(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月26日21時35分
和歌山県梶取埼南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船泰友丸 |
漁船生洋丸 |
総トン数 |
498トン |
14トン |
全長 |
64.41メートル |
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登録長 |
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13.86メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
102キロワット |
3 事実の経過
泰友丸は、主に液体化学製品の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、糖蜜720トンを積載し、船首3.0メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、平成14年12月25日20時10分京浜港横浜区を発し、兵庫県東播磨港に向かった。
A受審人は、航海当直を甲板長、一等航海士及び同人の輪番による3直4時間交替制としており、翌26日19時45分前直者から引き継いで、航海当直に就いた。
21時15分A受審人は、梶取埼灯台から084度(真方位、以下同じ。)4.1海里の地点において、針路を230度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、所定の灯火を表示し、自動操舵により進行した。
21時28分少し前A受審人は、梶取埼(かんとりさき)灯台から111度2.6海里の地点において、左舷船首20度2.0海里のところに生洋丸の白、緑2灯を初めて視認し、その後同船の動静を監視するうち、同時31分半梶取埼灯台から124度2.4海里の地点に達したとき、生洋丸が同方位1.0海里になり、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったものの、いずれ生洋丸が本船を避けてくれるものと思い、警告信号を行わず、更に間近に接近したとき、速やかに行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
その後A受審人は、注意喚起のつもりで船橋前面両舷の投光器4個を点灯して、依然生洋丸の避航動作を期待しつつ進行中、同時35分少し前至近に迫った生洋丸と衝突の危険を感じ、機関を中立としたものの効なく、21時35分梶取埼灯台から139度2.3海里の地点において、泰友丸は、原針路原速力のまま、その左舷中央部と生洋丸の船首部が前方から46度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力5の西風が吹き、視界は良好であった。
また、生洋丸は、まぐろはえなわ漁に従事する船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、平成13年7月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首1.2メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成14年12月15日08時00分宮崎県細島港を発し、翌16日18時00分潮岬南東方130海里の漁場に達し、南西方に移動しながら操業を続け、漁獲物8トンを得たのち、同月26日01時30分操業を終えて同岬南東方140海里の漁場を発し、水揚げの目的で、和歌山県勝浦港に向かった。
ところで、B受審人は、例年1月から6月までは九州南方沖合で、7月から10月までは三陸沖合で、11月及び12月は、紀伊半島南方沖合において操業を繰り返し、航海当直を乗組員全員の輪番による単独3時間交替制としていた。
21時00分B受審人は、梶取埼灯台から170度6.3海里の地点において、前直者と交替し航海当直に就いたとき、所定の灯火を表示し、針路を004度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。
21時31分半B受審人は、梶取埼灯台から146度2.6海里の地点に達したとき、右舷船首26度1.0海里のところに、泰友丸の白、白、紅3灯を視認できる状況で、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、左舷方で操業している多数の漁船の動静に気をとられ、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、泰友丸の存在に気付かず、速やかに右転するなど、同船の進路を避けることなく続航した。
その後、B受審人は、泰友丸が方位にほとんど変化がないまま更に接近したが、依然見張り不十分で、これに気付くことなく進行中、同時35分少し前入港準備のため甲板上に出て同船が目前に迫っていることを知った甲板長の叫び声で、右舷方至近に泰友丸のマスト灯を認めたが、どうすることもできず、生洋丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、泰友丸は、左舷中央部外板に凹損並びに同部ハンドレール及びエアー抜きパイプに損傷を生じ、生洋丸は、船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、和歌山県梶取埼南方沖合において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれがある態勢で接近中、生洋丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る泰友丸の進路を避けなかったことによって発生したが、泰友丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、和歌山県梶取埼南方沖合を勝浦港に向けて北上する場合、接近する他船を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、左舷方で操業している多数の漁船に気をとられ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、泰友丸の存在に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して泰友丸との衝突を招き、泰友丸の左舷中央部外板に凹損並びに同部ハンドレール及びエアー抜きパイプに損傷を、生洋丸の船首部に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、和歌山県梶取埼南方沖合を西行中、左舷方の生洋丸が、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で、自船の進路を避けないまま間近に接近するのを認めた場合、速やかに行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、いずれ生洋丸が自船を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して生洋丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。