(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月22日14時20分
東京都小笠原村南島
2 船舶の要目
船種船名 |
観光船レッドシャーク2 |
全長 |
13.82メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
356キロワット |
3 事実の経過
レッドシャーク2(以下「レ号」という。)は、船体中央部に操舵室を有する旅客定員20人のFRP製観光船で、A受審人が単独で乗り組み、テレビ局スタッフ(以下「スタッフ」という。)14人、小笠原村役場職員及びガイド各1人を乗せ、テレビ中継準備の目的で、船首0.40メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成15年6月22日14時00分父島二見港を発し、同島南西沖合に位置する南島の袋港に向かった。
ところで、袋港は、南島の南部に位置し、南東方に開口した奥行き約230メートル幅約180メートルの入り江で、港口の中央付近には巨岩(以下「中央岩」という。)を挟んで東水路、西水路と称する二つの水路があったが、西水路は水深が浅いので、ほとんど使用されなかった。
東水路は、幅約25メートルのうち、中央岩の東側に沿って散在する干出岩や暗岩等により、可航幅が約7メートルに狭められたうえ、くの字型に屈曲しており、港口にうねりが押し寄せるときは、その付近の水深が浅くなることや港口西側から南方に突き出た岬による反射波の影響などもあって波高が複雑に高まるので、進入にあたっては、慎重な操船を必要とするところであった。
レ号の船体構造は、操舵室上の暴露甲板に操舵スタンドと操縦席を備えたフライングブリッジとなっており、上甲板は船首より、船首部、船首甲板、操舵室後部の船尾甲板があり、操舵室前部の甲板下に客室が設けられていた。
A受審人は、昭和60年から観光船を所有し、自ら船長として乗船し袋港には何度も入航した経験があったので、同港港口周辺の状況を十分に知っており、平素、レ号を操船して同港に入る際には、観光客を船尾甲板上に乗せ、船尾喫水を深くして舵効が十分に得られる状態としたうえ、中央岩を船首目標に、約6ノットの舵効のある速力で、港口右舷側のがけにできるだけ接近し、中央岩から20メートル手前の、がけの突端が替わったところで、右舵をとるとともに機関回転数を上げて回頭することにより、波高2メートル程度のうねりが押し寄せる状況でも、東水路を通航していた。
A受審人は、フライングブリッジ右舷側の操縦席に腰を掛けて手動操舵に当たり、船首甲板上にスタッフ2人を、フライングブリッジ左舷側のいすにガイドを、船尾甲板上に小笠原村役場職員及びスタッフ12人をそれぞれ乗せて父島西岸沿いに南下し、14時13分袋港港口南方沖合80メートルに至り、港内の状況を確認するとともにスタッフに撮影準備作業を行わせるため、機関を中立運転とし、船首を同港に向けて漂泊した。
A受審人は、当時、客室にテレビ放送用機材約100キログラムを積んでいたうえ、船尾甲板上で待機していたスタッフのうち撮影カメラマンほか1人が船首部、さらに5人が船首甲板上にそれぞれ移動していたので船尾喫水が浅くなり、そのままの状態で進行すると、推進効率が低下し、平素より舵効きが悪くなる状況であったが、さほど舵効きが悪くなることはあるまいと思い、有効な舵効が得られるよう、船首部及び船首甲板上のスタッフを船尾甲板上に移動させ、船尾喫水を深くして舵効きをよくするなど、操縦性に対する配慮を十分に行うことなく、14時19分前示漂泊地点を発進した。
14時19分半A受審人は、南島南部の60メートル頂(以下「島頂」という。)から046度(真方位、以下同じ。)240メートルの地点に達したとき、針路を中央岩に向く282度に定め、機関を機関回転数毎分550にかけ、6.0ノットの対地速力で進行した。
こうして、A受審人は、14時20分少し前転針予定地点に差し掛かったとき、いつものように機関を回転数毎分1,000に上げ、右舵10度をとったところ、南東方からのうねりを船尾に受け、前示のように船尾喫水が浅かったので、舵効が得られないうち、14時20分島頂から025度220メートルの地点において、レ号は、原針路のまま、8.0ノットの対地速力で、右舷船首部が中央岩東側の干出岩に衝突し、さらに船首が中央岩に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、付近には南東方からの波高約2メートルのうねりがあった。
岩礁衝突の結果、レ号は、船首部に圧壊を、右舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じ、また、スタッフBが右足指骨折などを負った。
(原因)
本件岩礁衝突は、東京都小笠原村南島袋港に入航するにあたり、操縦性に対する配慮が不十分で、舵効が得られず、中央岩東側の干出岩に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、東京都小笠原村南島袋港に東水路を北上して入航するため沖合で漂泊中、テレビ撮影準備のためスタッフが船尾甲板から船首部及び船首甲板に集まり、船尾喫水が浅くなり、舵効きが悪くなる状況であった場合、有効な舵効が得られるよう、船首部及び船首甲板上にいたスタッフを船尾甲板上に移動させ、船尾喫水を深くして舵効きをよくするなど、操縦性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。
しかるに、同人は、さほど舵効きが悪くなることはあるまいと思い、操縦性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、東水路において、舵効が得られず、中央岩東側の干出岩に向首進行して衝突を招き、レ号の船首部に圧壊及び右舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、また、スタッフ1人に右足指骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。