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平成15年門審第112号
件名

漁船第八正栄丸漁船第3天祐丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、安藤周二、千葉 廣)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第八正栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第3天祐丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八正栄丸・・・左舷船首部に擦過傷
第3天祐丸・・・右舷船首部に破口を生じて転覆、のち廃船処分

原因
第八正栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな衝突のおそれを生じさせた)不遵守(主因)
第3天祐丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八正栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の第3天祐丸に対し、回頭発進して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、第3天祐丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月16日15時17分
 山口県特牛港西南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八正栄丸 漁船第3天祐丸
総トン数 12.00トン 3.32トン
全長 19.30メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 382キロワット 14キロワット

3 事実の経過
 第八正栄丸(以下「正栄丸」という。)は、周年にわたっていか釣り漁業に従事するFRP製漁船で、昭和50年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、主機によって駆動される集魚灯用発電機(以下「発電機」という。)の作動点検の目的で、空倉のまま、船首0.4メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成15年6月16日14時00分基地とする山口県特牛港を発し、同港西方沖合に向かった。
 ところで、A受審人は、船首甲板下に配置された魚倉に約2トンの砕氷を積み込んで出漁するときに機関を全速力前進にかけると、また、砕氷を積まずに空倉のまま航行するときに半速力前進にかけるとそれぞれ船首が浮上して死角が生じることを知っていたことから、平素、航行時には、船体中央部に配置された操舵室の右舷船首側に設けられた主機遠隔操縦ハンドルを操作したのち、操舵を舵輪からダイヤル式遠隔操舵器(以下「遠隔操舵器」という。)に切り換え、同操舵器を手に持って同室内の後部に固定した高さ約60センチメートル(以下「センチ」という。)の見張り台の上に立ち、同室天井の長さ70センチ幅60センチの開口部(以下「天窓」という。)から頭部を出して周囲の見張りを行いながら、操船に当たっていた。また、特牛港に入港するときには、同港入口南岸の山上にある白色建物を針路目標としていた。
 14時15分A受審人は、特牛灯台から256度(真方位、以下同じ。)2.70海里の地点で、船首を南東方に向けて漂泊し、機関室に入って発電機の作動点検を行っているうちに眠気を催したことから、機関を停止して操舵室に戻り、GPSプロッタによって船位が変わっていないことを確かめたのち、前示見張り台の上に横になって仮眠を始め、15時15分に特牛港内の僚船からの携帯電話の呼出音で目を覚まし、約20分後に帰港する旨の連絡をして機関を始動し、発進準備に取りかかった。
 15時16分半少し過ぎA受審人は、前示漂泊地点で、船首が125度に向いて漂泊しているとき、左舷船首37度80メートルのところに、船首を南西方に向けて漂泊中の第3天祐丸(以下「天祐丸」という。)がおり、左舷方を見れば容易に同船を認めることができる状況であったが、1海里レンジとしてスタンバイ状態にしていたレーダーを作動させ、一瞥しただけで他船はいないものと思い、天窓から頭部を出すなどして周囲の見張りを十分に行うことなく、天祐丸に気付かないまま、操舵室中央の舵輪を左舵一杯としたのち右舷側に移動し、同室右舷側の窓から右舷方を見ながら、主機クラッチを入れ、機関を半速力前進にかけて回頭発進した。
 15時17分少し前A受審人は、特牛灯台から256度2.67海里の地点に達し、増速に伴って浮上した船首上方に前示白色建物及び右舷前方に山口県鼠島をそれぞれ認めたとき、とりあえず舵を中央に戻して船首を同建物に向けておき、細かい針路修正を天窓から頭部を出して行うこととし、舵を中央に戻して針路を080度に定め、操舵を舵輪から遠隔操舵器に切り換え、同操舵器を持って天窓の下に移動しながら、10.0ノットの速力で続航した。
 定針時にA受審人は、正船首55メートルのところに、船首の浮上によって生じた死角内に漂泊している天祐丸がおり、同船に対して新たな衝突のおそれがある態勢で向首接近する状況となったが、依然、周囲の見張り不十分で、このことに気付かず、左転を続けるなり、行きあしを止めるなりして天祐丸を避けずに進行中、15時17分特牛灯台から256度2.65海里の地点において、正栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、天祐丸の右舷船首部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期に当たり、視界は良好であった。
