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平成15年広審第94号
件名

油送船第十二いづみ丸貨物船インテグラ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志、供田仁男、西林 眞)

理事官
亀井龍雄

受審人
A 職名:第十二いづみ丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:インテグラ船長

損害
第十二いづみ丸・・・左舷船首部ブルワークに曲損等
イ 号・・・左舷後部に裂損等

原因
イ 号・・・狭い水道の航法(右側航行、衝突回避措置)不遵守(主因)
第十二いづみ丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、狭い水道の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、インテグラが、狭い水道の右側に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第十二いづみ丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月12日15時02分
 山口県大畠瀬戸西口南方
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船第十二いづみ丸 貨物船インテグラ
総トン数 749トン 3,283.00トン
全長 67.85メートル 94.945メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 1,801キロワット

3 事実の経過
 第十二いづみ丸(以下「いづみ丸」という。)は、船尾船橋型鋼製液化ガスばら積船で、A受審人ほか5人が乗り組み、液化プロパンガス610トンを載せ、船首3.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成15年5月12日12時10分山口県徳山下松港を発し、広島県広島港に向かった。
 A受審人は、出港操船に引き続いて単独で船橋当直に就き、鼻繰瀬戸及び平郡水道を経て、14時43分下荷内島灯台から247度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの地点で、針路を353度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、微弱な北流に乗じて13.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、大畠瀬戸西口に向けて進行した。
 ところで、平郡水道と大畠瀬戸西口との間は、西側の室津半島と、東側の南方から順に下荷内島、屋代島、野島及び笠佐島とに挟まれた南北6海里ばかりで、幅が1海里ないし2海里の狭い水道で、そのほぼ中央部に南方から安全水域標識である大畠航路第1号、第2号及び第3号各灯浮標(以下、大畠航路各灯浮標名については「大畠航路」の冠称を省略する。)が設置され、第2号灯浮標は、第1号及び第3号両灯浮標を重視する線より500メートルばかり西方に設置されていた。
 14時47分A受審人は、ほぼ正船首5.5海里のところに笠佐島の北方から現れたインテグラ(以下「イ号」という。)を初めて視認し、その視認模様から同船が左転中であることが分かり、その後同船が転針を終えて水道の左側を南下する態勢となって正船首やや左方に認めるようになった。
 14時55分A受審人は、第1号灯浮標の右方150メートルの、下荷内島灯台から334度2.6海里の地点で、針路を第2号灯浮標の右方150メートルばかりに向首する345度に転じたところ、水道の左側を南下しているイ号を正船首やや右方2.5海里ばかりに認めるようになったが、そのうち同船が右転して水道の右側に寄るものと思い、その動静監視を十分に行うことなく、船橋後部の海図台に向かって大畠瀬戸の水路状況の確認を始めたので、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、水道の右側に寄るよう警告信号を行うことなく続航した。
 14時59分A受審人は、右舷船首4度1.1海里のところに、依然として水道の左側を衝突のおそれがある態勢で接近するイ号を認めることができる状況であったが、海図台に向かったままその動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、右転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
 15時02分少し前A受審人は、ふと前方を見たとき、左舷船首至近にイ号の船首部を認め、急いで手動操舵に切替えて右舵一杯としたが効なく、15時02分柳井港東防波堤灯台から164度2.6海里の地点において、いづみ丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部がイ号の左舷後部に前方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はなく、付近には0.5ノットばかりの北流があった。
 また、イ号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、B指定海難関係人ほか15人が乗り組み、コンテナ貨物565.9トンを載せ、船首3.65メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、同日11時55分広島港を発し、大韓民国釜山港に向かった。
 B指定海難関係人は、第5号灯浮標付近から昇橋して操船指揮に当たり、二等航海士を見張り及び甲板員を手動操舵にそれぞれ就けて大畠瀬戸に向かい、大島大橋の下を通過して同瀬戸を西行し、14時45分柳井港東防波堤灯台から088度1,550メートルの同瀬戸西口に達したとき、航程を短縮するつもりで、水道の右側に寄って航行することなく、第3号灯浮標の左方に向けて南下を始めた。
 14時48分B指定海難関係人は、第3号灯浮標の左方250メートルの、柳井港東防波堤灯台から119度1,300メートルの地点で、針路を180度に定め、機関を全速力前進にかけ、微弱な北流に抗して9.5ノットの速力で水道の左側を進行し、このころ正船首やや左方5海里ばかりのところに北上するいづみ丸を初めて視認したが、依然として水道の右側に寄らなかった。
 14時54分半B指定海難関係人は、柳井港東防波堤灯台から155度1.5海里の地点で、針路を第2号灯浮標の左方300メートルばかりに向首する175度に転じ、同時59分左舷船首6度1.1海里のところに、衝突のおそれがある態勢で接近するいづみ丸を認めるようになったが、小型船は野島に接航することが多いのでいづみ丸もそのうち右転するものと思い、右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 15時01分半B指定海難関係人は、危険を感じて右舵一杯としたが及ばず、イ号は195度に向首したとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、いづみ丸は左舷船首部ブルワークに曲損等を、イ号は左舷後部に裂損等をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、安全水域標識が設置された平郡水道と大畠瀬戸西口との間の狭い水道において、南下するイ号が、水道の右側に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、北上するいづみ丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、安全水域標識が設置された平郡水道と大畠瀬戸西口との間の狭い水道を単独で船橋当直に当たって北上中、前路に水道の左側を南下するイ号を視認した場合、衝突のおそれの有無が判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち同船が右転して水道の右側に寄るものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、イ号が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、いづみ丸の左舷船首部ブルワークに曲損等を、イ号の左舷後部に裂損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、安全水域標識が設置された平郡水道と大畠瀬戸西口との間の狭い水道を南下する際、水道の右側に寄って航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことはいずれも本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、水道の右側を航行すべきであったと反省している点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。

参考図
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