(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月15日04時55分
北海道西稚内漁港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八幸洋丸 |
プレジャーボート第五匠洋丸 |
総トン数 |
4.99トン |
1.0トン |
全長 |
13.98メートル |
9.05メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
55キロワット |
69キロワット |
3 事実の経過
第三十八幸洋丸(以下「幸洋丸」という。)は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年8月一級小型船舶操縦士(5トン未満限定)免許取得)が単独で乗り組み、回航の目的で、船首0.3メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成15年6月15日04時20分北海道抜海漁港を発し、北海道稚内港に向かった。
04時29分A受審人は、西稚内港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から196.5度(真方位、以下同じ。)5.2海里の地点に達したとき、針路を000度に定めて自動操舵とし、10.0ノットの対地速力で進行した。
04時53分A受審人は、北防波堤灯台から236度1.8海里の地点に至り、正船首600メートルのところに、船首を東方に向けて漂泊し始めた第五匠洋丸(以下「匠洋丸」という。)を認めることができ、同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが、右舷後方に航過した2隻の釣り船のほか前路に危険となる他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので匠洋丸に気付かず、同船を避けることなく進行した。
こうしてA受審人は、操舵室の床に散乱していたウエスなどを片付けながら続航中、04時55分北防波堤灯台から246度1.6海里の地点において、幸洋丸は、原針路、原速力のままその船首部が匠洋丸の右舷中央部に前方から68度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、視界は良好で、日出時刻は03時44分であった。
また、匠洋丸は、船外機2機を備えたFRP製小型遊漁兼用船で、B受審人(昭和63年10月一級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み、知人1人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日04時25分北海道恵山泊漁港を発し、北海道西稚内漁港西方沖合の釣り場に向かった。
04時53分B受審人は、衝突地点の釣り場に至り、機関を中立運転として船首を112度に向け、同乗者を船尾左舷側に位置させ、自身は船首部にある操舵室後方の左舷側に位置して漂泊を開始したとき、右舷船首68度600メートルのところに幸洋丸を認めることができ、同船が自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、釣りの準備に気を取られ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、幸洋丸に気付かず、幸洋丸に対して有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近しても機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、04時55分少し前同船の機関音に気付いて振り向き、至近に迫った幸洋丸を認めて機関を前進としたが効なく、匠洋丸は、112度を向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸洋丸は、船首部外板に擦過傷を生じ、匠洋丸は、右舷中央部外板を圧壊して浸水転覆し、西稚内漁港に引き付けられたが、のち廃船となった。
(原因)
本件衝突は、北海道西稚内漁港西方沖合において、幸洋丸が、見張り不十分で、漂泊中の匠洋丸を避けなかったことによって発生したが、匠洋丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道西稚内漁港西方沖合において、稚内港に向け北上する場合、漂泊中の匠洋丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、右舷後方に航過した釣り船のほか前路に危険となる他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の匠洋丸に気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、幸洋丸の船首部外板に擦過傷を生じさせ、匠洋丸の右舷中央部外板を圧壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、北海道西稚内漁港西方沖合において、釣りのため漂泊する場合、自船に向首接近する幸洋丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、釣りの準備に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸洋丸に気付かず、同船に対して有効な音響による注意喚起信号を行うことも、更に接近しても機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。