(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月11日05時15分
瀬戸内海 安芸灘
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船興陽丸 |
漁船輪島丸 |
総トン数 |
199トン |
6.60トン |
全長 |
58.05メートル |
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登録長 |
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12.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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90 |
3 事実の経過
興陽丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長C及びA受審人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成15年7月10日19時00分兵庫県姫路港を発し、広島県広島港に向かった。
ところで、A受審人は、興陽丸1隻を所有するD社の取締役を兼ね、五級海技士の航海と機関の両免許を受有しているので、雇い入れる乗組員の受有する免許によって船長又は機関長職を執るようにしており、いずれの場合でも出入港や狭水道等での操船は自ら行っていた。
翌11日01時00分A受審人は、備讃瀬戸北航路通航後から単独で船橋当直に就き、法定灯火を表示し、備後灘及び来島海峡を経て、04時26分桴磯灯標から323度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点で、針路を255度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
05時01分A受審人は、鴨瀬灯台から102度2.3海里の地点で、右舷船首26度2.5海里のところに輪島丸を初めて視認したが、その後の視認模様から同船が漁船であり、停止していることが分かったので、まさか自船の前路に向けて移動することはないものと思い、その動静監視を十分に行わなかった。
05時06分A受審人は、鴨瀬灯台から116度1.6海里の地点で、音戸瀬戸に向かうため針路を259度に転じ、同時10分には輪島丸が南方に向けて発進し、同時12分鴨瀬灯台から156度1,800メートルの地点に達したとき、同船を右舷船首55度1,300メートルに視認でき、その後前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、依然、動静監視が不十分で、このことに気付かず、右転するなどして輪島丸の進路を避けないまま続航した。
05時15分少し前A受審人は、右舷至近に迫った輪島丸を認め、手動操舵に切り替えて右舵をとったが効なく、05時15分鴨瀬灯台から186度1.0海里の地点において、興陽丸は、原針路、原速力のまま、その右舷中央部に輪島丸の船首が後方から79度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、視界は良好で、付近の日出は05時06分であった。
また、輪島丸は、引き縄漁業に従事する船尾部に操舵室を備えたモーターホーンを有するFRP製漁船で、B受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)が妻と共に2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日04時00分広島県豊島漁港を発し、安芸灘漁場に向かった。
B受審人は、04時30分鴨瀬灯台南方1海里ばかりの漁場から、60本の針のついた長さ約270メートルの幹縄を北方に向かって引き始め、05時00分同灯台西方に至って停止して揚縄作業を開始し、同作業を終えて南方に向けて漁場を移動することとし、同時10分鴨瀬灯台から270度200メートルの地点で、針路を180度に定め、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
発進したころB受審人は、左舷船首46度1.2海里のところに興陽丸を初めて視認したが、一瞥(いちべつ)しただけで同船が自船の前路を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった。
05時12分B受審人は、鴨瀬灯台から192度800メートルの地点に達したとき、興陽丸を左舷船首46度1,300メートルに視認でき、その後前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、依然、動静監視が不十分で、このことに気付かず、同時14分同船が自船の進路を避けないまま同方向450メートルに接近していたが、警告信号を行わず、その後間近に接近しても右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
05時15分少し前B受審人は、興陽丸が船首至近に迫ったのを認め、機関を後進としたが効なく、輪島丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、興陽丸は右舷中央部外板に擦過傷を生じ、輪島丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人が頭部挫創などを負った。
(原因)
本件衝突は、安芸灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近する際、西行中の興陽丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る輪島丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の輪島丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、安芸灘を単独で船橋当直に当たって西行中、右舷前方に停止している漁船の輪島丸を視認した場合、漁船は漁場移動などで発進することがあるから、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、輪島丸がまさか自船の前路に向けて移動することはないものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、漁場移動を始めた同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、右転するなど輪島丸の進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、興陽丸の右舷中央部外板に擦過傷を生じさせ、輪島丸の船首部を圧壊させ、B受審人に頭部挫創などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、安芸灘を漁場移動のため南下中、左舷船首方に興陽丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥しただけで同船が自船の前路を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する興陽丸に気付かず、警告信号を行わず、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。