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平成15年門審第108号
件名

漁船栄久丸プレジャーボート海雄衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、長谷川峯清、千葉 廣)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:栄久丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:海雄船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
栄久丸・・・右舷船首に破口
海 雄・・・右舷側中央部外板に破口及び機関に濡れ損、船長及び同乗者2人が腰部等打撲傷の負傷

原因
栄久丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
海 雄・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、栄久丸が、見張り不十分で、漂泊中の海雄を避けなかったことによって発生したが、海雄が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月27日07時30分
 福岡県玄界灘
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船栄久丸 プレジャーボート海雄
総トン数 7.9トン  
全長 16.63メートル 10.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   102キロワット
漁船法馬力数 90  

3 事実の経過
 栄久丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成12年3月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、船首0.45メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同15年4月27日06時40分福岡県相島漁港を発し、同県小呂島西方の漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、機関回転数毎分1,700にかけて約13ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で航行すると船首が浮上し、操舵室右舷側の操縦席に座った状態で正船首から左舷側約10度右舷側約8度の間に死角が生じることを知っていて、また前後部両マスト及びそれらの間に張った集魚灯の電線の影響でレーダーの船首方の映りが良くなかったことから、平素操舵室天井に設けられた天窓から顔を出すなり、船首を時々左右に振るなりして、船首浮上による死角を補う見張りを行っていた。
 こうしてA受審人は、07時09分栗ノ上礁灯標から121度(真方位、以下同じ。)4.6海里の地点で、針路を290度に定め、機関を回転数毎分1,700にかけ、13.0ノットの速力とし、操舵室右舷側のいすに座って遠隔操舵装置で手動操舵にあたりながら進行した。
 07時27分A受審人は、栗ノ上礁灯標から165度1.1海里の地点に達したとき、正船首1,200メートルのところに海雄を視認することができ、その後、行きあしがないことから漂泊中とわかる同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、それまで他船をほとんど見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、0.75海里レンジで作動中のレーダーを時々見たものの、操舵室天井の天窓から顔を出すなり、船首を時々左右に振るなりして、船首浮上による死角を補う見張りを十分に行わなかったので、海雄に気付かなかった。
 A受審人は、その後も見張り不十分で、前路で漂泊中の海雄を避けないまま続航中、07時30分栗ノ上礁灯標から200度1,700メートルの地点において、栄久丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、海雄の右舷側中央部に、直角に衝突した。
 当時、天候は晴で、風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、海雄は、汽笛を備えたFRP製プレジャーボートで、平成11年11月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が1人で乗り組み、友人2人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同15年4月27日06時10分福岡県名柄川河口の船溜まりを発し、栗ノ上礁周辺の海域に向かった。
 07時05分B受審人は、前示衝突地点付近に至り、主機が燃料油系統にエアを吸引したかして停止したので、漂流して修理業者に電話で相談したのち、後部甲板上の機関室囲壁を持ち上げて同甲板下の機関室に入り、燃料油系統のエア抜き作業を行った。
 07時25分B受審人は、作業を終えて後部甲板上に上がり、主機を始動して中立回転としたまま、主機の運転状況を確認するために漂泊を開始した。
 07時27分B受審人は、船首が020度を向いたとき、右舷正横1,200メートルのところに、栄久丸を視認することができ、その後、自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、後部甲板に膝を付いて機関室を覗き込み、主機の運転状況を確認することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、栄久丸に気付かなかった。
 B受審人は、その後も見張り不十分で、自船に向首接近する栄久丸に対して警告信号を行うことも、更に接近して、中立運転中の主機を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続け、海雄は、船首が020度に向いたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、栄久丸は右舷船首に破口を生じ、海雄は右舷側中央部外板に破口及び機関に濡れ損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、B受審人及び海雄の同乗者2人が腰部等打撲傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、玄界灘において、漁場に向け西行する栄久丸が、見張り不十分で、漂泊中の海雄を避けなかったことによって発生したが、海雄が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、玄界灘において、漁場に向け西行する場合、船首浮上により船首方に死角が生じることを知っていたのであるから、同死角に隠れた漂泊中の他船を見落とすことのないよう、操舵室の天窓から顔を出すなどして同死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまでほとんど他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、同死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の海雄に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、栄久丸の右舷船首に破口を、海雄の右舷側中央部外板に破口及び機関に濡れ損をそれぞれ生じさせ、B受審人及び海雄の同乗者2人に腰部等打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、玄界灘において、燃料油系統のエア抜きを終えた主機の運転状況を確認するために漂泊する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機の運転状況を確認することに気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する栄久丸に気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、中立運転中の機関を使用して移動するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:36KB)





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