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平成15年門審第102号
件名

貨物船チュン ナ貨物船アレックス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(橋本 學、西村敏和、小寺俊秋)

理事官
上中拓治

指定海難関係人
A 職名:チュンナ船長
B 職名:アレックス船長
C 職名:アレックス一等航海士

損害
チュ号・・・左舷船尾部外板に擦過傷
ア 号・・・右舷側船尾ボートデッキを損壊

原因
ア 号・・・動静監視不十分、港則法の航法不遵守(主因)
チュ号・・・警告信号不履行、港則法の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、航路から航路外へ出ようとするアレックスが、動静監視不十分で、航路を航行するチュン ナの進路を避けなかったことによって発生したが、チュン ナが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月22日04時30分
 関門海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船チュン ナ 貨物船アレックス
国際総トン数 2,305トン 1,912トン
全長 91.10メートル 77.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット 1,618キロワット

3 事実の経過
 チュン ナ(以下「チュ号」という。)は、専ら日本及び大韓民国(以下「韓国」という。)両国間の貨物輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、韓国籍を有する指定海難関係人A船長ほか同国人6人、ミャンマー連邦人5人及び中華人民共和国人1人が乗り組み、鋼材104トンを積載し、船首1.50メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成15年6月21日18時45分(日本標準時、以下同じ。)韓国釜山港を発し、神戸港へ向かった。
 翌22日04時00分A指定海難関係人は、六連島北方で昇橋し、一等航海士を船長補佐に、甲板手を手動操舵にそれぞれ配して関門海峡通峡の指揮を執り、同時15分ごろ関門海峡西口から関門航路に入航したのち、同航路に沿って航行した。
 ところで、関門海峡は、日本海側の玄界灘と瀬戸内海側の周防灘を結ぶ海峡であるが、そのほとんどが関門港内に位置していることから、通峡する船舶は、同港内に定められた関門航路及び関門第2航路に沿って航行するのが常であった。
 04時22分A指定海難関係人は、六連島灯台から133度(真方位、以下同じ。)1,200メートルの地点に達したとき、若松洞海湾口防波堤灯台を船首目標とする217度の針路に定め、機関を回転数毎分220の港内全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、法定灯火を表示して、手動操舵によって進行した。
 04時24分半A指定海難関係人は、台場鼻灯台から354度1,700メートルの地点で、左舷船首34度2,450メートルのところに、竹ノ子島の陰から現れたアレックス(以下「ア号」という。)の白、白、緑の3灯を視認したが、折しも、関門海峡海上交通センター(以下「関門マーチス」という。)が、ア号に自船の存在を報せているVHF交信を傍受したことや、ア号が関門航路に沿って航行しているのをレーダーで確認したことなどから、互いに左舷対左舷で航過するつもりで続航した。
 そして、04時27分半A指定海難関係人は、台場鼻灯台から318度1,180メートルの地点に至ったとき、ア号が、ほぼ同じ方位のまま、1,050メートルのところまで接近して衝突のおそれがある状況となったが、依然として、互いに左舷対左舷で航過するつもりであったので、同船に向けて短5回の発光信号を行ったものの、汽笛での警告信号を行わなかったばかりか、機関を後進にかけて行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 こうして、04時29分A指定海難関係人は、ア号の方位が明確に変わらないまま、同船から約350メートルのところまで接近したとき、衝突の危険を感じ、汽笛で短1声を吹鳴して右転信号を行うとともに、右舵20度を取り、更に間近に接近したとき、右舵一杯としたが、及ばず、04時30分台場鼻灯台から283度1,400メートルの地点において、チュ号は、船首が320度を向いたとき、原速力のまま、その左舷船尾部とア号の右舷船尾部が、互いの船首が10度開いた角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風力3の南東風が吹き、視界は約1.5海里であった。
 また、ア号は、チュ号と同じく、日本及び韓国両国間の貨物輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、韓国籍を有する指定海難関係人B船長及び同C一等航海士ほか同国人5人及びミャンマー連邦人3人が乗り組み、コンテナ貨物など1,259トンを積載し、船首3.90メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、同月21日22時30分山口県徳山下松港を発し、韓国広陽港へ向かった。
 翌22日02時50分B指定海難関係人は、関門海峡東口まで約5海里の周防灘航路第3号灯浮標付近で昇橋して、同海峡通峡の指揮を執り、03時30分関門港太刀浦ふ頭沖合に達したとき、C指定海難関係人を船長補佐に、甲板手を手動操舵にそれぞれ配して関門航路に沿って西行した。
 04時13分ごろB指定海難関係人は、早鞆瀬戸及び大瀬戸を航過して兜山岬沖に至ったとき、前方及び後方に航行の支障となるような他船を見受けなかったことから、船長として通峡を終えるまで自ら操船の指揮を執る責務があったにも拘わらず、自室のテレビで天気予報を見るため、一旦、C指定海難関係人に操船を委ねて降橋した。
 C指定海難関係人は、船長から操船を引き継ぎ、04時15分台場鼻灯台から154度1.7海里の地点に達したとき、針路を320度に定め、機関を回転数毎分280の港内全速力前進にかけ、9.0ノットの速力で、法定灯火を表示して、引き続き甲板手による手動操舵によって進行した。
 04時24分半C指定海難関係人は、台場鼻灯台から202度850メートルの地点に至ったとき、右舷船首43度2,450メートルのところに、チュ号の白、白、紅の3灯を視認したが、ちょうどそのとき、関門マーチスが同船の接近を報せようとして自船をVHFで呼び出して来たことから、同所とのVHF交信に気を取られ、チュ号の方位変化をレピーターコンパスで測定するなどの動静監視を十分に行わないまま続航した。
 そして、04時27分半C指定海難関係人は、台場鼻灯台から260度850メートルの地点に達したとき、チュ号が、ほぼ同じ方位のまま、1,050メートルのところまで接近して衝突のおそれがある状況となったが、依然として、動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、関門航路に沿って航行する同船の進路を避けることなく、関門第2航路へ向けて針路を310度に転じて同じ速力で進行した。
 こうして、04時29分C指定海難関係人は、チュ号の方位が明確に変化しないまま、同船から約350メートルのところまで接近したが、尚も同船の進路を避けることなく続航中、同時30分少し前至近に接近したチュ号との衝突の危険を感じ、急きょ左舵一杯としたが、効なく、ア号は、原針路、ほぼ9.0ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、チュ号は左舷船尾部外板に擦過傷を生じ、ア号は右舷側船尾ボートデッキを損壊した。

