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平成15年神審第73号
件名

貨物船第三大洋丸漁船第十八幸徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(田邉行夫、相田尚武、平野研一)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:第三大洋丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
C 職名:第十八幸徳丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第三大洋丸機関長
D 職名:第十八幸徳丸甲板員

損害
第三大洋丸・・・船首部外板に亀裂を伴う損傷を生じてフォアピークタンクに浸水、機関長が右肋骨骨折
第十八幸徳丸・・・船首部を圧壊

原因
第三大洋丸・・・見張り不十分、行会い船の航法不遵守
第十八幸徳丸・・・行会い船の航法不遵守

主文

 本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがあるとき、第三大洋丸が、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、第十八幸徳丸が、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月23日01時50分
 高知県甲浦港南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三大洋丸 漁船第十八幸徳丸
総トン数 198.33トン 187.39トン
全長   38.45メートル
登録長 49.71メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 第三大洋丸(以下「大洋丸」という。)は、主に鋼材の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人とB指定海難関係人の2人が乗り組み、鋼材50トンを積載し、船首1.20メートル船尾3.15メートルの喫水をもって、平成14年7月22日16時05分大阪港を発し、高知県高知港に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を自らとB指定海難関係人との単独3時間30分交替制とし、4年程前から大阪港と高知港間の航海を繰り返し、航行海域の漁船の操業模様及び船舶の通航状況についてよく知っており、平素からB指定海難関係人に、他船の動静に十分注意して航行するよう指示していた。
 また、大洋丸の船橋の舵輪後方には見張り用のいすと、同いすの後方右舷側には、座面高さが約40センチメートルの固定式長いすがあり、B指定海難関係人が同長いすに座ると、床面から1.3メートルの船橋前面窓枠下端部が、同人の眼の高さとなり、船首方を十分に確認できない状態となっていた。
 A受審人は、友ケ島水道を経て四国南東岸に沿って南下し、翌23日01時30分阿波竹ケ島灯台から104度(真方位、以下同じ。)6.9海里の地点に達し、B指定海難関係人に船橋当直を引き継ぐにあたり、十分な当直経験があるので大丈夫と思い、航海関係の海技免許を有しない同人に対し、船首方の見張りを十分に行うよう指示することなく降橋した。
 B指定海難関係人は、単独の船橋当直に就き、船首方を数隻の漁船が左方に替わっていくのを確認したのち、前示長いすに腰を下ろし、01時35分阿波竹ケ島灯台から114度6.6海里の地点において、法定の灯火を表示し、針路を218度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 01時44分B指定海難関係人は、阿波竹ケ島灯台から124度6.3海里の地点で、正船首方2.0海里に第十八幸徳丸(以下「幸徳丸」という。)の表示する白、紅、緑3灯を視認でき、その後真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近したが、船首方に他船はいないものと思い、前示長いすに腰掛けたまま、立ち上がって見るなど、船首方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かないまま、同船の左舷側を通過できるよう針路を右に転じる措置をとることなく続航した。
 01時50分少し前B指定海難関係人は、正船首方至近距離に幸徳丸の灯火を初めて視認し、船橋前面に立ち上がって見ると同時に衝突の危険を感じて急いで右舵一杯としたが及ばず、01時50分阿波竹ケ島灯台から133度6.3海里の地点において、大洋丸は、原針路原速力のまま、その船首部が幸徳丸の船首部に、ほぼ真向かいに衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、自室で寝ていたところ、衝撃を感じて直ちに昇橋し、事後の措置に当たった。
 また、幸徳丸は、活魚の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製漁船で、C受審人、機関長E及びD指定海難関係人ほか1人が乗り組み、活魚11トンを積載し、船首2.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成14年7月22日14時30分愛媛県深浦港を発し、神奈川県三崎港に向かった。
 ところで、幸徳丸は、愛媛県宇和島港を基地とし、四国及び九州の養殖地から、海水を満たした魚倉内に生かしたすずき、しまあじなどの魚を不定期で運搬し、航行中は、同倉内の海水温度の上昇を抑えるため、黒潮本流域を避け、海水を汲み上げるなどして、魚の様子に絶えず気を配る必要があった。
 C受審人は、船橋当直を自らと甲板員及びD指定海難関係人とその父親であるE機関長の2人ずつが4時間交替制をとることとし、7月22日23時00分室戸岬の西方10海里の地点において、D指定海難関係人及びE機関長に船橋当直を引き継ぐとき、平素から当直者に操船を任せているので、改めて注意するまでもないと思い、航海関係の海技免許を有しない両人に対し、他船が接近した際の報告について指示することなく降橋した。
 D指定海難関係人とE機関長は、黒潮の影響を避けるため、四国沿岸に沿って北上し、翌23日01時30分阿波竹ケ島灯台から160度7.4海里の地点に達し、法定の灯火を表示して、針路を038度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行した。
 01時41分両人は、阿波竹ケ島灯台から146度6.6海里の地点において、正船首方3.0海里に大洋丸の白、白、紅、緑4灯を初めて視認したものの、E機関長は、魚倉内の海水温度が上昇したことを知り、魚の様子を見るため前部甲板に降りた。
 01時44分単独当直となったD指定海難関係人は、阿波竹ケ島灯台から142度6.5海里に達し、正船首方2.0海里に大洋丸が接近するのを認めたが、そのことをC受審人に報告しなかった。
 その後、D指定海難関係人は、大洋丸が真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近したものの、用便のため船橋を離れ階下に降りたので、幸徳丸は、船橋が無人となり、大洋丸の左舷側を通過できるよう針路を右に転じる措置がとられず、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C受審人は、衝撃を感じて急ぎ船橋に赴き、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、大洋丸は、船首部外板に亀裂を伴う損傷を生じてフォアピークタンクに浸水し、B指定海難関係人が衝突の衝撃で右肋骨骨折を負い、幸徳丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、高知県甲浦港南東方沖合において、大洋丸と幸徳丸とが、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近中、大洋丸が、見張り不十分で、幸徳丸の左舷側を通過することができるよう針路を右に転じなかったことと、幸徳丸が、大洋丸の左舷側を通過することができるよう針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
 大洋丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、船首方の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、船橋当直者が、船首方の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 幸徳丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、接近する他船があった際の報告などについて十分に指示しなかったことと、船橋当直者が、船長に他船との接近状況についての報告を行わなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、高知県甲浦港南東方沖合を南下中、無資格者を単独で船橋当直に当たらせる場合、船首方の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、船橋当直者が十分な当直経験があるので大丈夫と思い、船首方の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者が船首方の見張りを十分に行わず、幸徳丸との衝突を招き、大洋丸の船首部外板に亀裂を伴う損傷とフォアピークタンクへの浸水を生じさせるとともに、幸徳丸の船首部を圧壊させ、B指定海難関係人に右肋骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、高知県甲浦港南東方沖合を北上中、無資格者を船橋当直に当たらせる場合、他船が接近した際には自ら操船指揮を執ることができるよう他船が接近した際の報告について指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、平素から船橋当直者に操船を任せているので、改めて注意するまでもないと思い、他船が接近した際の報告について指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から他船が接近した際の報告を受けられず、自ら操船指揮を執ることができないで、大洋丸との衝突を招き、前示の損傷等を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、高知県甲浦港南東方沖合を単独で船橋当直中、船首方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 D指定海難関係人が、夜間、高知県甲浦港南東方沖合を単独で船橋当直中、船長に他船との接近状況についての報告を行わなかったことは本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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