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平成15年函審第60号
件名

漁船第十八昇龍丸貨物船キン ヨウ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(古川隆一、岸 良彬、黒岩 貢)

受審人
A 職名:第十八昇龍丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第十八昇龍丸・・・右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損及び右舷船尾部ブルワークに曲損等
キン ヨウ ・・・ 左舷後部外板に擦過傷

原因
第十八昇龍丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
キン ヨウ ・・・ 警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十八昇龍丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るキンヨウの進路を避けなかったことによって発生したが、キン ヨウが、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月28日06時30分
 北海道白神岬南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八昇龍丸 貨物船キン ヨウ
総トン数 18トン 33,920トン
全長 22.83メートル 199.41メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 573キロワット 5,994キロワット

3 事実の経過
 第十八昇龍丸(以下「昇龍丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(平成3年3月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年8月27日13時50分青森県小泊港を発し、同港北西方約30海里の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、同年3月山口県沖合の漁場を手始めに魚群を求めて日本海を北上しながらいか漁を行い、7月中旬から小泊港を基地にして操業を行っていたが、盆休みと金曜日の休漁日を除き14時ごろ出港して翌朝07時ごろ帰港し、停泊中に4時間ばかり休息をとっただけで出漁するという就労形態を続け、疲労が蓄積した状態になっていた。
 8月27日18時30分A受審人は、前示漁場に至り、いか約450キログラムを獲たところで操業を打ち切って帰途に就くことにし、翌28日04時00分清部港西防波堤灯台から271度(真方位、以下同じ。)9.7海里の地点を発進して針路を133度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 A受審人は、発進時から単独で船橋当直に就き、いすに腰を掛けて見張りにあたり、05時55分白神岬灯台から235度7.2海里の地点に達したころ、連日の操業による蓄積した疲労により眠気を催したが、もう少しで小泊港に入港するから何とか我慢できるものと思い、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
 06時05分A受審人は、白神岬灯台から223度7.0海里の地点に達したとき、右舷方5.7海里にキン ヨウ(以下「キ号」という。)の映像をレーダーにより初めて認め、接近したら替わすつもりで同じ姿勢のまま見張りを続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
 06時25分少し過ぎA受審人は、白神岬灯台から200度7.7海里の地点に達したとき、キ号が右舷船首65度1.0海里となり、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りしていてこれに気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、06時30分白神岬灯台から195度7.9海里の地点において、昇龍丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首がキ号の左舷後部に後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の南東風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、衝撃で目覚め、事後の措置にあたった。
 また、キ号は、ウッドチップ輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、船長B及び一等航海士(以下「一航士」という。)Cほか22人が乗り組み、空倉で、船首4.69メートル船尾8.31メートルの喫水をもって、平成13年8月19日07時30分(現地時刻)中華人民共和国大連港を発し、アメリカ合衆国リッチモンド港に向かった。
 キ号は、日本海を北上し、8月28日06時00分白神岬灯台から213度13.5海里の地点に達したとき、当直中のC一航士が針路を055度に定め、機関を全速力前進にかけて12.9ノットの速力とし、甲板手と甲板部見習を見張りにあたらせ、自動操舵により進行した。
 06時18分半少し過ぎC一航士は、左舷前方2.5海里に前路を右方に横切る昇龍丸の映像をレーダーにより初めて認め、甲板手を手動操舵に就かせ、同船の意図を確認しようとVHFにより呼び出したものの応答はなく、06時25分少し過ぎ白神岬灯台から200度8.7海里の地点に達したとき、昇龍丸が左舷船首37度1.0海里となり、同船の方位に明確な変化のないまま、衝突のおそれのある態勢で接近することを知ったが、警告信号を行わなかった。
 06時27分C一航士は、左舷船首37度0.6海里に接近した昇龍丸を認め、同船が避航のための適切な動作をとっていないことが明らかになったが、そのうち昇龍丸が自船を避けるものと思い、針路及び速力の保持から離れ、自船の運動性能を考慮して直ちに大きく右転するなど、衝突を避けるための動作をとることなく続航中、06時28分少し過ぎ昇龍丸が左舷方0.3海里に迫り危険を感じて右舵10度に続き、06時29分右舵一杯を令したものの及ばず、キ号は船首が113度を向首したとき約9.5ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 報告を受けたB船長は、昇橋して事後の措置にあたった。
 衝突の結果、昇龍丸は、右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損及び右舷船尾部ブルワークに曲損等を生じたが自力で小泊港に入港し、のち修理され、キ号は、左舷後部外板に擦過傷を生じた。 

(原因)
 本件衝突は、北海道白神岬南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近した際、南東進中の昇龍丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るキ号の進路を避けなかったことによって発生したが、北東進中のキ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、単独で船橋当直に就いて北海道白神岬南方沖合を小泊港に向け帰航中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、もう少しで小泊港に入港するから何とか我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、前路を左方に横切るキ号の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、昇龍丸の右舷船首部外板に亀裂を伴う凹損及び右舷船尾部ブルワークに曲損等を、キ号の左舷後部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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