(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年7月18日06時00分
北海道知床岬北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八正福丸 |
漁船第八十一美島丸 |
総トン数 |
19トン |
19トン |
登録長 |
17.75メートル |
17.25メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
190 |
190 |
3 事実の経過
第三十八正福丸(以下「正福丸」という。)は、刺網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人(昭和54年8月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか5人が乗り組み、ほっけ刺網漁の目的で、船首1.1メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成14年7月18日00時30分北海道羅臼港を発し、知床岬北東方5海里の知床堆付近の漁場に向かった。
ところで、知床堆付近は刺網漁の格好の漁場となっており、常時、1ないし2ノットの北東寄りの潮流があったことから、投網及び揚網とも北東へ移動しながら行うのが一般的であった。
03時ごろA受審人は、知床岬北東方4海里の地点に至って1放し目の網を、次いで03時30分ごろ同岬北東方8海里付近に至って2放し目の網をそれぞれ北東方に向け投入し、1時間ほど待機したのち、2放し目の網から揚げ始め、05時30分ごろ同網を揚げ終えたところで1放し目の網を揚げるため、南西方3海里となる同網南西端に向かうこととした。
このころA受審人は、1放しの網で通常2トン以上のほっけが獲れるところ、2放し目の網による漁獲量が150キログラムと極端に悪かったことから、気落ちして操業に対する緊張感が失せ、眠気を催すようになっていた。
A受審人は、そのまま航行を開始すると居眠りに陥る状況にあったが、目的地が近いので眠気を我慢できるものと思い、他の乗組員を呼んで2人で当直に就くなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、05時42分知床岬灯台から043度(真方位、以下同じ。)7.7海里の地点において、単独の船橋当直に就いて発進した。
発進したときA受審人は、針路を1放し目の網の南西端に向く218度に定めて自動操舵とし、機関を半速力前進にかけ、折からの潮流に抗して8.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、操舵室右舷側に置いた背もたれ付きいすに腰を掛けた姿勢で当直していたところ、05時47分目的地まで2海里となったことを確認してまもなく居眠りに陥った。
05時56分A受審人は、知床岬灯台から044.5度5.9海里の地点に達したとき、ほぼ正船首方1,100メートルのところに漂泊状態の第八十一美島丸(以下「美島丸」という。)を認めることができ、その後同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、居眠りしていてこのことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
06時00分わずか前A受審人は、ふと目を覚まし、船首至近に美島丸を認めたが、どうすることも出来ず、06時00分知床岬灯台から044度5.3海里の地点において、正福丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が美島丸の船尾中央部に左舷後方から8度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、付近には約1ノットの北東流があった。
また、美島丸は、刺網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人(昭和54年8月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか4人が乗り組み、ほっけ刺網漁の目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日01時00分北海道知円別漁港を発し、03時00分知床堆付近の漁場に至り、漁労に従事していることを示す灯火を掲げずに前日設置した3放しの底刺網の揚網に取りかかった。
B受審人は、北東方向に入れた網を左舷船尾方に見るよう船首を南南西に向け、機関の前後進を適宜使い分けながら船底を潜らせた網を右舷船首部にある揚網機により巻き揚げたが、1放し約1,000メートルの網を30ないし40分かけて巻き揚げていたことから、網を入れた方向に沿って約1ノットの速力で移動することとなり、その速力、方向が潮流とほぼ同じであるため、他船からは漂泊状態と認められる状況であった。
B受審人は、日出後も漁労に従事していることを示す形象物を掲げないで揚網を続け、05時42分最後の網の揚網に取りかかることとし、知床岬灯台から043.5度4.7海里の地点から前示の方法により南南西に向首し、網の設置した方向に沿う045度の方向に揚網を開始した。
05時56分B受審人は、知床岬灯台から045度5.2海里の地点に達し、210度を向首しているとき、左舷船尾8度1,100メートルのところに来航する正福丸を認めることができ、その後自船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近したが、揚網作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近するに及んで機関をかけてその場を離れるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊状態で揚網中、美島丸は、210度を向首したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、正福丸は、船首部に凹損及び擦過傷を、美島丸は、船尾部に凹損をそれぞれ生じたが、のち、いずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、北海道知床岬北東方沖合において、漁場移動中の正福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊状態の美島丸を避けなかったことによって発生したが、美島丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道知床岬北東方沖合において、漁場移動を開始する際、眠気を催していた場合、他の乗組員を呼んで2人で当直に就くなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに同受審人は、目的地が近いので眠気を我慢できるものと思い、他の乗組員を呼んで2人で当直に就くなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、単独で当直して居眠りに陥り、漂泊状態の美島丸への接近に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部及び美島丸の船尾部にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、北海道知床岬北東方沖合において、漂泊状態で揚網する場合、自船に接近する正福丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、揚網作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正福丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、機関をかけてその場を離れるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく揚網を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。