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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成15年仙審第14号
件名

漁船第六太平丸油送船第21大英丸衝突事件
二審請求者〔補佐人 E〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月26日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎、吉澤和彦、内山欽郎)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第六太平丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第21大英丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第六太平丸・・・バルバスバウに凹損
第21大英丸・・・左舷側中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じて積載中のA重油を流出、甲板員1名が10日間の通院加療を要する左前頭部裂創の負傷

原因
第21大英丸・・・見張り不十分、船員の常務(前路に進出)不遵守

主文

 本件衝突は、第21大英丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の第六太平丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月2日11時00分
 岩手県大船渡港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六太平丸 油送船第21大英丸
総トン数 168トン 19トン
全長 39.51メートル 23.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 698キロワット 77キロワット

3 事実の経過
 第六太平丸(以下「太平丸」という。)は、さんま棒受網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか15人が乗り組み、岩手県宮古湾北東方沖合の漁場において、さんま30トンを漁獲し、平成13年11月2日09時00分同県大船渡港に入港し、魚市場岸壁で水揚げしたのち、大船渡港珊琥島北灯台(以下「珊琥島北灯台」という。)から335度(真方位、以下同じ。)640メートルの、C組合所有の製氷工場岸壁に移って砕氷12トンを積載し、船首1.9メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、船用品を積み込む目的で、10時53分同岸壁を離れ、再度同港魚市場岸壁に向かった。
 A受審人は、船首部に甲板員など5人を甲板作業と見張りに当て、自ら単独で操舵操船に当たり、バウスラスターと機関を操作して岸壁から離れ、機関を極微速力前進にかけ、3.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、遠隔操舵装置により手動操舵をとり、10時56分珊琥島北灯台から339度710メートルの地点で、針路をほぼ岸壁に沿う353度に定めて進行した。
 10時56分半A受審人は、左舷船首2度660メートルのところに、南下している第21大英丸(以下「大英丸」という。)の青色船体を初認し、その航行模様から自船の右舷側を替わって行くものと判断し、同時57分半珊琥島北灯台から342度870メートルの地点に達したとき、同船がほぼ正船首450メートルとなり、その後自船と右舷を対して30メートル離れて無難に航過する態勢であったので、同一針路、速力で続航した。
 10時59分半A受審人は、大英丸が右舷船首19度70メートルに接近して右転し始め、その後その態勢から衝突の危険が生じたことを認め、機関を全速力後進にかけたものの、11時00分珊琥島北灯台から344度1,120メートルの地点において、太平丸は、原針路のまま、速力が約2.0ノットに減じたとき、その船首が、大英丸の左舷中央部に前方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風速毎秒10メートルの北風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、大英丸は、船尾船橋型の鋼製油送船で、B受審人ほか甲板員1人が乗り組み、魚市場岸壁で停泊中の漁船4隻に順次燃料油の補油を行い、終了後A重油75キロリットルを残し、船首0.80メートル船尾1.90メートルの喫水をもって、同日10時53分同漁船の舷側を離れ、補油分のA重油を給油するため、同港内のD社大船渡油槽所桟橋(以下「D桟橋」という。)に向かった。
 ところで、B受審人は、昭和47年から平成12年までE社に勤めて大英丸の運航に携わり、同年同社を退職後に臨時船長あるいは甲板員として月に5日程度乗船していた。
 離船後、B受審人は、10時55分珊琥島北灯台から345度1,580メートルの地点で、針路をD桟橋沖合に向く165度に定め、機関を回転数毎分1,800の半速力前進にかけ、3.5ノットの速力とし、手動操舵で進行した。
 10時57分B受審人は、珊琥島北灯台から345度1,370メートルの地点に達したとき、右舷船首6.5度550メートルのところに、北上する太平丸を視認できる状況であったが、右舷船首方の見張りが不十分で、同船の存在に気付かなかった。
 10時57分半B受審人は、右舷船首8度450メートルに存在する太平丸の前路を替わる態勢で続航し、同時59分少し過ぎD桟橋に接近したので給油予定地点に向かうため、機関を半速力後進にかけて減速させ、同時59分半再び機関を微速力前進にかけて右舵一杯を取り、右回頭しながら同桟橋に接近し始めたが、前路に航行中の他船はいないものと思っていたので、依然船首方向の見張りを行わずに進行し、太平丸の前路に向かって衝突の危険がある態勢で進出する状況となったが、このことに気付かず、このころ船首で見張りに当たっていた甲板員が操舵室付近まで来て「船が来る。」と叫んだのを聞き、左舷至近に迫った同船に気付き、機関を中立としたものの、どうすることもできず、船首が253度を向き、速力が2.0ノットに減じたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、太平丸は、バルバスバウに軽度の凹損を生じただけであったが、大英丸は左舷側中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じて積載中のA重油を流出し、のち修理され、甲板員Fが、衝突時に船首部で転倒してビットに頭部を打ち、左前頭部裂創を負って10日間の通院加療を受けた。 

(原因)
 本件衝突は、岩手県大船渡港において、大英丸が、見張り不十分で、針路を右に転じ、無難に航過する態勢の太平丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、岩手県大船渡港において、魚市場岸壁を離岸したのち、D桟橋に着岸し補油を行う予定で南下しようとする場合、同岸壁に向かうため同桟橋付近を北上する太平丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に航行中の他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、太平丸が同桟橋付近に差し掛かっていることに気付かないまま右転し、同船の前路に進出して同船との衝突を招き、太平丸のバルバスバウに軽度の凹損を生じさせ、大英丸の左舷側中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせて積載中のA重油を流出させたほか、自船のF甲板員に10日間の通院加療を要する左前頭部裂創を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:19KB)





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