(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月18日02時00分
兵庫県柴山港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船大仁丸 |
総トン数 |
59.10トン |
登録長 |
25.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
308キロワット |
3 事実の経過
大仁丸は、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか5人が乗り組み、かに漁の目的で、船首1.2メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成15年2月14日14時00分兵庫県柴山港を発し、翌15日03時00分隠岐諸島北西方30海里ばかりの漁場に至り、約59時間の操業で、松葉がに約1.3トンを獲たのち帰途に就いた。
ところで、大仁丸では操業中、甲板員は全て甲板作業に携わり、投網に約20分、曳網に約1時間、揚網に約30分かかる一連の操業を5分ないし20分の移動時間を挟んで2昼夜連続で28回程繰り返していたので、甲板員の睡眠時間は曳網中の作業のない約30分間を小刻みにとれるだけであった。A受審人は、B指定海難関係人も同様であったので、同人が帰港時には疲労が蓄積していたうえに、睡眠不足の状態であったことを十分承知していた。
同月17日14時15分A受審人は、北緯36度38分東経132度46分の地点で、針路をGPSプロッターに向首目標として入力してある柴山港西外防波堤東端に向かう122度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけ、9.3ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
17時00分A受審人は、隠岐諸島の島後島北方沖合に達したころ、船橋当直を甲板員に行わせることとしたが、2時間毎に交替するので大丈夫と思い、居眠り運航とならないよう、2人当直にするなどの適切な当直体制をとることなく、自らを起こす時刻についての申し送りをして単独での船橋当直を引き継ぎ、船橋後部の海図台下のベッドで横になって休息した。
B指定海難関係人は、18時ごろ夕食をとったのち就寝し、23時00分余部埼灯台から310度22.8海里の地点で、疲労が完全に抜けきれず、眠気を感じながら単独の船橋当直に就いた。
B指定海難関係人は、時々船橋内を左右に移動して窓から顔を出すなど、眠気を覚ましながら当直を続け、翌18日00時30分余部埼灯台から323度9.2海里の地点に至り、A受審人を起こすまであと30分であることを確認してほっとしたものか、その後いつしか居眠りに陥った。
こうして、大仁丸は、同じ針路速力で続航し、02時00分柴山港灯台から033度450メートルの柴山港西外防波堤東端に衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目を覚まして昇橋し、事後の措置に当たった。
衝突の結果、船首部外板及び船首楼甲板を圧壊したが、のち修理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、隠岐諸島北西方漁場から兵庫県柴山港へ向け帰港中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港西外防波堤東端に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、隠岐諸島北西方漁場から兵庫県柴山港へ向け帰港中、甲板員に船橋当直を行わせる場合、甲板員が2昼夜連続の操業で疲労が蓄積し、睡眠不足の状態であることを承知していたのであるから、居眠り運航にならないよう、2人当直にするなどの適切な当直体制をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、2時間毎に交替するので大丈夫と思い、適切な当直体制をとらなかった職務上の過失により、単独で船橋当直中のB指定海難関係人が居眠りに陥り、柴山港西外防波堤東端に衝突する事態を招き、船首部外板及び船首楼甲板に圧壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。