに表示された仁万港に向かう180度に定め、機関を全速力前進にかけて11.7ノットの速力で漁場を発進し、舵柄による手動操舵により帰途に就いた。
B受審人は、折からの南寄りの風波の影響を受け、しばしば船首方から飛沫を浴びる状況であったので、高さ約1メートル余りの操舵室船尾側甲板上で身を隠すようにして飛沫を避け、プロッターに表示された針路を監視しながら操舵操船にあたっていた。
ところが、10時32分少し過ぎB受審人は、右舷船首28度2.0海里に自船の前路を左方に横切る態勢の幸正丸を初めて視認したが、同船と相当の距離がありいずれ自船の前路を替わっていくものと思い、その動静を監視しなかったので、その後衝突するおそれがある態勢で互いに接近する状況であったことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、衝突直前に至って目前に迫った幸正丸に気付いたがどうすることもできず、山吉丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸正丸は船首外板に擦過傷を生じ、山吉丸は船首部を圧壊したがのち修理された。
(原因)
本件衝突は、島根県日御碕西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下する山吉丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第八幸正丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する第八幸正丸が、山吉丸に適切な避航動作が認められなかった際、直ちに右転するなど衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、漁場からの帰航に際し、風波の影響を受けて前方から飛沫を浴びながら日御碕西方沖合を南下中、右前方に自船の前路を左方に横切る態勢の他船を視認した場合、衝突のおそれがあるか否か確かめるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同船と相当の距離がありいずれ自船の前路を替わっていくものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況に気付かず、第八幸正丸の進路を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、第八幸正丸の左舷船首外板に擦過傷を生じさせ、山吉丸の船首部を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、島根県沿岸沖合を東行中、左前方に認めた小型漁船である山吉丸が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する際、警告信号を吹鳴しても避航の気配が認められなかった場合、同船と自船との操縦性能の大幅な違いを考慮して針路及び速力の保持から離れて直ちに右転するなど衝突を避けるための動作をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、小型漁船である同船が接近すれば自船の進路を避けるものと思い、両船の操縦性能の大幅な違いを考慮して針路及び速力の保持から離れて直ちに右転するなど衝突を避けるための動作をとらなかった職務上の過失により、警告信号を吹鳴し同じ態勢のまま進行して、山吉丸との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。