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平成15年広審第86号
件名

一体型プッシャーバージ第十一はまお丸第一はまお丸貨物船第五協立丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月5日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(供田仁男、西田克史、西林 眞)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:第十一はまお丸第一はまお丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第五協立丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
第一はまお丸・・・ベルトコンベヤーに曲損
第五協立丸・・・損傷ない

原因
第五協立丸・・・動静監視不十分、追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第十一はまお丸第一はまお丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十一はまお丸第一はまお丸を追い越す第五協立丸が、動静監視不十分で、第十一はまお丸第一はまお丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、第十一はまお丸第一はまお丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月8日16時02分
 山口県宇部港
 
2 船舶の要目
船種船名 押船第十一はまお丸 コンクリートミキサー船第一はまお丸
総トン数 19トン 802トン
全長   43.000メートル
登録長 11.90メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 588キロワット  
船種船名 貨物船第五協立丸  
総トン数 499トン  
全長 66.19メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,360キロワット  

3 事実の経過
 第十一はまお丸(以下「プッシャー」という。)は、鋼製の押船で、船首尾共に0.7メートルの喫水をもって、空倉時の喫水が船首尾共に1.7メートルの非自航コンクリートミキサー船第一はまお丸(以下「バージ」という。)の船尾中央凹部に船首から船尾までを嵌合して、一体型プッシャーバージ(以下、プッシャー及びバージを総称するときは「プッシャーバージ」という。)を形成し、A受審人ほか5人が乗り組み、山口県宇部港東部に位置する東見初地区の岸壁築造工事に携わっていた。
 この岸壁築造工事は、東見初地区の既存する岸壁から南西方向に長さ約1,100メートル最大幅約700メートルの岸壁を増設するもので、増設範囲のうち、南部の東西及び南の3面をそれぞれの外方180メートルに設置した汚濁防止膜で囲んで工事区域とし、同区域内では、増設予定岸壁の東縁部が先に築造されて堤防となっており、その南端部の北西方360メートルに、クレーンを備えたはしけ(以下「クレーン船」という。)を右舷側に横抱きした港湾土木作業船が船首を南方に向けて錨泊していた。
 プッシャーバージは、堤防の南端部西面に東方を向首して船首付けし、船内で製造したコンクリートを工事現場に流し込んだのち、空倉のまま、平成14年8月8日15時50分堤防を離岸し、バージ船首部のベルトコンベヤーを前方に傾倒して同コンベヤーの先端から船尾までを63メートルとし、東見初地区西側に隣接する恩田ふ頭に向かった。
 A受審人は、プッシャーの遠隔操縦装置をバージ船首部の操舵室に移して1人で操船に従事し、船尾後方に投じていた錨を揚錨して後退しながら、船首に配した揚錨船の援助を受けて左回頭し、15時58分宇部港東導灯(前灯)(以下「導灯」という。)から206度(真方位、以下同じ。)1,950メートルの地点で、針路を西側の汚濁防止膜北端部を船首少し左に見る357度に定めて手動で操舵にあたり、機関を港内全速力前進にかけ、間もなく4.0ノットの定速となって進行した。
 16時00分半A受審人は、導灯から211度1,700メートルの地点に至ったとき、左舷船尾57度200メートルに北上する第五協立丸(以下「協立丸」という。)を視認でき、その後同船が自船を追い越す態勢で接近することを認め得る状況であったが、追越し船があっても自船を避けてくれるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、避航の気配を見せない協立丸に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもなく、操舵目標とした汚濁防止膜北端部を見て続航した。
 16時02分わずか前A受審人は、船首至近に迫った協立丸の船首部を初めて視認したものの、何もできず、16時02分導灯から214度1,550メートルの地点において、プッシャーバージは、原針路、原速力のまま、そのベルトコンベヤーに協立丸の船首部右舷側デリックブームのカーゴフォールが後方から45度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で、風力4の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、協立丸は、船尾船橋型の砂利採取運搬船で、B受審人ほか4人が乗り組み、東見初地区の岸壁築造工事に携わっていたところ、南方を向首してクレーン船に左舷付けし、海砂を揚荷したのち、空倉のまま、船首1.2メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、同日15時55分同船を離舷し、船首部右舷側のデリックポストから右舷前方に傾倒したデリックブームで砂利採取装置を甲板上まで吊り、大分港に向かった。
 B受審人は、1人で操船に従事し、バウスラスターを使用して右回頭し、16時00分導灯から213度1,940メートルの地点で、針路を西側の汚濁防止膜北端部を船首少し左に見る027度に定めて手動で操舵にあたり、機関を極微速力前進にかけたころ、右舷船首34度220メートルにプッシャーバージを初めて視認し、同船が低速力で北上しているのを認め、間もなく7.5ノットの定速となって進行した。
 16時00分半B受審人は、導灯から213度1,890メートルの地点に至ったとき、プッシャーバージが右舷船首27度200メートルとなり、その後同船を追い越す態勢で接近することを認め得る状況であったが、自船の方が速いから前方を航過できるものと思い、プッシャーバージに対する動静監視を十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、操舵目標とした汚濁防止膜北端部を見て続航した。
 16時02分少し前B受審人は、プッシャーバージと至近に接近してようやく衝突の危険を感じ、機関停止に続いて微速力後進とし、船首配置の乗組員に命じて左舷錨を投下したものの効なく、協立丸は、右回り固定ピッチプロペラの後進放出流により船首が042度に向き、4.0ノットの行きあしをもって、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、協立丸に損傷はなく、バージのベルトコンベヤーに曲損を生じたが、のち修理された。 

(原因)
 本件衝突は、宇部港において、プッシャーバージを追い越す協立丸が、動静監視不十分で、プッシャーバージを確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、プッシャーバージが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、宇部港において、岸壁築造工事区域を北上する場合、発進時に低速力で北上するプッシャーバージを視認していたのだから、衝突のおそれの有無を判断することができるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、自船の方が速いから前方を航過できるものと思い、プッシャーバージに対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船を追い越す態勢で接近することに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して衝突を招き、バージのベルトコンベヤーに曲損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、宇部港において、岸壁築造工事区域を北上する場合、後方から接近する他船を見落とすことのないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、追越し船があっても自船を避けてくれるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船を追い越す態勢で接近する協立丸に気付かず、避航の気配を見せない同船に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、バージに前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:20KB)





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