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平成15年長審第48号
件名

漁船長栄丸プレジャーボート海恵丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月16日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(清重隆彦、原 清澄、寺戸和夫)

理事官
向山裕則

受審人
A 職名:長栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:海恵丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
C 職名:海恵丸同乗者 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
長栄丸・・・船首船底に破口及び擦過傷
海恵丸・・・船尾部破損等、同乗者が右頬骨骨折等の負傷

原因
長栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
海恵丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、長栄丸が、見張り不十分で、停留中の海恵丸を避けなかったことによって発生したが、海恵丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月12日12時20分
 長崎県福江市久賀島南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船長栄丸 プレジャーボート海恵丸
総トン数 4.0トン 0.5トン
登録長 10.51メートル 5.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 139キロワット  
漁船法馬力数   19

3 事実の経過
 長栄丸は、刺し網漁等に従事するFRP製漁船で、一級小型船舶操縦士免許(昭和57年12月取得)を有するA受審人が1人で乗り組み、小学生の息子1人を乗せ、漁獲物運搬の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成15年4月12日11時30分長崎県野園漁港を発し、同県奈留島港に向かい、水揚げをしたのち、12時05分同港を出港して帰途についた。
 A受審人は、12時12分掛リ先鼻灯台から188度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点で、針路を215度に定め、機関をほぼ全速力前進に掛け、18.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 ところで、A受審人は、舵輪後方の船横方向に渡した板に座って操縦すると、正船首方の左右各舷約5度の範囲に船首浮上による死角が生じるので、その板の上に立ち、天窓から顔を出して死角を補う見張りを行い、高さ約8メートルの通瀬を操舵目標にして南下した。
 12時18分A受審人は、赤ハエ鼻灯台から020度1.35海里の地点に達したとき、右舷船首5度1,100メートルのところに、久賀島と通瀬との間隙から、海恵丸を視認することができ、同船が停留しているのを認め得る状況であったが、折から低潮時で険礁岩などが露出していることもあってか、同船を認めず、少し疲れを感じたので、前示渡し板に腰を掛けて手動操舵で続航した。
 A受審人は、12時19分半少し前赤ハエ鼻灯台から013度1,750メートルの地点で、通瀬を右に見て右転し、針路を231度に転じたとき、正船首350メートルのところに海恵丸が存在し、その後、同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、前方に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを行わなかったのでそのことに気付かなかった。
 長栄丸は、海恵丸を避けないまま、同じ針路及び速力で進行中、12時20分赤ハエ鼻灯台から004度1,500メートルの地点において、その右舷船首が海恵丸の左舷船尾に後方から11度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西南西の風が吹き、潮候は低潮時であった。
 また、海恵丸は、漁船登録されたFRP製プレジャーボートで、四級小型船舶操縦士免許(昭和60年2月取得)を有するB受審人が1人で乗り組み、四級小型船舶操縦士免許(昭和51年4月取得)を有するC受審人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日11時25分長崎県福江港を発し、久賀島南方の海域に向かった。
 ところで、B受審人とC受審人とは、長年親しく交際をし、ときどき2人で遊漁に出かけることがあり、B受審人は、C受審人が小型船舶操縦士の免許を取得していることも知っていた。
 B受審人は、久賀島の丸山鼻沖合で遊漁を行ったのち、東方に移動し、12時15分前示衝突地点付近に至り、機関を停止回転として停留し、素潜り漁を行うこととして自船から離れたが、その際、船に残ったC受審人に対し、言うまでもないことと思い、同受審人に周囲の見張りを十分に行い、適切な操船を行うよう指示しなかった。
 C受審人は、B受審人が自船から離れたのち、船体中央やや後方にある機関室囲壁の後に立ち、右舷前方15メートルばかりのところで素潜り漁を行っているB受審人の監視を始め、12時19分半少し前赤ハエ鼻灯台から004度1,500メートルの地点で、船首を220度に向け、引き続きB受審人を監視していたとき、左舷船尾11度350メートルのところに長栄丸が存在し、その後、自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近していたが、海岸近くを航行する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、速やかにクラッチを前進に入れて移動するなどして、衝突を避けるための措置をとらなかった。
 海恵丸は、220度に向首して停留中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、長栄丸は船首船底に破口及び擦過傷を、海恵丸は船尾部破損等をそれぞれ生じたが、のち、いずれも修理された。また、C受審人が右頬骨骨折等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、長崎県福江市久賀島南東方沖合において、野園漁港に向け帰港中の長栄丸が、見張り不十分で、前路で停留中の海恵丸を避けなかったことによって発生したが、海恵丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 海恵丸の運航が適切でなかったのは、船長が素潜り漁のため自船を離れる際、船に残った同乗者に対し、周囲の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、同同乗者が周囲の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県福江市久賀島南東方沖合において、野園漁港に向け帰港する場合、船首浮上による死角が生じることを知っていたのであるから、前路で停留中の海恵丸を見落とすことのないよう、舵輪後方の船横方向に渡した板の上に立ち、天窓から顔を出すなどして、死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、前方に他船はいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で停留中の海恵丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、長栄丸の船首船底に破口及び擦過傷を、海恵丸の船尾部に破損等をそれぞれ生じさせ、C受審人に右頬骨骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、長崎県福江市久賀島南東方沖合において、機関を停止回転として停留し、素潜り漁を行うため自船を離れる場合、船に残ったC受審人に対し、周囲の見張りを十分に行い、適切な操船を行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、B受審人は、C受審人が小型船舶操縦士の免許を取得していることを知っていたので、言うまでもないことと思い、指示をしなかった職務上の過失により、前示の衝突を招き、損傷を生じさせ、負傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、長崎県福江市久賀島南東方沖合において、B受審人が素潜り漁を行うため船から離れ、単独で停止回転で停留中の船に残る場合、衝突のおそれがある態勢で接近する長栄丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、C受審人は、海岸近くを航行する船舶はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から衝突のおそれがある態勢で接近する同船に気付かず、クラッチを前進に入れるなどして、衝突を避けるための措置をとることなく停留を続けて前示の衝突を招き、損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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