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平成15年横審第70号
件名

貨物船しゅうほう油送船興明丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西山烝一、大本直宏、稲木秀邦)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:しゅうほう船長 海技免許:二級海技士(航海)
B 職名:興明丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
しゅうほう・・・右舷側船首部外板に凹損、同部ブルワークに小破口を伴う凹損及び同部ハンドレールに曲損
興明丸・・・左舷側後部外板に破口を伴う凹損及び居住区壁に凹損

原因
興明丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
しゅうほう・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、減速中の両船が近距離で衝突のおそれが生じた際、興明丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、しゅうほうが、衝突を避けるための措置が十分でなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月18日11時50分
 京浜港川崎区沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船しゅうほう 油送船興明丸
総トン数 8,766トン 2,691トン
全長 149.53メートル 99.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,200キロワット 2,942キロワット

3 事実の経過
 しゅうほうは、可変ピッチプロペラを装備し、石灰石を専用に輸送する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか9人が乗り組み、石灰石焼結粉13,000トンを積載し、船首6.72メートル船尾7.05メートルの喫水をもって、平成14年9月17日04時50分高知県須崎港を発し、京浜港川崎区に向かった。
 A受審人は、翌18日10時ごろ剱埼東方沖合で昇橋し、二等航海士を見張りなどに就けて自ら操舵操船に当たり、浦賀水道航路を北上して中ノ瀬航路に入航し、11時34分同航路北口の、横浜大黒防波堤西灯台(以下「大黒西灯台」という。)から122度(真方位、以下同じ。)4.55海里の地点に達したとき、C社京浜製鉄所の原料バースに着岸するため、針路を日本鋼管扇島第1号灯浮標のやや右方に向く342度に定め、機関を回転数毎分161にかけ翼角を18度とし、13.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 11時42分A受審人は、着岸に備え機関をスタンバイとしたうえ、回転数毎分140で翼角13.5度として9.5ノットの港内全速力前進にかけ、同時43分半から減速を開始して半速力前進、同時44分微速力前進としたとき、右舷船首59度1,500メートルのところに、中ノ瀬航路内で前路1海里ばかりを先航していた興明丸が、右舷前方の錨泊船を替わって左転したのを初めて視認し、その後興明丸の動静を監視して続航した。
 A受審人は、11時45分大黒西灯台から094.5度3.15海里の地点に至り、機関を極微速力前進に減速したとき、興明丸が右舷船首60度1,100メートルの近距離となり、その後針路が交差し衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、自船が減速しているので興明丸が船首方をどうにか替わるものと思い、操縦性能を考慮し、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置を十分にとることなく、汽笛による警告信号を続けて2回行い、そのころ左舷正横方から北上する船舶を注視して進行した。
 A受審人は、11時46分行きあしを落とすため機関を中立翼角としたが、船首が左に振れ始めたので、針路を保つため極微速力前進にかけてすぐに中立翼角に戻し、同時47分10.0ノットの対地速力となって興明丸と600メートルに接近し、衝突の危険が切迫しているのを感じ、機関を極微速力後進から、微速力後進、半速力後進とし、同時47分半全速力後進をかけて右舵一杯をとったが、満載状態で行きあしが落ちず、11時50分大黒西灯台から085.5度3.0海里の地点において、しゅうほうは、船首が010度を向いて約3ノットの行きあしをもって、その右舷船首が興明丸の左舷後部に後方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 また、興明丸は、可変ピッチプロペラを備えた船尾船橋型の鋼製油送船で、B受審人ほか11人が乗り組み、空倉で、船首2.2メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、同月17日15時30分宮城県仙台塩釜港を発し、京浜港川崎区に向かった。
