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平成15年門審第106号
件名

貨物船五和丸貨物船クリスチャン オルデンドルフ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、安藤周二、長浜義昭)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:五和丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:五和丸甲板員

損害
五和丸・・・船首部を圧壊
ク 号・・・左舷船尾部外板に破口を伴う凹損

原因
五和丸・・・居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件衝突は、五和丸が、居眠り運航を防止する措置が不十分で、錨泊中のクリスチャン オルデンドルフを避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月17日03時48分
 広島県福山港港外
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船五和丸 貨物船クリスチャンオルデンドルフ
総トン数 197トン 19,354トン
全長 45.910メートル 181メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット 6,400キロワット

3 事実の経過
 五和丸は、主に液体化学薬品の輸送に従事する鋼製貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成13年1月17日01時20分愛媛県三島川之江港を発し、広島県福山港へ向かった。
 ところで、当時、A受審人及びB指定海難関係人は、福山港で液体炭酸カルシュウムを積んで三島川之江港で揚げる連続輸送に従事していたのであるが、次航の積荷開始時刻まで半日以上の沖待ちが見込まれたことから、同日早朝、福山港に到着したのち、港外で錨泊する予定であった。
 また、A受審人及びB指定海難関係人は、前日16日01時30分三島川之江港での揚荷を終え、02時00分同港を出港したのち、05時00分福山港に入港して一旦港外で錨泊を行い、06時40分抜錨、07時30分着桟、同時50分積荷開始、12時45分積荷終了、13時00分同港出港、16時35分三島川之江港に入港して直ちに着桟、17時00分揚荷開始、翌17日01時00分揚荷終了、同時20分同港を出港するという過密な運航状況の下で船務に服していたうえ、前々日15日06時00分福山港での積荷を開始して以来、同様の航海が二昼夜近くに渡って連続していたので、両人は、航海中に互いに2時間ばかりの睡眠を取ることができたものの、荷主側から荷役作業の安全に万全を期すように要請されていたことなどから、入港中は全く休息することができず、睡眠が不足して疲労が蓄積した状態であった。
 A受審人は、三島川之江港を出港後、自らは福山港から三島川之江港までの船橋当直及び出入港操船、B指定海難関係人は三島川之江港から福山港までの船橋当直、出入港準備及び荷役手仕舞作業を行うと定めていたことから、出港操船に引き続き、同指定海難関係人が揚荷した空タンク洗浄などの手仕舞作業を終えて昇橋するまで船橋当直に当たった。
 17日02時05分A受審人は、愛媛県伊吹島西方約1海里の地点に達したとき、手仕舞作業を終えて昇橋したB指定海難関係人に当直を引き継いだが、その際、前示したように、互いに睡眠が不足して疲労が蓄積した状態であることを認知していたのであるから、居眠り運航とならないよう、眠気を催したときや予定錨地まで約3海里の地点(以下「船長コール地点」という。)に至ったときは、躊躇なく報告するよう明確に指示する責務があったが、同指定海難関係人が、航海当直部員の認定を受けていたうえ、これまでも無難に船橋当直を遂行していたので、特に指示しなくても大丈夫と思い、その旨の明確な指示を行わなかった。
 B指定海難関係人は、A受審人から船橋当直を引き継いだのち、燧灘(ヒウチナダ)及び備後灘(ビンゴナダ)を北上して、百間礁(ヒャッケンゾワイ)灯標から209度(真方位、以下同じ。)2.3海里付近の船長コール地点に達したものの、同受審人が疲れていることを慮り、次航の積荷開始まで半日以上沖待ちする予定であり、投錨後に十分な睡眠を取ることができる状況であったので、なるべく船長の負担を軽減しようと思い、自らも睡眠が不足して疲労が蓄積した状態であり、そのまま1人で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが、予定通り船長コール地点で同受審人を起こすなどの居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかった。
 そして、03時39分半B指定海難関係人は、百間礁灯標から224度1.9海里の地点に至ったとき、福山港の予定錨地へ向けて針路を339度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分360にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵スタンド左舷側に置かれた背もたれと肘掛けが付いたいすに腰を掛けた姿勢で見張りを行い、法定灯火を表示して進行した。
 定針したとき、B指定海難関係人は、正船首方1.4海里のところに、法定灯火を表示したクリスチャン オルデンドルフ(以下「ク号」という。)が、甲板上に複数の照明灯を点灯して錨泊していたが、未だ距離が遠かったことや、約1,000メートルのところまで接近すれば容易にその存在に気付く状況であったものの、背景となる福山港の陸上光が明るかったことなどから、それらの明るい光に紛れた同船の灯火を見落としたまま続航したところ、船長コール地点で船長を起こすなどの居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったので、いつの間にか、いすに腰を掛けた姿勢のまま居眠りに陥った。
 こうして、03時47分B指定海難関係人は、正船首方で錨泊中のク号から約300メートルの地点まで接近して、衝突のおそれがある状況となったが、既に居眠りに陥っていたので、このことに気付かず、同船を避けることなく進行中、03時48分百間礁灯標から268度1.8海里の地点において、五和丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、ク号の左舷船尾部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で、風力3の西風が吹き、視界は良好であった。
 また、ク号は、外国航路に就航する大型貨物船で、ドイツ連邦共和国の国籍を有するC船長ほかアジア及びヨーロッパ人20人が乗り組み、鋼材7,551.356トンを積載し、船首6.74メートル船尾7.38メートルの喫水をもって、千葉港から福山港に至り、同月16日19時08分前示衝突地点において、法定灯火を表示したうえ、甲板上に複数の照明灯を点灯して錨泊を開始した。
 翌17日03時47分C船長は、航海士及び甲板部員による2人当直態勢での守錨直を命じて自室で就寝中、左舷正横約300メートルのところに、五和丸が、自船に向首して接近する状況となったが、どうすることもできず、ク号は、その船首が249度を向いていたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、五和丸は船首部を圧壊、ク号は左舷船尾部外板に破口を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、福山港港外において、五和丸が、居眠り運航を防止する措置が不十分で、船橋当直者が居眠りに陥り、法定灯火を表示して錨泊中のク号を避けなかったことによって発生したものである。
 五和丸の運航が適切でなかったのは、船長が、甲板員に船橋当直を引き継ぐ際、眠気を催したときや船長コール地点に達したときは、躊躇なく報告するよう明確に指示しなかったことと、甲板員が、船長を起こすなどの居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、福山港へ向けて航行中、B指定海難関係人に船橋当直を引き継ぐ際、同指定海難関係人が、睡眠が不足して疲労が蓄積した状態であることを認知していたのであるから、居眠り運航とならないよう、眠気を催したときや船長コール地点に達したときは、躊躇なく報告するよう明確に指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同指定海難関係人が航海当直部員の認定を受けていたうえ、これまでも無難に船橋当直を遂行していたので、特に指示しなくても大丈夫と思い、その旨の明確な指示を行わなかった職務上の過失により、同指定海難関係人が居眠りに陥り、錨泊中のク号を避けることなく進行して衝突を招き、自船の船首部に圧壊を、ク号の左舷船尾部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、船長コール地点で船長を起こすなどの居眠り運航を防止する措置を十分にとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、十分に反省していることに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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