(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年2月28日00時40分
鹿児島県沖永良部島東方海上
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船もえ丸 |
油送船アイリス ガス |
総トン数 |
9.67トン |
48,330.00トン |
全長 |
14.37メートル |
221.5メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
|
11,723キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
|
3 事実の経過
もえ丸は、一本釣り漁業などに従事する船体中央部付近に操舵室を設けたFRP製漁船で、昭和53年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、そでいか旗流し漁の目的で、船首0.60メートル船尾1.09メートルの喫水をもって、平成14年2月25日12時00分沖縄県糸満漁港を僚船1隻とともに発し、翌26日早朝同県沖縄島辺戸岬の東方約70海里の漁場に至って操業を開始した。
A受審人は、その後漁場を移動しながら操業を繰り返したものの、芳しい漁獲を得ることができなかったため、翌々27日20時50分鹿児島県徳之島喜念埼の南東方約45海里の地点を発進し、同県沖永良部島西方の漁場に移動することとしたが、25日夜半に約1時間及び27日早朝に約2時間半の休息時間をそれぞれ取っただけであったことから、睡眠不足の状態となっていた。
ところで、もえ丸は、平成8年9月に船名を第一萌丸として小型船舶検査機構が行う定期検査に合格し、船舶検査証書を交付されたものの、その後中間検査を受けることなく航行の用に供され、同12年7月に船名をもえ丸に変更して漁船登録されたが、同証書の書換え手続きは行われていなかった。
A受審人は、前示地点を発進するとき、マスト灯及び船尾灯が断線などのために点灯できないことを知り、両灯の代わりにマスト灯上方に備えていた白色全周灯を点灯し、両舷灯及び黄色回転灯を表示して発進したのち、23時45分喜念埼灯台から148.5度(真方位、以下同じ。)22.0海里の地点で、針路を前示漁場に向かう300度に定め、その到着予定時刻などを調整するために機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
A受審人は、その後操舵室内右舷側に備えていた背もたれ付きのいすに腰をかけ、時折レーダー画面に目を向けるなどしながら見張りに当たるうち、睡眠不足から眠気を覚えるようになったが、何とか我慢できるものと思い、一時漂泊して仮眠をとるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航中、6マイルレンジとしたレーダー画面上に他船の映像を認めない状況がしばらく続いた折りに、居眠りに陥った。
こうして、A受審人は、翌28日00時32分わずか前喜念埼灯台から153度19.3海里の地点に達したとき、右舷正横後7度2.0海里のところに、アイリス
ガス(以下「ア号」という。)の白、白、紅3灯などを視認することができ、その後同船が前路を左方に横切り、衝突するおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、このことに気付かなかった。
A受審人は、00時38分ア号と0.5海里に接近したものの、依然として居眠りをしていたため、同船の進路を避けることなく進行し、もえ丸は、00時40分喜念埼灯台から154度18.9海里の地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首がア号の左舷前部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目覚め、僚船に関係機関への通報を依頼するなど、事後の措置に当たった。
また、ア号は、専ら液化石油ガスを輸送する船尾船橋型油送船で、韓国人船長B及び同二等航海士Cほか19人(韓国人7人、フィリピン人12人)が乗り組み、空倉のまま、船首6.5メートル船尾9.1メートルの喫水をもって、平成14年2月26日09時30分神戸港を発し、シンガポール港に向かった。
C二等航海士は、翌々28日00時00分喜念埼灯台から123度19.6海里の地点で、法定灯火のほかに、巨大船及び危険物積載船であることを示すつもりのせん光を発する緑色及び紅色の全周灯がそれぞれ点灯していることを確認したのち、前直の三等航海士から引き継いで操舵手とともに船橋当直に就き、引き続き針路を232度に定め、機関を全速力前進にかけて15.6ノットの速力で自動操舵により進行した。
C二等航海士は、00時32分わずか前喜念埼灯台から147.5度18.6海里の地点に至ったとき、左舷船首15度2.0海里のところにもえ丸の白、緑2灯などを視認し、その後その動静監視を行っていたところ、もえ丸の方位に明らかな変化が認められないまま互いに接近することから、同船が前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢であることを知ったが、いずれもえ丸が自船の進路を避けるものと思い、針路及び速力を保ったものの、警告信号を行うことなく続航した。
C二等航海士は、00時38分喜念埼灯台から152度18.8海里の地点に達したとき、もえ丸と衝突のおそれがある態勢のまま0.5海里に接近したことを知り、同船が適切な避航動作をとっていないことが明らかになったものの、依然としてもえ丸が避航するものと思い、直ちに衝突を避けるための動作をとることなく進行し、同時40分少し前至近距離に迫った同船を認め、あわてて右舵一杯を令したが、時既に遅く、ア号は、00時40分その船首が240度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ア号は、損傷なく、もえ丸は、右舷外板などに擦過傷及び亀裂などを生じたが、のち修理された。
C二等航海士は、その後左舷船尾方に漂うもえ丸を視認したものの、同船に損傷などが生じていないように見えたため、無難に替わすことができたものと判断し、このことを船長に報告することなく、原針路に戻して続航した。
B船長は、海上保安庁から船体調査のため停船するよう要請され、02時15分沖永良部島南東方約17海里の地点で停船し、海上保安官による事情聴取及び外板塗膜片採取などを受けたのち、目的地に向かった。
(航法の適用)
本件は、公海上において、夜間、2隻の動力船が互いに進路を横切る態勢で衝突したものであるが、適用される航法について検討する。
1 海上衝突予防法第15条(横切り船)の適用について
もえ丸は、漁場を発進する際に、断線などによりマスト灯及び船尾灯を表示することができないことを知り、両灯の代わりにマスト灯上方に備えていた白色全周灯を点灯していたことから、法定灯火の不表示であり、船員の常務で律すべきとの考えもある。しかしながら、韓国駐在員作成の調査報告書中、C二等航海士は、「左舷船首方約6海里のところに接近する漁船を初認した。同船は、舷灯及びマストに白灯を点灯していた。避航船の立場にある同船に明らかな避航動作が見られなかった。」旨の記載により、同航海士が十分な時間的、距離的余裕のある時機に、横切り関係にあるとの認識をもっていたと認められることから、もえ丸がマスト灯の代わりに白色全周灯を表示していたことをもって海上衝突予防法第15条(横切り船)の適用を排斥する理由にはならない。