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平成15年長審第52号
件名

瀬渡船アドベンチャーエース漁船義栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月23日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(原 清澄)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:アドベンチャーエース船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ア 号・・・損傷ない
義栄丸・・・右舷側船体及びブルワーク並びに操舵室に圧損等、のち廃船

原因
ア 号・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、アドベンチャーエースが、見張り不十分で、無人となった錨泊中の義栄丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月28日12時56分
 長崎県平島南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船アドベンチャーエース 漁船義栄丸
総トン数 19トン 3.4トン
全長 19.35メートル  
登録長   10.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,345キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 アドベンチャーエース(以下「ア号」という。)は、航行区域を限定沿海区域とする、2機2軸のFRP製旅客船兼遊漁船で、一級小型船舶操縦士免許(昭和55年9月取得)を有するA受審人ほか1人が乗り組み、瀬渡しの目的で、釣り客4人を乗せ、船首0.80メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成15年4月27日00時00分佐賀県高串漁港を発し、途中、長崎県田平港に寄せ、更に釣り客3人を乗せて同県五島列島奈留島周辺の釣り場に向かった。
 ところで、A受審人は、ア号が速力を上げると船首部が浮上し、正船首方に片舷約6度の死角を生じるところから、平素、この死角を補うために意識して船首を左右に振るとか、操舵室内を左右に移動するとかして前路の見張りを行っていた。
 02時40分ころA受審人は、最初の瀬渡し地点である中通島の棹埼に着き、釣り客を瀬渡しし、その後、順次場所を変えて釣り客をそれぞれ瀬渡しし、釣りを行わせた。
 A受審人は、日没後、陸上で徹夜して釣りを行う者を除き、鵜ノ小島南方の地方(ぢかた)に寄ったところで錨泊し、船内で休息をとらせ、翌28日も瀬渡しを行って午前中だけ釣りを行わせ、11時30分釣り客全員を収容し、奈留島の黒瀬鼻沖合を発進して帰途についた。
 A受審人は、奈留瀬戸を経由して航行を続け、12時22分五島棹埼灯台から118度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点に達したとき、針路を042度に定め、機関を全速力前進にかけて24.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵により進行した。
 12時55分A受審人は、平島灯台から152度1.8海里の地点に達したとき、死角となった正船首方740メートルのところに、錨泊中の義栄丸を視認することができたが、前路に他船はいないものと思い、釣り客と会話していて前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなどして同船を避けることなく続航した。
 ア号は、A受審人が義栄丸に気付かないまま進行中、12時56分平島灯台から140度1.6海里の地点において、その右舷船首部が義栄丸の右舷船首部に前方から22度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、義栄丸は、夜間に一本釣り漁を行うFRP製漁船で、一級小型船舶操縦士免許(昭和49年10月取得)を有するB船長ほか1人が乗り組み、イサキを釣る目的で、船首0.50メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、同月27日17時30分長崎県平島漁港を発し、同時40分前示衝突地点に至り、船首を244度に向首させ、右舷船尾から重量40キログラムの錨を、右舷船首及び左舷船首尾からそれぞれ重量約45キログラムの砂袋を投入し、直径19ミリメートルのポリエステル製錨索を約50メートル繰り出し、4点係留として操業を始めた。
 翌28日B船長は、日出となったので、操業を止め、同僚の送迎船によって帰途につき、06時00分平島漁港に戻った。
 12時55分義栄丸は、左舷船首方740メートルのところに、自船に向首接近するア号が存在したが、無人となっていたので、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ア号は、損傷がなかったが、義栄丸は、右舷側船体及びブルワーク並びに操舵室に圧損等を生じ、廃船とされた。 

(原因)
 本件衝突は、長崎県平島南方沖合において、アドベンチャーエースが、見張り不十分で、無人となった錨泊中の義栄丸に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県平島南方沖合において、機関を全速力前進にかけて帰港する場合、速力を上げると船首部が浮上して前路に死角を生じる船であったから、前路の義栄丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、釣り客との会話に気をとられていて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、無人となった錨泊中の義栄丸に向首進行して同船との衝突を招き、義栄丸の右舷船体及びブルワーク並びに操舵室に圧損等を生じさせ、廃船とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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