(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月17日22時38分
周防灘東部
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第八鶴汐丸 |
貨物船吉祥丸 |
総トン数 |
370トン |
199トン |
全長 |
56.99メートル |
58.09メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
第八鶴汐丸(以下「鶴汐丸」という。)は、A重油専用の船尾船橋型油送船で、A受審人及び船長Cほか2人が乗り組み、A重油700キロリットルを載せ、船首3.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成15年4月17日18時45分山口県岩国港を発し、熊本県八代港に向かった。
ところで、C船長は、鶴汐丸の船橋当直を、自らを含め一等航海士及びA受審人とによる単独3時間3直制を採り、次席一等航海士を機関免許取得のため主に機関部の配置に就かせていた。また、A受審人は、E社のもう1隻の所有船F号の船長職などを執っていたところ、同年4月6日鶴汐丸機関長の交替として乗り組んでその職に就いた。
21時50分A受審人は、平郡水道第1号灯浮標北西方沖合で前直の一等航海士から交替して単独の船橋当直に就き、法定灯火を表示して平郡水道を西行し、22時17分ホウジロ灯台から297度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点で、針路を281度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
定針したころA受審人は、4海里レンジのオフセンターとして使用していたレーダーにより、船首方7海里ばかりのところに吉祥丸の映像を初めて探知し、同船が反航船であることを認めたものの、その後海図台に置いてある航海計画表にいつも船長が記入している関門海峡や平戸瀬戸の潮流が記載されていないことに気付き、もう少し近づいてから吉祥丸の様子を見るつもりで、船橋内右舷後部の海図台に船尾方を向いた姿勢で、潮汐表により関門海峡や平戸瀬戸などの潮流の調査を行いながら航海計画表に記入を始めた。
ところが、22時33分A受審人は、右舷船首2度1.8海里のところに吉祥丸を認め得るようになり、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、航海計画表の記入に気をとられ、同船の動静監視を十分に行わなかったので、これに気付かず、吉祥丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま、同じ針路で続航した。
22時38分少し前A受審人は、記入を終えて船首方を見たとき、船首至近に吉祥丸の白、白、紅、緑4灯を認め、急いで右舵一杯としたが効なく、22時38分ホウジロ灯台から289度7.2海里の地点において、鶴汐丸は、原針路、原速力のまま、その船首が吉祥丸の船首に前方から04度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
C船長は、自室で休息中、衝撃で目覚め、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
また、吉祥丸は、船尾船橋型貨物船で、B受審人及び船長Dほか1人が乗り組み、古紙325トンを載せ、船首1.6メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、同日17時45分関門港を発し、愛媛県三島川之江港に向かった。
ところで、D船長は、吉祥丸の船橋当直を、自らを含めB受審人及び機関長とによる単独3時間3直制を採っていた。また、B受審人は、昭和62年にG社に入社して平成10年まで船長職を執り、その後吉祥丸の甲板員として乗り組んでその職に当たっていた。
20時30分B受審人は、周防灘航路第3号灯浮標北西方沖合で前直のD船長から交替して単独の船橋当直に就き、法定灯火を表示して周防灘を東行し、22時05分姫島灯台から040度5.1海里の地点で、針路を105度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.6ノットの速力で進行した。
22時28分B受審人は、船首方3.5海里ばかりのところに鶴汐丸の白、白、紅灯を初めて視認し、同船が反航船であることを認めたものの、もう少し近づいてから鶴汐丸の様子を見るつもりで、船橋内左舷後部の海図台に船尾方を向いた姿勢で航海日誌に記入を始めた。
ところが、22時33分B受審人は、左舷船首2度1.8海里のところに鶴汐丸を認め得るようになり、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、航海日誌の記入に気をとられ、同船の動静監視を十分に行わなかったので、これに気付かず、鶴汐丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま、同じ針路で続航した。
22時38分少し前B受審人は、記入を終えて船首方を見たとき、船首至近に鶴汐丸の白、白、紅、緑4灯を認めたが、何もする間もなく、吉祥丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
D船長は、自室で休息中、衝撃で目覚め、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
衝突の結果、鶴汐丸及び吉祥丸は船首部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、周防灘東部において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、西行する鶴汐丸が、動静監視不十分で、吉祥丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったことと、東行する吉祥丸が、動静監視不十分で、鶴汐丸の左舷側を通過することができるように針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たって周防灘東部を西行中、レーダーにより船首方数海里先に吉祥丸の映像を探知した場合、同船の接近状況を確かめられるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少し近づいてから吉祥丸の様子を見るつもりで航海計画表に関門海峡などの潮流を記入しているうち、これに気をとられ、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後吉祥丸とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して吉祥丸との衝突を招き、鶴汐丸及び吉祥丸の船首部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たって周防灘東部を東行中、船首方に鶴汐丸の灯火を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、もう少し近づいてから鶴汐丸の様子を見るつもりで航海日誌の記入をしているうち、これに気をとられ、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後鶴汐丸とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の左舷側を通過することができるように針路を右に転じないまま進行して鶴汐丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。