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平成15年門審第95号
件名

漁船仲吉丸貨物船No.27ケミキャリー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小寺俊秋、長谷川峯清、西村敏和)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:仲吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
仲吉丸・・・船首部を圧壊及び船首マストを倒壊
No.27ケミキャリー・・・右舷中央部外板に軽微な凹損を伴う擦過傷

原因
No.27ケミキャリー・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
仲吉丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、No.27ケミキャリーが、見張り不十分で、前路を左方に横切る仲吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、仲吉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月1日20時15分
 長崎県対馬下島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船仲吉丸 貨物船No.27ケミキャリー
総トン数 7.9トン 702トン
全長   72.98メートル
登録長 11.96メートル 68.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 240キロワット 956キロワット

3 事実の経過
 仲吉丸は、主としてはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、平成11年2月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、ぶりはえ縄漁の餌を獲る目的で、船首0.25メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、同14年11月1日16時40分長崎県対馬の高浜漁港を発し、同漁港東方沖合約8海里の海域に至り、イカ40キログラムを獲たのち、19時55分耶良埼灯台から081度(真方位、以下同じ。)9.0海里の地点を発進して帰途についた。
 A受審人は、発進すると同時に法定灯火を表示して操舵室右舷側に設置したいすに腰掛け、レーダーを3海里レンジで作動させ、針路をGPSの映像によって高浜漁港に直行する288度に定め、機関回転数を徐々に上げて毎分1,900にかけ、11.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 20時08分A受審人は、耶良埼灯台から074度7.2海里の地点に達したとき、左舷船首36度2.0海里のところに、No.27ケミキャリー(以下「ケミキャリー」という。)が表示する白、白、緑3灯を視認でき、その後同船の方位が変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、航行船舶の少ない海域であったことから付近に他船はいないものと思い、翌日のはえ縄漁の漁場や発航時刻について思いを巡らせていて周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かないまま続航した。
 こうして、A受審人は、20時13分ケミキャリーが同方位のまま1,030メートルまで接近したが、依然として見張り不十分で同船に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき、減速するなど衝突を避けるための協力動作もとらずに進行中、同時15分わずか前船首方に見えていた陸岸の灯火が同船の陰になり、突然見えなくなって異変を感じたが何をすることもできず、20時15分耶良埼灯台から067度6.2海里の地点において、仲吉丸は、原針路、原速力のまま、その船首がケミキャリーの右舷中央部に、前方から76度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、視界は良好で、対馬海峡に海上風警報が発表されていた。
 また、ケミキャリーは、ケミカル貨物の輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、大韓民国国籍の船長B、三等航海士C及び甲板長Dほか6人並びに中華人民共和国国籍の2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.4メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同日11時45分大韓民国麗水(ヨス)港を発し、関門海峡経由水島港に向かった。
 B船長は、18時50分対馬南端沖合に達し、針路を089度として関門海峡西口に向けたとき、北西の季節風による風浪とうねりを左舷方から受ける態勢となって横揺れが大きくなったことから、いったん対馬東岸に沿って黒島鼻沖合まで北上し、その後関門海峡の西口に向けるように予定針路を変更した。
 C三等航海士は、19時50分耶良埼灯台から111度3.5海里の地点で一等航海士から船橋当直を引き継ぎ、D甲板長を同当直の補佐に就け、法定灯火を表示して、針路を032度に定め、折からの風潮流の影響を受け1.5度右方に圧流されながら、033.5度の実効針路で、機関を回転数毎分350の全速力前進にかけ、10.8ノットの速力として、自動操舵により進行した。
 20時08分C三等航海士は、耶良埼灯台から075度5.2海里の地点に達したとき、右舷船首40度2.0海里のところに、仲吉丸が表示する白、紅2灯を視認でき、その後同船の方位が変わらず、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かないまま続航した。
 こうして、C三等航海士は、20時13分仲吉丸が同方位のまま1,030メートルまで接近したが、依然として見張り不十分で同船に気付かず、右転するなど同船の進路を避けずに進行中、ケミキャリーは、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、仲吉丸は、船首部を圧壊し船首マストを倒壊したが、のち修理され、ケミキャリーは、右舷中央部外板に、軽微な凹損を伴う擦過傷を生じた。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県対馬下島東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、北上するケミキャリーが、見張り不十分で、前路を左方に横切る仲吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行する仲吉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、長崎県対馬下島東方沖合を帰航のため高浜漁港に向けて西行する場合、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航行船舶の少ない海域であったことから付近に接近する他船はいないと思い、翌日の漁場や発航時刻について思いを巡らせていて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するケミキャリーに気付かず、警告信号を行うことも、減速するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、仲吉丸に船首部圧壊及び船首マスト倒壊を、ケミキャリーの右舷側外板に軽微な凹損を伴う擦過傷を、それぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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