 また、天祐丸は、一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、昭和50年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、いか漁の目的で、船首0.35メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成15年6月16日08時00分山口県肥中漁港を発し、同県角島西方沖合約1海里の漁場に向かった。
 ところで、天祐丸は、船体後部にある操舵室の右舷後部外側に舵輪が、同室床下に畳1畳分ほどの船員室が、その下部に軸室がそれぞれ配置されていた。また、操舵室には、電気ホーンが装備されていたほか、同室前面窓の左舷側下部に設けられた棚板上に、魚群探知機とGPSプロッタとが左右に並べて設置されていた。
 08時40分B受審人は、前示漁場に到着して操業を始め、11時40分スルメイカ8尾を漁獲していか漁を終えたのち、同島南西方沖合約1海里の瀬付き魚の漁場に向けて魚群探知機で探索しながら移動し、12時00分同漁場に到着して一本つり漁を始め、14時30分アジ及びイサキをそれぞれ約30尾漁獲したものの、魚体が小振りであったため、もう少し大きな魚体を漁獲するつもりで、GPSプロッタに記憶させた前示衝突地点の水深約60メートル直径約10メートルのあわのはずれと称する瀬に向けて移動を始めた。
 15時14分B受審人は、あわのはずれ瀬の上に到着し、船首を215度に向けて機関を中立運転としたとき、右舷船首53度80メートルのところに、船首を南東方に向けて漂泊中の正栄丸がおり、右舷方を見れば容易に同船を認めることができる状況であったが、特牛港に出入港する船舶は朝晩に多く、この時間帯に同瀬付近を通航する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、正栄丸に気付かないまま漂泊し、操舵室内に入って床に座り込み、GPSプロッタの画面に表示される自船位置と同瀬の両マーク及び魚群探知機に表示される魚群反応の監視を始めた。
 15時17分少し前B受審人は、前示衝突地点で、同じ船首方位のまま漂泊しているとき、右舷船首45度55メートルのところに、左回頭しながら発進した正栄丸が、自船に対して新たな衝突のおそれがある態勢で向首接近する状況となったが、操舵室床に座り込んでいたことから、依然、周囲の見張り不十分で、このことに気付かず、警告信号を行うことも、機関を使用して移動するなど、同船との衝突を避けるための措置をとることもせずに漂泊中、天祐丸は、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、正栄丸は左舷船首部に擦過傷を生じただけであったが、天祐丸は右舷船首部に破口を生じると同時に左舷側に転覆し、僚船によって特牛港に引き付けられたものの、のち修理費用の都合で廃船処分された。
 なお、転覆した天祐丸船内に取り残されたB受審人は、船員室下部軸室に残った空気で呼吸を続けているうち、A受審人がサンダーで船底を60センチ四方切り取り、無事救助された。 

(原因)
 本件衝突は、特牛港西南西方沖合において、正栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の天祐丸に対し、回頭発進して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、天祐丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、特牛港西南西方沖合において、漂泊して発電機の作動点検を行ったのち、基地とする同港に向けて発進する場合、付近で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、天窓から頭部を出すなどして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、レーダーを一瞥しただけで他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷船首間近で漂泊中の天祐丸に気付かずに回頭発進し、同船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことにも気付かないまま進行して衝突を招き、正栄丸の左舷船首部に擦過傷を、天祐丸の右舷船首部に破口をそれぞれ生じさせると同時に、天祐丸を左舷側に転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、特牛港西南西方沖合において、漂泊して一本つりを行う場合、付近で漂泊中の他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、特牛港に出入港する船舶は朝晩に多く、この時間帯に通航する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首を南東方に向けて漂泊中の正栄丸にも、同船が回頭発進して自船に対して新たな衝突のおそれを生じさせたことにも気付かず、警告信号を行わず、機関を使用して移動するなど、正栄丸との衝突を避けるための措置もとらずに漂泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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