(航法についての考察)
 本件は、夜間、関門海峡において、関門第2航路へ向けて関門航路から航路外へ出ようとするア号と、関門航路に沿って航行するチュ号が、関門第2航路への分岐点付近で衝突した事例である。以下、関連航法について検討する。
(1)海上衝突予防法(第15条)
 チュ号及びア号両船の進路模様だけを捉えると、明らかな横切り関係であるが、両船とも関門航路に沿って航行中に見合い関係が発生したことから、同法第15条の「横切り船の航法」を適用して律することはできない。
(2)港則法(第14条)
 チュ号は関門海峡西口から関門航路に入航したのち、これに沿って 航行していたものであり、一方、ア号は同海峡東口から同航路に入航し、これに沿って航行したのち、関門第2航路へ向けて関門航路外へ出ようとしていたのであるから、「航路外から航路に入り、又は航路から航路外に出ようとする船舶は、航路を航行する他の船舶の進路を避けなければならない。」と規定される同法第14条第1項を適用して律するのが相当である。
(3)港則法施行規則(第41条)
 同施行規則第41条第6項に関門航路と関門第2航路を航行する船舶が出会うおそれがある場合の優先航行順位が規定されているが、両船とも関門航路に沿って航行していたことから、同施行規則第41条を適用して律することはできない。
 従って、本件は、港則法第14条第1項を適用して律することとする。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門海峡において、関門第2航路へ向けて関門航路から航路外へ出ようとするア号が、動静監視不十分で、関門航路に沿って航行するチュ号の進路を避けなかったことによって発生したが、チュ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 B指定海難関係人が、夜間、関門海峡を通峡する際、通峡を終えるまで自ら操船の指揮を執る責務があったにも拘わらず、自室のテレビで天気予報を見るため、一旦、C指定海難関係人に操船を委ねて降橋したことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、十分に反省していることに徴し、勧告しない。
 C指定海難関係人が、夜間、関門海峡において、関門第2航路へ向けて関門航路から航路外へ出ようとする際、関門航路に沿って航行するチュ号の動静監視を十分に行わず、同船の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、関門海峡においては、船長が操船を指揮すべきであったことに徴し、勧告しない。
 A指定海難関係人が、夜間、関門海峡において、関門第2航路へ向けて関門航路から航路外へ出ようとするア号が、関門航路に沿って航行する自船と衝突のおそれがある状況となった際、警告信号を行わなかったばかりか、機関を後進にかけて行きあしを停止するなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、十分に反省していることに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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