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平成15年函審第65号
件名

貨物船輝翔丸岸壁衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年2月10日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢)

副理事官
宮川尚一

受審人
A 職名:輝翔丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
球状船首部に凹損

原因
操船不適切(強風下、着岸する際の行きあしの減殺が不十分)

裁決主文

 本件岸壁衝突は、強風下、着岸する際の行きあしの減殺が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月5日15時55分
 北海道室蘭港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船輝翔丸
総トン数 499トン
全長 74.9メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 輝翔丸は、バウスラスターを装備した船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材700トンを積載し、船首3.5メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成14年12月3日06時00分名古屋港を発し、室蘭港に向かった。
 A受審人は、航海当直を単独の4時間交代3直制とし、自らは08時から12時及び20時から00時の時間帯を担当して太平洋岸沖合を北上し、翌々5日15時ごろ室蘭港外防波堤入口の南方5海里ばかりの地点に至ったとき、入港操船のため昇橋して単独の当直に就き、同時25分同入口を通過してまもなく乗組員に入港配置を令し、予定岸壁である同港内奥の新日鐵ふ頭にある全天候型岸壁第2号(以下「2号岸壁」という。)に向け航路に沿って航行した。
 ところで、新日鐵ふ頭は、航路南東端付近から新日本製鐵株式会社室蘭製鉄所中央部に向けほぼ東北東に延びる、奥行き2,000メートル余り、幅440メートルの水路(以下「新日鐵水路」という。)周辺に構築されていた。2号岸壁は、同水路南側のふ頭に位置する2基の全天候型岸壁の1つで、荷役時における鋼材等の濡れ損を防ぐため、岸壁法線と平行に打ち込まれた数本のパイル上に壁を設けて岸壁との間に屋根を築造し、パイルと岸壁との間を荷役船が係留するバースとしていた。
 また、バース西端を壁で塞いでいるため、その東端の入口以外全て覆われた構造となっており、荷役船は、船首から同岸壁に入って出船左舷付けの状態で係留され、岸壁の全長が75.7メートル、バースの幅が14.5メートルであった。
 A受審人は、かつて2度ばかり2号岸壁に着岸したことがあり、そのときは、新日鐵水路中央をこれに沿って進み、同岸壁の沖合に達したころ右舵一杯として右転を開始し、同岸壁の東側のふ頭に接近したところで錨を使用せずに機関、舵、バウスラスター等を適宜使用して船首を2号岸壁入口に向け、その東側のふ頭にほぼ着岸した状態とし、その後、係留索を巻きながら岸壁内部に入って係留していた。
 しかしながら、A受審人は、今回、強い北西風が吹いており、船体がふ頭に向け圧流されることが予測されたことから、ふ頭に接近する際には前もって十分に速力を減殺したうえ、さらに投錨してふ頭への異常接近に備えることとし、乗組員を入港配置に就けたとき右舷錨を用意させていた。
 15時43分A受審人は、室蘭港新日本製鉄ふとう灯台(以下「ふとう灯台」という。)から300度(真方位、以下同じ。)370メートルの地点に達したとき、針路を新日鐵水路に沿う079度に定め、機関を半速力前進に減じて6.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、同水路のほぼ中央を手動操舵として進行した。
 15時52分少し過ぎA受審人は、ふとう灯台から070度1,460メートルの地点で2号岸壁西端に並んだとき、右舵一杯として右転を開始したところ、強い北西風を船尾から受ける状況となったが、このときになって同岸壁の特殊性から投錨地点をどの辺りにするか思い悩み、直ちに機関を停止するなどして行きあしを十分に減殺することなく、同時53分機関を停止したものの、その後惰力で回頭を続けた。
 15時54分A受審人は、船首がふ頭から70メートルの地点に至ったとき、ようやく右舷錨を投入するとともに機関を全速力後進にかけたが、残速力が約4ノットあったため、錨掻きも悪く、強い風圧でふ頭に向け圧流され、15時55分輝翔丸は、岸壁法線に対しほぼ直角の169度を向首したとき、約1ノットの速力でふとう灯台から078.5度1,670メートルの岸壁に衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、強風波浪注意報が発表されていた。
 衝突の結果、球状船首部に凹損を生じたが、のち、修理された。 

(原因)
 本件岸壁衝突は、北海道室蘭港において、強風下、着岸する際、行きあしの減殺が不十分で、過大な速力のまま岸壁に接近したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北海道室蘭港において、岸壁に向け強風が吹く状況下、着岸する場合、行きあしを十分に減殺すべき注意義務があった。しかるに、同人は、投錨地点をどの辺りにするか思い悩み、行きあしを十分に減殺しなかった職務上の過失により、過大な速力のまま岸壁に接近して衝突を招き、自船の球状船首部に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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