(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月23日08時15分
兵庫県江井ケ島港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第5新和丸 |
プレジャーボート大漁丸 |
総トン数 |
7.3トン |
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全長 |
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3.17メートル |
登録長 |
13.55メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
421キロワット |
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3 事実の経過
第5新和丸(以下「新和丸」という。)は、採介藻漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年8月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成14年12月23日08時12分兵庫県江井ケ島港マイナス2.0メートル泊地を発し、同港南方沖合ののり養殖施設へ向かった。
A受審人は、船橋中央でいすに座りながら舵輪をもって操舵操船に当たり、08時13分半少し過ぎ江井ケ島港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から345度(真方位、以下同じ。)130メートルの地点で、西防波堤に沿う160度の針路に定め、5.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
08時14分半A受審人は、西防波堤灯台から070度10メートルの地点で、右舷船首50度方向にあるのり養殖施設北東端を示す標識ブイに向けようとしたとき、同方向160メートルのところに大漁丸を視認でき、その後錨泊中の形象物を掲げていないものの、船首から錨索を海面に出して左舷を見せたまま移動していないことから錨泊していることが分かる状況であったが、西防波堤先端部付近で引き縄漁を行っている2隻の漁船に気を取られ、のり養殖施設へ向かう進行方向の見張りを十分に行わなかったので、大漁丸の存在に気付かなかった。
A受審人は、西防波堤東端を右舷方約4メートルに見ながら付け回し、08時14分半わずか過ぎ西防波堤灯台から125度10メートルの地点で、210度の針路として15.0ノットに増速し、依然として2隻の引き縄漁船との接近模様に気を配っていて大漁丸に向首接近していることに気付かず、同船を避けることなく進行し、漁船を左舷方に見て航過したころ突然衝撃を受け、08時15分西防波堤灯台から207度150メートルの地点において、新和丸は、その船首部が、大漁丸の左舷前部に前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、大漁丸は、手漕ぎ式FRP製プレジャーボートで、B指定海難関係人が1人で乗り組み、会社の同僚1人を同乗させ、釣りの目的で、船首尾0.2メートルの等喫水をもって、同日08時00分西防波堤灯台から038度310メートルの江井ケ島海水浴場の海岸を発し、沖合の釣り場に向かった。
ところで、B指定海難関係人は、西防波堤灯台から120度60メートルの地点を基点として東方へ100メートル延びる一文字防波堤と称する防波堤で釣りを行うために、大漁丸を同防波堤との往復に利用することとしていたが、有効な音響信号を行うことができる手段を講じていなかった。
B指定海難関係人は、一文字防波堤に近づいたところ、折からの干潮時で同防波堤周囲の消波ブロックが干上がっていたので、上陸を取りやめて更に沖合へ漕ぎ出し、08時13分前示衝突地点付近の水深7メートルのところに船首から重さ約4キログラムの手製の錨を投下し、錨索としてビニール製の荷造り紐を約15メートル延出し、江井ケ島港に出入りする小型船が通常航行する水域であったものの、錨泊中であることを示す形象物を掲げないまま錨泊を開始した。
錨泊後、B指定海難関係人は、大漁丸後部で身体を船首方に向けて腰を下ろし、同乗者は前部で身体を船尾方に向けて腰を下ろし、共に顔を下に向けて釣りの仕掛け作りに取り掛かった。
こうして、大漁丸は、08時14分半船首が090度を向いていたとき、西防波堤の内側から現れた新和丸が左舷船首60度160メートルのところで沖合の養殖施設に向け、その後自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、注意喚起信号を行うことができないまま錨泊を続け、08時15分わずか前B指定海難関係人が機関音を聞いて顔を上げたとき、左舷至近に迫った新和丸を認めたが、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、新和丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、大漁丸は、大破し、修理費を考慮して廃船となった。また、B指定海難関係人が右胸部打撲傷などを、大漁丸の同乗者Cが右大腿切断などをそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、兵庫県江井ケ島港において、西防波堤東端を付け回しながら沖合ののり養殖施設へ向け航行中の新和丸が、見張り不十分で、錨泊中の大漁丸を避けなかったことによって発生したが、大漁丸が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じず、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、兵庫県江井ケ島港において、西防波堤東端を右舷に見て付け回しながら、沖合ののり養殖施設へ向かう場合、錨泊中の大漁丸を見落とすことのないよう、進行方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同防波堤先端部付近で引き縄漁を行っている漁船に気を取られ、進行方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大漁丸の存在に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、新和丸の船首部に擦過傷を、大漁丸に大破をそれぞれ生じさせ、B指定海難関係人に右胸部打撲傷などを、大漁丸の同乗者に右大腿切断などをそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B指定海難関係人が、有効な音響信号を行うことができる手段を講じなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。