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平成15年横審第92号
件名

押船まんじゅ被押バージK-3501引船第五名城丸引船列衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月25日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、西山烝一)

理事官
米原健一

受審人
A 職名:まんじゅ船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第五名城丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
K-3501・・・右舷中央部に破口を伴う凹傷など
第五名城丸・・・船首上部に凹損など

原因
第五名城丸引船列・・・居眠り運航防止措置不十分(主因)
K-3501・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第五名城丸引船列が、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中のまんじゅ被押バージK-3501を避けなかったことによって発生したが、まんじゅ被押バージK-3501が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月13日05時05分
 伊勢湾北西部
 
2 船舶の要目
船種船名 押船まんじゅ 被押バージK-3501
総トン数 135トン 約3,925トン
全長 33.00メートル  
水線長   95.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,647キロワット  
船種船名 引船第五名城丸 台船袖野001
総トン数 105トン 約463トン
全長 27.30メートル 35.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 882キロワット  

3 事実の経過
 まんじゅは、鋼製引船兼押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、船首3.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、土砂5,600トンを載せ、船首尾とも5.0メートルの喫水となった非自航式鋼製バージK-3501(以下「バージ」という。)の船尾凹部に、船首部を結合し、全長約116メートルの押船列(以下「まんじゅ押船列」という。)を形成し、平成14年12月12日21時00分三重県錦漁港を発し、伊勢湾の中部国際空港空港島造成工事埋立地に向かった。
 A受審人は、伊良湖水道を経由して伊勢湾を北上し、翌13日04時58分半揚荷待ちの目的で、中部国際空港・関連事業安全センターから指定された錨地にあたる、千代崎港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から097度(真方位、以下同じ。)3.1海里の地点において、船首を318度に向け、探照灯及び多数の作業灯を点灯させ、ほとんど行きあしがない状態で、右舷錨を投じ、まんじゅ押船列に錨泊中の船舶が表示する所定の灯火を表示したのち、錨鎖の延出を開始した。
 その直後、A受審人は、右舷船首74度1,900メートルのところに、第五名城丸(以下「名城丸」という。また、名城丸及び台船袖野001の引船列を総称して以下「名城丸引船列」という。)のマスト灯及び両舷灯を初めて視認し、錨鎖の延出作業を行いながら、その動静を監視した。
 A受審人は、その後名城丸引船列が、衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、そのうちに同引船列が避けるものと思い、警告信号を行うことなく、錨鎖の延出作業を続けた。
 05時03分半A受審人は、右舷錨鎖を3節延出し、船首を318度に向けて錨泊を終了したとき、名城丸引船列が同じ方位440メートルのところに接近するので、同引船列に向けて探照灯を照射したり、点滅させたりしながら、汽笛により短音を数回吹鳴し、同時05分少し前機関を後進にかけたが、05時05分前示の錨泊地点において、まんじゅ押船列は、船首を318度に向け、バージの右舷中央部に名城丸の船首部が前方から74度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、名城丸は、鋼製引船で、B受審人ほか4人が乗り組み、船首2.4メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、船尾部から直径60ミリメートルの合成繊維索を35メートル延出し、船首尾とも0.3メートルの喫水で、鋼製構造物を積載した台船袖野001(以下「台船」という。)を引き、名城丸の船尾から台船の船尾まで約70メートルの名城丸引船列を形成し、同日03時25分名古屋港第4区造船団地を発し、三重県津港に向かった。
 03時45分ごろB受審人は、名古屋港西航路東出入口付近で、船長と交代して単独の船橋当直に就き、04時12分少し過ぎ名古屋港高潮防波堤中央堤西灯台から218度3.0海里の地点において、針路を212度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で、名城丸引船列に所定の灯火を表示し、自動操舵により進行した。
 これより先、B受審人は、発航前々日の11日が休日のため休息し、12日18時ごろ就眠して13日01時ごろ起床したのち、発航準備に当たり、寝不足など感じないほど十分に休養をとっていたことから、津港沖合までの船橋当直を任されたものであった。
 B受審人は、操舵輪後方のいすに腰掛け、左舷側前面にあるGPSプロッタの画面に表示されている針路線を見ながら船橋当直に当たり、折からの風浪や、不測の潮流などで船位が左方へ偏位するので、時折、自動操舵のまま針路を修正しては原針路に復して南下し、04時52分ごろ三重県鈴鹿市東方沖合に差し掛かったとき、前方2海里ばかりに平素見慣れている中部国際空港空港島造成工事埋立地への揚荷待ちをしている様子の錨泊船2隻の灯火を認め、両船間の間隔が広いので、その間を無難に通過できるかなどと考えているうち、操舵室内の暖房によるものか、眠気を感じ始めた。
 しかし、B受審人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航とならないよう、操舵室から外へ出て外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、やがて、いすに腰掛けたまま居眠りに陥った。
 B受審人は、04時58分半、南防波堤灯台から082度3.7海里の地点に達したとき、正船首方1,900メートルのところに、まんじゅ押船列の錨泊灯を視認でき、その後、同押船列に衝突のおそれがある態勢で接近したが、居眠りをしていてこのことに気付かず、まんじゅ押船列を避けることができないまま続航中、名城丸引船列は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、まんじゅ押船列はバージの右舷中央部に破口を伴う凹傷などを、名城丸引船列は名城丸の船首上部に凹損などをそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、伊勢湾北西部において、南下中の名城丸引船列が、居眠り運航の防止措置が不十分で、揚荷待ちの目的で錨泊中のまんじゅ押船列を避けなかったことによって発生したが、まんじゅ押船列が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、伊勢湾北西部を津港へ向け南下中、眠気を感じた場合、居眠り運航とならないよう、操舵室から外へ出て外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、やがていすに腰掛けたまま居眠りに陥り、前路で錨泊中のまんじゅ押船列を避けることができないまま進行して衝突を招き、同押船列のバージ右舷中央部に破口を伴う凹傷などを、名城丸引船列の名城丸船首上部に凹損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、伊勢湾北西部において、中部国際空港空港島造成工事埋立地への揚荷待ちの目的で投錨して錨鎖を延出中、名城丸引船列が、衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った場合、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちに同引船列が避けるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、名城丸引船列との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:13KB)





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