日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) >  衝突事件一覧 >  事件





平成15年神審第63号
件名

プレジャーボート日置丸プレジャーボート(船名なし)衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年1月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:日置丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:プレジャーボート(船名なし)乗組員

損害
日置丸・・・船首部に擦過傷
プレジャーボート(船名なし)・・・船体後部を切断して全損、乗組員が約1箇月半の入院加療を要する右大腿骨骨折

原因
日置丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、日置丸が、見張り不十分で、前路に錨泊するプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月4日09時10分
 兵庫県藤江漁港南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート日置丸 プレジャーボート(船名なし)
全長   2.30メートル
登録長 9.10メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 36キロワット  

3 事実の経過
 日置丸は、船体中央やや後部に操舵室を設けたFRP製プレジャーボートで、平成11年10月交付された一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が単独で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成15年5月4日09時00分兵庫県明石市大久保町八木浜を発し、明石港西方沖合の釣場に向かった。
 ところで、明石市江井ケ島港から藤江漁港に至る海岸線からその南西方沖合3,400メートルないし2,500メートルの海域は、海岸線沿いの距岸約300メートルの海域を除いて、のり養殖区画となっていた。当時、同養殖区画では、のり網自体は撤去されていたものの、のり網を取り付けるための縦175メートル横30メートルの長方形に展張された多数の枠綱が、枠綱同士の間隔をそれぞれ80メートル程度とり、発泡スチロール製浮標の取り付けられた四隅を錨で固定して設置されていた。また、同養殖区画内の枠綱と枠綱の間では、手漕ぎボートなど小型の釣舟が錨泊して、魚釣りをしていることもあった。
 のり養殖区画内は、のり養殖に関係する地元漁船以外の船舶が通航する海域ではなく、同養殖区画の状況を熟知している地元漁船は、枠綱や四隅の発泡スチロール製浮標を視認することができたので、設置されている枠綱と枠綱の間を通航することができたが、見張りを十分に行い、養殖施設や錨泊する小型釣舟に十分注意して通航する必要があった。
 A受審人は、陸岸とのり養殖区画の間の海域を同区画の北縁に沿って東航し、09時08分林崎港5号防波堤灯台(以下「5号防波堤灯台」という。)から311度(真方位、以下同じ。)1.50海里の地点に至り、針路を131度に定め、機関を前進全速力の15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として進行した。
 09時09分わずか過ぎA受審人は、5号防波堤灯台から311度1.19海里に達したとき、のり養殖区画を通り抜けて釣場に向かうこととし、徐々に右転を開始したが、転進方向の見張りを十分に行わず、右舷船首57度380メートルに錨泊しているプレジャーボート(船名なし)(以下「B号」という。)を認めなかった。
 09時09分半わずか過ぎA受審人は、5号防波堤灯台から307度1.09海里の地点で、のり養殖区画内に入って船首を208度に向けたが、左舷方で潮流によって西方に膨らんだ枠綱や浮標を気にして、依然、前方の見張りを十分に行わなかったので、錨泊中の形象物を掲げていないものの、船首から錨索を海面に伸出させて左舷を見せたまま移動していないことから、錨泊していることが推認できるB号が正船首方170メートルばかりに存在し、同号と衝突のおそれのある態勢となったが、このことに気付かず、同号を避けないまま続航した。
 09時10分5号防波堤灯台から302度1.08海里の地点において、日置丸は、原針路原速力のまま、その船首がB号の左舷後部外板に後方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮時であった。
 A受審人は、衝撃を感じ、後方に船体が分断されたB号と人影を認め、反転してB指定海難関係人を救助した。
 また、B号は、FRP製手漕ぎボートで、B指定海難関係人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首尾とも0.1メートルの喫水をもって、同日05時50分明石市藤江海岸を発し、藤江漁港南方沖合ののり養殖区画内の釣場に向かった。
 B指定海難関係人は、06時10分ごろには予定した前示衝突地点の釣場に到着し、先端に20キログラムほどの重りを付けた、径1センチメートル長さ15メートルほどのナイロンロープを船首から投入し、東からの潮に船首を立て、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、魚釣りを開始した。
 09時09分半わずか過ぎB指定海難関係人は、同地点で船首を128度に向け、船体中央で横に渡してある板に船尾方を向いて腰掛け、船尾から5本の釣竿を出していたとき、日置丸が左舷正横やや後方170メートルから自船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、このことに気付かないで魚釣りを続け、同時10分わずか前、左舷正横やや後方至近に迫った日置丸を初めて視認したものの、どうすることもできないまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、日置丸は船首部に擦過傷を生じ、B号は船体後部を切断して全損となり、B指定海難関係人が約1箇月半の入院加療を要する右大腿骨骨折などを負った。 

(原因)
 本件衝突は、兵庫県藤江漁港南方沖合において、南航中の日置丸が、のり養殖区画を通り抜けようとする際、見張り不十分で、前路に錨泊中のB号を避けなかったことによって発生したものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、兵庫県藤江漁港南方沖合において、のり養殖区画を通り抜けようとする場合、前路に錨泊中のB号を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、左舷方で潮流によって西方に膨らんだ枠綱や標識を気にして、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路に錨泊中のB号に気付かず、同号に向首進行して衝突を招き、日置丸の船首部に擦過傷を生じさせ、B号の船体を二つに切断させるとともに、B指定海難関係人に右大腿骨骨折などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。


参考図
(拡大画面:22KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION