(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月26日21時12分
愛媛県北条港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート大和丸 |
登録長 |
10.32メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
169キロワット |
3 事実の経過
大和丸は、FRP製プレジャーボートで、A受審人(5トン限定二級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士、平成14年9月免許取得)が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成15年7月26日09時00分愛媛県菊間港を発し、同港南西方沖合の中島周辺ではまち釣りを行ったのち、同県北条港港内で催される花火大会を見物する目的で、18時30分同港南部の土手内に着岸し、更に友人4人を乗せてその沖合で漂泊した。
ところで、北条港は、北条港灯台を中心として半径約1,000メートルの円弧のうち西側の半円形水域を港域とし、同灯台西方の港域中心部には四角形をした鹿島があり、同島北東端から000度(真方位、以下同じ。)に向かって防波堤(以下「鹿島防波堤」という。)が150メートル延び、その北端に毎6秒に1光を発する等明暗紅光の灯質をもつ北条港鹿島神洗防波堤灯台(以下「神洗防波堤灯台」という。)が設置され、同灯台から270度50メートルの地点を基点とし、同点から340度に向かって250メートル延び、そこで屈曲し000度に向かって110メートル延びる、くの字形をした通称一文字防波堤が築造されていた。
また、A受審人は、操縦免許を取得すると同時にプレジャーボートを購入してその後大和丸に乗り換え、自身は北条市に所在するものの、北条港にボート保管場所の空きがなかったので同港北方の最寄りの菊間港に係留していたもので、専ら釣りのため月に4ないし5回大和丸を運航しており、北条港は地元ということもあって夜間も含めて同港に何回も出入航した経験を有し、一文字防波堤の存在も承知していた。
20時00分A受審人は、花火の打ち上げ時刻に合わせて神洗防波堤灯台から019度260メートルの、一文字防波堤屈曲部から東方200メートルの地点に移動して再び漂泊し、自船の東方から南方沖合にかけて散在する多くの他船とともに、鹿島及び一文字両防波堤から打ち上げられる花火見物に興じた。
21時過ぎA受審人は、花火大会が終了したので帰航のため港外に向け発進することとしたが、付近にある一文字防波堤を視認できなかったものの、予定の針路で発進すれば同防波堤北端を大きく離して替わるものと思い、レーダーやGPSを見るなどして船位の確認を十分に行わなかったので、漂泊中に折からの弱い下げ潮の影響で一文字防波堤寄りとなる南南西方に140メートルばかり圧流されたことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、21時11分神洗防波堤灯台から022度120メートルの地点を発進すると同時に、針路を予定の325度に定め、操縦レバーを徐々にあげながら手動操舵にあたり、一文字防波堤北端に著しく接近する状況となって進行中、同時12分わずか前前方近距離に入航船を認め、右方には花火見物を終えた他船がいたので左舵をとって替わそうと転針した直後、21時12分神洗防波堤灯台から337度340メートルの地点において、大和丸は、15.0ノットの対地速力となったとき、250度に向いたその船首が、一文字防波堤北端付近に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
衝突の結果、一文字防波堤にほとんど損傷がなかったが、大和丸は船首部を圧壊し、のち修理され、同船同乗者Bが頚髄損傷及び同Cが左大腿骨骨折を負った。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、愛媛県北条港で漂泊して花火見物の終了後、帰航のため港外に向け発進する際、船位の確認が不十分で、一文字防波堤に向かって転針したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、愛媛県北条港で漂泊して花火見物の終了後、帰航のため北方の港外に向け発進する場合、付近にある一文字防波堤を視認できなかったから、レーダーやGPSを見るなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、予定の針路で発進すれば同防波堤北端を大きく離して替わるものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中に潮流の影響で一文字防波堤寄りに圧流されたことに気付かずに発進し、同防波堤北端に著しく接近する状況となって進行中に前方の入航船を替わそうと左転した直後、一文字防波堤との衝突を招き、同防波堤にほとんど損傷がなかったものの、大和丸の船首部を圧壊させ、同乗者2人に頚髄損傷や左大腿骨骨折の重傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。