(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月7日19時40分
愛媛県高山漁港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第23浜田丸 |
漁船福秀丸 |
総トン数 |
4.5トン |
0.9トン |
登録長 |
10.40メートル |
5.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
90 |
45 |
3 事実の経過
第23浜田丸(以下「浜田丸」という。)は、船曳網漁業に従事するFRP製漁獲物運搬船で、A受審人(平成6年11月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、網船の第25浜田丸ほか1隻と共に、しらす漁の目的で、平成12年6月7日06時00分愛媛県明浜町の高山漁港を発し、同町南岸沖合の漁場に至って操業を繰り返したのち、漁獲したしらす約750キログラムを水氷と共に操舵室前方の魚倉に積載し、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、19時31分大良埼灯台から312度(真方位、以下同じ。)4.6海里の地点を発進し、法定の灯火を表示して同港への帰途についた。
ところで、高山漁港は、法花津湾に面し、東、西、北の3方に山を配して南に開いた浦の奥にあり、その西岸から北東方に延びる防波堤(以下「西防波堤」という。)と北岸から南西方に延びる防波堤によって囲まれ、両防波堤間の港口は東方に開いていた。そのため、日没後漁場から帰港する漁船は、左舷船首方に西防波堤東端に設けられた緑灯を見て入航の針路目標としていた。
A受審人は、明浜町の南岸沖合を東行して平碆鼻を左舷側に見て大きく付け回し、19時37分少し前大良埼灯台から325度3.6海里の地点で、針路を016度に定め、機関を全速力前進より少し減じた回転数毎分2,000にかけ、15.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、右舷船首方に数隻の漁船の灯火を見ながら西防波堤東端の緑灯を針路目標として針路を保ち、19時37分正船首1,440メートルのところに福秀丸が北東方を向き法定の白色全周灯を表示しないまま錨泊していたが、日没後の薄明のもと、同船を視認することができないで続航した。
19時39分半わずか過ぎA受審人は、正船首200メートルのところに福秀丸の黒い影を視認することができ、注視すれば動静は分からないまでも漁船の船影と分かり、同船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、針路目標としていた左舷船首方の西防波堤東端の緑灯を見ることに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かず、直ちに右転するなど福秀丸との衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
こうして、A受審人は、入航に備えて減速しようと主機操縦レバーに手をかけたところ、突然前方で福秀丸が点灯した強力な白色光を認めた直後、19時40分大良埼灯台から334度4.3海里の地点において、浜田丸は、原針路、原速力のまま、その船首が福秀丸の船尾に後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好で、日没は19時18分、常用薄明終了時刻は19時51分であった。
また、福秀丸は、敷網漁業に従事するFRP製漁船で、船長Bが1人で乗り組み、かたくちいわし漁の目的で、同日夕方愛媛県石応漁港を発し、漁場に向かった。
ところで、福秀丸は、灯火設備として操舵室の上部に両色灯1個及びその少し後方に白色全周灯1個を備えていたが、白色全周灯の電球は取り付けられていなかった。また、集魚のため真鍮製格子状の保護カバーの中に2キロワットの電球を水密に取り付けた水中灯2個を備えていた。
B船長は、魚群探索を行いながら愛媛県九島の北西岸沖合を経て法花津湾に至り、やがて日没となって両色灯だけを点灯して高山漁港の沖合に達し、19時36分ごろ前示衝突地点で投錨し、水中灯の電源とするため機関を中立運転として船首を北東方に向け、両色灯を点灯したまま錨泊中であることを示す白色全周灯を表示せず、船尾方から見れば無灯火の状態で操業準備を始めた。
19時37分B船長は、船尾方1,440メートルのところに白、紅、緑3灯を表示し自船に向首して接近する浜田丸を認めることができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、懐中電灯を浜田丸に向けて点灯するなど注意喚起信号を行わなかった。
こうして、B船長は、操業準備を続け、水中灯2個を右舷船側から海中に投入し操舵室右舷側の壁に取り付けられた同灯の電源スイッチを入れた直後、福秀丸は、船首を046度に向けて、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、浜田丸は船首部両舷外板に破口及び擦過傷を生じ、福秀丸は船尾部及び舵を損傷したが、のちいずれも修理され、B船長が脳挫傷を負った。
(原因)
本件衝突は、日没後の薄明時、高山漁港沖合において、福秀丸が、錨泊中であることを示す法定灯火を適切に表示しなかったばかりか、接近する浜田丸に対して注意喚起信号を行わなかったことによって発生したが、浜田丸が、見張り不十分で、福秀丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、日没後の薄明時、高山漁港沖合において、操業を終えて同港に向け帰航する場合、福秀丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、針路目標とした左舷船首方の防波堤東端の緑灯を見ることに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、福秀丸に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、浜田丸の船首部両舷外板に破口及び擦過傷を、福秀丸の船尾部及び舵に損傷をそれぞれ生じさせ、同船船長に脳挫傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。