 B受審人は、翌18日10時15分昇橋して三等航海士と交代して操船の指揮をとり、同時30分浦賀水道航路に入航し、同航海士を補佐に、甲板長を手動操舵に就け、11時00分中ノ瀬航路に入航して北上し、同時30分同航路を出航したとき、着岸時刻調整のため大回りして鶴見航路に入航することとし、二代DUの行先信号旗を掲げ、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力とし、5分ばかり東京方面に北上したあと、船首を東燃扇島シーバース、続いて東扇島南東端に向けて航行した。
 11時43分ごろB受審人は、錨泊している自動車専用船を左舷側近くに航過して左転を開始し、同時44分大黒西灯台から087.5度3.75海里の地点に達したとき、針路を横浜シーバースに向く274度に定め、機関をスタンバイとしたうえ、機関を微速力前進にかけて進行した。
 定針したとき、B受審人は、左舷船首53度1,500メートルのところに、前示錨泊船によって遮られていたしゅうほうを初めて視認し、11時45分大黒西灯台から087度3.55海里の地点に至ったとき、同船が左舷船首52度1,100メートルの近距離となり、針路が交差する態勢で接近するのを認めたが、同船の前路をどうにか替わるものと思い、同船の動静監視を十分に行わなかったので、その後衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとることもなく、速力が徐々に落ちながら続航した。
 11時47分B受審人は、7.0ノットの対地速力となってしゅうほうと600メートルに接近し、衝突の危険が生じていたものの、依然として動静監視不十分で、このことに気付かず、機関を中立翼角としたのみで進行し、同時49分同船が間近に迫り、ようやく衝突の危険を感じ、右舵70度をとったが効なく、興明丸は、船首が320度を向いて約5ノットの行きあしをもって、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、しゅうほうは、右舷側船首部外板に凹損、同部ブルワークに小破口を伴う凹損及び同部ハンドレールに曲損を生じ、興明丸は、左舷側後部外板に破口を伴う凹損及び居住区壁に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件の衝突地点付近は、港則法に定める港の港域外で、海上交通安全法の適用される海域であるが、同法には本件に適用される航法が規定されていないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)によって律することになる。
 本件は、京浜港川崎区扇島南東方沖合において、しゅうほうが、入港着岸に備えて機関を半速力前進から極微速力前進へと、順次減速して北上中、衝突の6分前、両船の距離が1,500メートルのとき、興明丸が鶴見航路に入航するため、針路を転じるとともに機関を微速力前進にかけ、両船が減速しながら互いに進路を横切る態勢となり、その後衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったものである。
 ところで、互いに進路を横切る態勢となった後、両船とも針路を保持していたが、入港着岸及び航路へ入航直前のため、減速して進行中で、速力を一定に保持することができない状況であり、本件には、予防法第15条横切り船等の航法の適用はできない。
 次に、衝突5分前、両船の距離が1,100メートルのときから衝突のおそれが発生したが、両船の大きさ、操縦性能、当時の速力、衝突までの距離及び時間を勘案すると、前示の時点からでも、衝突を回避するために、両船が避航動作をとる余裕があったと認められる。
 したがって、本件は、予防法第38条及び第39条の船員の常務によって律するのが相当である。 

(原因)
 本件衝突は、京浜港川崎区沖合において、着岸バースに向けて減速中のしゅうほうと鶴見航路に向けて減速中の興明丸とが、近距離で衝突のおそれが生じた際、興明丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、しゅうほうが、衝突を避けるための措置が不十分であったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、京浜港川崎区沖合から鶴見航路に向け針路を転じて減速中、左舷前方から接近するしゅうほうを認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、しゅうほうの前路をどうにか替わるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かずに進行して同船との衝突を招き、しゅうほうの右舷側船首外板に凹損などを、興明丸の左舷側後部外板に破口を伴う凹損などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、京浜港川崎区沖合において、着岸バースに向け減速中、左転した興明丸が衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めた場合、自船の運動性能を考慮し、速やかに機関を後進にかけて行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、自船が減速しているので興明丸が船首方をどうにか替わるものと思い、衝突を避けるための措置を十分にとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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