日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成15年広審第53号
件名

漁船第十一増栄丸漁船光進丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月6日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史、道前洋志、佐野映一)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:第十一増栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十一増栄丸・・・船首部に亀裂
光進丸・・・船尾部を破損、船長が溺水により死亡

原因
光進丸・・・灯火不表示

主文

 本件衝突は、光進丸が、灯火を表示しなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月6日18時05分
 愛媛県九島漁港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一増栄丸 漁船光進丸
総トン数 5.3トン 0.92トン
全長   6.00メートル
登録長 10.29メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 15

3 事実の経過
 第十一増栄丸(以下「増栄丸」という。)は、船体中央部に操舵室を配置したレーダー設備の無いFRP製漁船で、A受審人(昭和51年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、同人の妻を同乗させ、親戚の通夜に出席する目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年11月6日18時02分愛媛県九島漁港本九島を発し、同港南東方対岸の同県宇和島市小福浦に向かった。
 ところで、九島漁港は、宇和島港西方沖合の九島南岸にあり、東方から西方に向かって順に蛤、百之浦及び本九島の3つの浦を含む港で、いずれの浦もほぼ東西方向にそれぞれ延びる防波堤に囲まれて浦口を南方に開き、本九島の浦口には本九島防波堤(以下「防波堤」という。)が百之浦護岸南端から西方に130メートル延び、その先端に九島港本九島防波堤灯台(毎3秒1閃赤光。以下「防波堤灯台」という。)が設備されていた。また、防波堤の南方沖合にはそれに沿うようほぼ平行に養殖筏が設置されており、同筏の位置を示す赤色又は黄色の点滅灯が所々に設けられて防波堤と養殖筏との間が幅65メートルばかりの水路を形成し、同様の水路が東方の蛤まで続いて各浦に出入りする漁船などの通航路となっていた。
 A受審人は、法定の灯火を表示し、機関を後進にかけ、東方に向かって入船右舷付けした浮き桟橋を離れ、微速力前進に切り替えて浦口に向かい、間もなくして防波堤先端から50メートル西方沖合に至ったところで東方に続く水路を見通し、進行方向に他船の灯火が見あたらないことを確認し左回頭して水路に入り、18時04分半少し過ぎ防波堤灯台から209度(真方位、以下同じ。)50メートルの地点で、針路を067度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針時、A受審人は、右舷船首3度120メートルのところに東行する光進丸が存在し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、光進丸が灯火を表示していなかったので視認することができないまま続航中、18時05分防波堤灯台から082度115メートルの地点において、増栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、光進丸の左舷船尾部に後方から12度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期にあたり、日没は17時15分で、月齢は1.1であった。
 また、光進丸は、船体中央に蓋付きの機関室を配置したFRP製漁船で、B船長が1人で乗り組み、いか釣りの目的で、同日16時03分九島漁港百之浦を発し、九島西方沖合の小高島周辺で釣りを行った後、17時30分ごろ釣場を発進して帰途に就いた。
 ところで、光進丸の灯火設備は、船体中央左舷側の舷側至近に立てられた、甲板上高さ115センチメートル(以下「センチ」という。)の支柱頂部から17センチ下方に笠の無い10ワットの白熱灯1灯が取り付けられ、その支柱に沿って機関室内に延びたコード先端のプラグを同室内のコンセントに差し込むと点灯するようになっていた。また、同船の操船は、機関室後方の右舷側甲板上の操船位置で、舵柄を左右に動かし舵操作及び機関室から同室後部囲壁を貫通し船尾方に延びるクラッチ操作用の連結棒を前後に動かし前後進の機関操作をそれぞれ行うものであった。
 B船長は、操船位置に座って操船にあたり、日没を過ぎていたので周囲が次第に暗くなってきたものの、灯火を表示しないまま、3.0ノットの対地速力で航行を続け、しばらくして本九島沖合の水路に入り、18時04分半少し過ぎ防波堤灯台から092度88メートルの地点に達し、同一速力で055度に向首していたとき、左舷船尾15度120メートルのところに増栄丸の白、緑、紅3灯を視認し得る状況となり、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、白熱灯を点けて自船の存在を示さないでいるうち、光進丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、増栄丸は、船首部に亀裂を生じ、光進丸は、船尾部を破損したが、のちいずれも修理され、B船長(一級小型船舶操縦士免許受有)は、衝撃で海中に転落し、間もなく増栄丸に揚収されて病院に搬送されたが、溺水により死亡した。

(原因の考察)
 本件は、夜間、両船が九島漁港の防波堤と養殖筏との間の水路を東行中、増栄丸が光進丸に後方から衝突したもので、以下、その原因について検討する。
1 光進丸の灯火について
 同船の灯火についての事実認定から明らかなように、光進丸が灯火を表示しておらず、このため、定針時から衝突時まで同船の後方から接近していた増栄丸からは、光進丸を視認することができなかったと認められる。したがって、光進丸が灯火を表示していなかったことは、本件発生の原因となる。
2 増栄丸の衝突を避ける措置について
 増栄丸と光進丸の両船を使い、夜間における増栄丸から光進丸の視認状況についての当海難審判庁の検査調書及びC海上保安官作成の実況見分調書写によると、日没、月等の状況を勘案して衝突時とほぼ同条件となる時刻を選び、A受審人の衝突当時の明るさと同様であるとの報告のもと、両船間で連絡を取り合って増栄丸が本九島を発し、防波堤を航過して衝突地点に向かって航走したところ、灯火を表示していない光進丸の船影を視認した距離がいずれも10メートルばかりであり、このことは、増栄丸が光進丸の存在を知らないまま接近したとき衝突を避けるための措置をとり得る時間的、距離的な余裕がなかったと認めるのが相当である。したがって、増栄丸は、本件発生の原因とはならない。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、愛媛県九島漁港の防波堤とその南方沖合に設置された養殖筏との間の水路において、航行する光進丸が、灯火を表示しなかったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:24KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION